第5話 『お願い…助けて…!』

キャラクター

莉子(Riko):20代女性。几帳面で完璧主義。

悠人(Yuto):20代男性。莉子の彼氏。穏やかで優しい。


場所

高速道路のパーキングエリア駐車場(渋滞でやっと辿り着いた)


SE:車のエンジン音が、重々しく止まる音。

PAの賑やかな環境音(人の話し声、車の行き交う音、

自動販売機の音など)が遠くで微かに聞こえる。

車内に、莉子の激しい呼吸音と心臓の鼓動だけが、

大きく「ドクン、ドクン」と響き渡る張り詰めた無音。


ト書き:悠人が車をPAの駐車場に停め、

慌てて莉子の体を優しく揺り起こす。

莉子の意識が次第に回復してくるが、

まだ膀胱の切迫感による苦痛で体が小刻みに震えている。

目を開くと、悠人が心配そうな顔で自分を覗き込んでいた。

膝がガクガクと震え、座り込む寸前だ。

顔は真っ赤に上気し、額には脂汗が滲んでいる。

口元はひきつり、視界が歪んでいる。

太ももに力が入らず、体が崩れ落ちそうになる。

股間を両手で強く押さえ込む。太ももをクロスさせ震えている。

呼吸困難に陥り、喉が詰まり、口から唾液がわずかに漏れる。

両目からは、とめどなく涙が溢れ落ちる。


莉子「(嗚咽混じりに、喉が詰まりながら、半狂乱で、叫ぶように)

お願い…もうムリ…お願いだから…早く止めて…お願い…っ!

漏れる…もう、ダメ…っ!

もう、無理!出ちゃう!

うぅ…うわあああん!」


SE:莉子の泣き叫ぶ声。激しいすすり泣き。

莉子の心臓の鼓動が、激しく、不規則に「ドクン、ドクン、ドクン」と鳴り響く。

莉子の体が、激しく震える衣擦れの音。

莉子の喉の奥から、苦しげな「ヒュッ」「キュッ」という、

膀胱の収縮のような音が混じる。

鈴のキーホルダーが、莉子の震える手に握られ、

チリン、と静かに、しかし力強く鳴る。

息づかい・股の擦れる音・服の衣擦れSEを最大限活用。

莉子の体から、冷たい汗が流れ落ち、シートに染み込む音が微かにする。

莉子の嗚咽が止まらず、口から泡が漏れるような、生々しい音。


悠人「(莉子の激しい様子に、一瞬言葉を失い、息を呑む)

……莉子、大丈夫だよ……。莉子、我慢しなくていい……。

もう、無理しなくていいんだよ……。(声を震わせながら)」


ト書き:悠人が莉子の体を優しく、しかし確かな力で抱きしめる。

莉子は悠人の胸に顔を埋め、さらに激しく泣き続ける。

莉子の服が、莉子の涙と汗で濡れていく。

莉子の膝の震えが、わずかに落ち着く。

下腹部をぎゅっと押さえつける手が、少しだけ緩む。

悠人の「大丈夫、もうすぐだから」という言葉は、

今の莉子には、逆に耐えられない。


莉子「(嗚咽混じりに、喉が詰まりながら、叫ぶように)

お願い…助けて…お願いだから…早く止めて…お願い…っ!

漏れる…っ!うぅ…うわあああん!

なんで…なんでこんなことに…!

全部あんたのせいやろ…っ!

なんで、なんで、気づいてくれへんかったん…!」


SE:莉子の悲痛な叫びが車内に響き渡り、直後に重い沈黙が訪れる。

悠人が、莉子の激しい反応に驚き、息を呑む音。

莉子の声が、か細く、しかし確かに悠人に届く。

その瞬間、莉子の心の中で、何かが音を立てて崩れる。

それは、完璧であろうとしたプライドの堰が切れた音。

悠人が静かに、しかし強く莉子の肩を抱く。

莉子は体を震わせながら、ようやく全てを委ねるように、

悠人の肩にあずける。涙が静かにこぼれる。

莉子の嗚咽が、少しずつ収まっていく。


悠人「(莉子の頭をそっと撫で、深く息を吐き出す。

彼の声に、わずかな後悔と、それでも受け止める決意が滲む)

よし、よく言えたね、莉子。

もう大丈夫だよ。俺がちゃんと連れてってあげるからね。

本当に…漏れてもいいから…

助けてって言ってほしかったんだ…。

怒ってもええ。全部出してええからな。俺は、ここにいるから。」


ト書き:悠人の言葉に、莉子の泣き声が少しずつ収まる。

視界が涙で歪んでいるが、悠人の顔が、

これまでになく優しく、そして頼もしく見える。

莉子の膝の震えが、少しだけ落ち着く。


莉子「(か細く、しかし決意を込めて、顔を上げる。

ここで初めて彼に泣きながら、心の全てを打ち明ける)

…うん…悠人…ごめんね…本当に、迷惑かけちゃって…

私、最低だ…こんな姿…

もう見せたくなかったのに……でも……

でも、お願い、ここにいて……っ。」


悠人「気にしなくていいよ。それより、水飲めるか?ゆっくりでいいからね。

焦らなくていいから、まずは落ち着こう。」


SE:ペットボトルの水を、莉子が震える手で「コクッ」と飲む音。


ト書き:莉子、ゆっくりと水を飲む。悠人の優しい眼差しに、

莉子の心に張り巡らせていた「完璧な自分」の殻が、

ガラガラと崩れていく音が聞こえるかのようだ。

莉子の手から、鈴のキーホルダーが滑り落ち、

シートの上で微かにチリンと鳴る。


悠人「莉子は莉子のままでいいんだよ。

俺、莉子のことならどんなことも心配したいし、

助けたいと思ってる。

だから、もう無理に隠したりしないでほしいんだ。

どんな莉子も、俺は受け止めるから。」


ト書き:悠人の「どんな莉子も受け止める」という言葉が、

莉子の心を完全に解き放つ。

莉子の目から、再び涙が溢れ出すが、それは安堵の涙。

その涙は、悠人の手のひらに落ちていく。


SE:莉子の静かなすすり泣き、悠人の服の微かな衣擦れ。

悠人が莉子の背中を優しく撫でる音。

PA構内を歩く足音(混雑しているが、二人の足音はしっかり聞こえる)。

遠くから自動販売機の音が聞こえる。


ト書き:PAの多目的トイレへと向かう二人の後ろ姿。

莉子の顔に、ようやく笑顔が戻る。

羞恥心は残るが、悠人が全て受け止めてくれたことで、

心は軽くなっている。

莉子の足取りはまだ覚束ないが、悠人に支えられ、

一歩一歩進む。

下腹部を抱え込むような仕草は残っているものの、

その表情には、少しだけ希望が宿っている。


(フェードアウト)

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