40.アルティメットウォータードラゴン
「おーい、天熾。天熾」
「ぅうー……ん……むにゃ……」
「起きな。噴水の修理終わったよ」
「はい⁉︎」
二日目。昼前。天熾家客間。
「ぶ、ちょうさん?」
「おはよ。よく寝てたな」
「は、ぇ、そうだ、昨日、僕、花火してて、それで」
「急に電池が切れたみたいに寝ちゃってたね。可愛かったよ」
「律先輩がお姫様抱っこで運んでくれてたぞ。運のいい奴め」
「わわっ、すみません……!」
「へび花火とか面白かったのにな」
「あれ完全にウンk」
「三上くんそれ以上はいけない」
汚い言葉を発そうとした後輩の口を氷月が止めた。
「朝ごはん食べてから水遊びしよう」
「まだだったんですか? ごめんなさい、僕が寝坊したから……」
「や。俺たちも今起きた。部長が特別早起きしてただけ」
「本当ですか? 三上くん」
「ヴッ! やめろ心臓に悪い」
「私が『三上くん』って呼んでもそんな反応しないのに」
「律先輩の『三上くん』は王子様のそれじゃないすか。佑宇の『三上くん』はガチなんすよ。なんかこう、色々と」
「三上ー、じいやさん待ってるよ。朝ごはん食べに行こう」
「はい部長!」
氷月と天熾が顔を見合わせる。
「……行っちゃったね。私たちも行こうか。お手をどうぞ、眠り姫様」
「もう寝落ちしませんから。それエスコートっていうより抱っこの態勢じゃないですか」
「可愛いを全身で浴びたい。願わくばもう一度。さあ、さあ!」
「運んでもらったのにはお礼言いますけど。人によっては警察来ますよそれ」
・・・
「くらえ! アルティメットウォータードラゴン!」
「ネーミングセンスがダサい上に破壊力だけ抜群⁉︎」
朝食後。噴水前。
久野の構えた水鉄砲で頭から足までびしょ濡れになった三上が叫ぶ。
「さあ……次に僕の
「昼ドラみたいに略さないでしぃちゃん」
「ドロドロしてそうです」
「僕渾身の改造水鉄砲をくらえ。全員びしょ濡れになって風邪を引くがいい」
「しぃちゃんそれ中学生の時に丸々一週間かけて作ってたやつでしょ。結局一回の放水でタンク空になっちゃうから使わなくなったやつ」
「ところがどっこい、修理ついでに噴水から水源を借りたんだ。これで無敵」
「だから部長が修理なんてヤバいと思ったんだ!」
「水道代はあとで払うね」
「それくらいは構わないんですけどこっちに銃口を向けないでくださいうわあ!」
例外はいなかった。天熾も氷月も全員びしょ濡れである。
「くそ、メイクが」
「うう、前髪が」
「お二人ともそれ以外は文句ないんですか」
「ないね」
「涼しいしな」
「誰かが部長さんを叱らないとそのうち世界侵略とかやりだしますよ」
「そうだねぇ」
「やりかねないな」
「なら本気で止めてくださいよ⁉︎」
「でもしぃちゃん可愛いし……」
「俺、部長の顔が一番好きなんだよな……」
でろ甘保護者しかいなかった。
「諦めな天熾。ここにいる全員僕の味方だ」
蝶よ花よと愛でられぬくぬく育った末っ子気質(先輩)が天熾の前に立ち塞がる。手には相変わらず改造水鉄砲。
「大人げないですよ」
「本質を突かないでほしい」
「自覚はあるんですね」
天熾が指をぱちんと鳴らす。どこからともなく現れるじいや。恭しく差し出されたアタッシュケースが開かれる。
「なんだその装備がゴテゴテついた水鉄砲!」
「部長さんが技術にものを言わせるなら僕だって金にものを言わせますよ」
「おい待てきみ金持ちキャラ扱い嫌がってなかったか⁉︎」
「必要な時に惜しみなくお金を使うのが天熾家です」
「汚い!」
非難した久野だったが、先に汚い極悪装備を出したのは久野だ。
「ふふ。汚い金持ちの威力を味合わせてあげますよ」
「くっ……こっちだって意地汚い年上の力を見せてやる」
「真水が汚水になりそうっすね」
「ケルヒャーで一掃できないかな」
観客に回った氷月と三上が、頭から濡らされながら汚れた争いの行方を眺めている。
決着はまだ先のようだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます