初戦終わりて

『敵性排除完了。ランカー《カイ》、作戦結果:適合』

『――次の迎撃に備え、プロファイルを更新します』


そして「メビウス」より国民へ発令された内容は誰もが耳を疑った

『これより国家メビウスは戦争状態へ移行します』

『各国民は戦時に備えるように希望します』


筐体から降りたばかりのカイは周りの喧騒を聞く

「あれ、本当の戦争ってこと?」「やば……俺、次の試合出るんだけど……」「記録更新できたらボーナスあるのかな?」


カイは、自分の耳に入ってくる“普通すぎる声”に震えた。


実戦を終えた手の震えと、足元の不安定さが告げていた。

―――違和感

それが言い知れぬ恐怖の答えだと感じた。


カイを含むランカーたちは招集され『メビウス』からの指令(言葉)を待つ

説明はあるのか、それとも死んで来いとの言葉なのか、ざわつく心を誰も隠せない、もちろんカイもその一人だ。


隣の男が小さく笑った。

「まあ、俺らなら勝てるってことでしょ」

その言葉に何人かがうなずく。うなずける。それが普通だ。

けれど、カイの胸の奥では別の何かが叫んでいた。


(……違う。違う、これは……)


だが、その叫びは声にならなかった。


逡巡する考えが纏まらないまま放送が始まった『メビウス』からの声だ。

相変わらず無機質に、だが優しさを持った聖母のような声色……

そう思っていた、カイを含め全ての人が、その声が言い放った。


『ランカー各位──敵性勢力の侵攻パターンを解析完了、推奨排除ルートを送信』

『現時点をもって、ランク上位者は即時実戦従軍対象と認定します』

『戦果に応じて報酬は自動配分、ご武運を』


―――沈黙。


拍手も、怒声もない。ただ、各自の足音が、控え室を蝕むように響いた。

足音に混じって、小さく何かが床に落ちる音がした。

見れば、手元からこぼれ落ちたのは一片の感覚増幅剤――震える手がそれを拾おうとしたが、思うように握れなかった。

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