Log of Valkyrie_07_02-331.psc

 アスガルドの重力は未だに健在らしい。残骸となった今も、数多のスペースデブリと、その陰に身を寄せるならず者たちを引き付けてやまない。

 そして、共和国の警邏部隊も。


「目標確認、数六」エリスはコクピットから仲間に通信を発した。「作戦を開始する」

 彼女は人型兵器クレイドールを駆る帝国親衛隊ワルキューレの隊長だった。彼女専用の最新鋭クレイドール、フレイヤを中心に五機のクレイドールが隊列を組んでいる。

「オーケー、隊長」ノラが舌なめずりと共に応答する。「あんな旧型瞬殺しちゃうよ」

「油断すんなよ」アンネが釘を差す。

「解ってるって。じゃあ、行くよ!」

 ノラのクレイドール、試作型フレイヤ二号機が警邏隊に向かって突っ込んでいく。

「あのバカ!」

「あのぉ、隊長ぉ」リゼが舌っ足らずな声で尋ねる。「どうしますぅ?」

「仕方がない。わたしたちも続くぞ。ヒルダもいいな?」

「はいはーい」気のない返事を聞きながら、エリスたちはノラに続く形で警邏隊に突っ込んでいった。


 共和国軍の紋章である金獅子を右肩にあしらったクレイドール、ダビデがこちらに気づいた。ビームライフルで応戦してくる。


「奴らの母艦はどこだ」アンネが問う。

「どーせ、デブリ帯の外でしょ」ヒルダが答える。「デブリのトンネルは戦艦には狭すぎるからね」


 先の戦争で残骸となったスペースコロニー、アスガルドの重力発生装置は未だに稼働し続けている。その干渉を受けながら、デブリ帯の中を探索するには戦艦は余りに大きすぎる。小回りの利くクレイドールが警邏に出ざるを得ないという訳だ。


「援軍に来られると厄介だ」エリスは言った。「デブリ帯の中で仕留める」

「了解」


 エリスたちは散り散りとなり、デブリとビームの雨を掻い潜りながら、警邏隊に接近する形となった。

 フレイヤ及び試作型フレイヤは「拡張身体」をコンセプトとした第七世代型のクレイドールだ。マニュアル操作の旧世代型クレイドールとは比較にならない反応速度と、繊細な機体制御能力を兼ね備えている。


「貰ったあああ!」ノラが叫ぶ。彼女はデブリを盾にレーザーを避けながら、アクロバティックな動きで警邏隊の一機に接近し、ビームアックスでレーザー銃を切り落とした。慌てて、腰にマウントしたビームサーベルを抜いたダビデだが、そのビームサーベルが用を果たすより早く、ビームアックスがその胴体を袈裟切りにした。ノラ機が素早く離れ、程なくして爆発が起こる。

「まずは一機」ノラは続け様にダビデへと接近する。応戦しようとライフルを向けるダビデだが、デブリの陰から現れたヒルダ機がその胸部を撃ち抜いた。

「うわっ」爆風に煽られたノラが悲鳴を上げる。「ちょっ、ヒルダ! 撃つなら言ってよ」

「めんごめんご」ヒルダは反省した風もなく言う。「さあ、残りもちゃっちゃと片付けちゃいましょ」


 敵機は残り四。五対四の構図になった。劣勢を悟った敵機はデブリ帯の出口に向かって少しずつ後退を始めた。


「あのぉ、逃げないでくださぁい!」リゼは大盾でレーザーを防ぎながら、勢いよくダビデに突進していった。そのまま体ごとぶつかり、敵機が仰け反った瞬間に、盾の陰に隠し持っていたレールガンをゼロ距離で接射した。それとほぼ同時に、敗走を決め込んだ敵機をアンナのビームライフルが襲った。敵機はビームを避けたはいいものの、その勢いのままデブリに衝突、爆散した。


「指揮官機はわたしが抑える」エリスは指揮官機と切り結びながら言った。「もう一機を逃がすなよ」

「了解」


 ネイビーのダビデがフレイヤのサーベルを避け、逆に切りかかってくる。指揮官機なだけあって、しぶとい。エリスはサーベルを盾で防いだが、それと同時に敵機が蹴りを入れてきた。


「くっ!」

 コクピットが揺れ、敵機との距離が離れる。敵機はいつの間にかライフルに持ち替えており、こちらに照準を合わせていた。


 まずい。


「エリス!」

 自分の名を呼ぶ声に、エリスははっとしたように身を動かし、ビームをすんでのところで交わした。

「姫様!」通信に応える。エリスの主君たる皇族の末裔――「ローザ姫殿下」に。

「エリス、大丈夫?」

「ええ。ご心配には及びません」エリスは応えた。コクピット内に設えられたライフルのトリガーを握る手に力が入る。「このエリス・ミュラーの辞書に敗北の二文字はございません」

「ええ、でも気を付けて。貴方は軍人である以前にわたしのメイドなのだから。無事に帰ってきて。そして、またお茶を淹れて」

「イエス・ユアハイネス!」


 エリスは敵機と激しい銃撃戦を繰り広げながら叫ぶ。この距離では千日手だ。そう判断したエリスは敵頭上のデブリに腕部のワイヤーアンカーを射出した。ワイヤーを巻き取り、機体を一気に敵の頭上に移動させる。意表を突かれた敵機に一瞬の隙が生まれるのを、エリスは見逃さなかった。サーベルで頭部を撥ね、視界を失った哀れな土人形が藻掻くのをよそに後退、ライフルの一撃を見舞った。


「隊長、こっちは終わったよ」ニナが通信してきた。

「ああ、こちらも終わった。母艦は見つけたか?」

「四時の方向にサムソン級が一隻。向こうもたぶんこっちを補足してるよ」

「こっちの母艦が見つかるのは避けたい。援軍を呼ばれる前にここで落とすぞ」

「そう来なくっちゃ」




 エリスはたまに「夢」を見る。彼女が「前世の記憶」と認識しているものだ。

「前世」のエリスは、帝国の戦災孤児だった。腐敗した帝国を打破しようと決起した革命軍のクーデターに巻き込まれ、両親を失ったのだ。貴族の娘だったエリスは帝国軍の庇護の下に置かれ、戦乱の故郷を後にすることとなった。彼女が帝国軍に志願するのはその翌年のことだ。

 エリスが暮らしていたアスガルドを舞台とする抗争は長きに渡り、遂には革命軍が占領するに至った。敗走した皇帝はアスガルドの破棄を決定し、月面基地から戦略核兵器を発射、捕虜として囚われた帝国軍人、収監された貴族たちもろとも宇宙の藻屑と変えたのだった。星暦三三一年。皇帝が革命軍に拘束され、銃殺刑に処される三年前の出来事だった。

 エリスは皇帝が銃殺刑に処されるまでの間、クレイドールのパイロット――アレフとして革命軍と戦い続けた。多くの敵を屠り、多くの味方を失った。それだけは覚えている。しかし、自分がどの様な最期を迎えたのかは思い出せない。そこまでは夢で見ることができない。


「エリス?」


 エリスは主君の声にはっと我に返った。目の前にローザ姫殿下の顔がある。陶器のように白い肌に薔薇色の頬、翡翠色の瞳に蜂蜜色の髪。齢一四の少女でありながら、次期皇帝の座が約束された帝国の姫君だ。


「申し訳ありません。わたしとしたことが居眠りを」

「いいのよ。ほんの一瞬だったから」


 エリスは戦艦ヴァルハラの娯楽室で主君に給仕していた。娯楽室はホログラムによって様相を自由に変化させることができる。今は、緑に覆われた白い四阿の映像が投影されており、優雅で古典的なアフタヌーンティーを演出している。


「先日の作戦は大変だったでしょう。敵機六機に戦艦一基。大した戦果だわ」

「勿体ないお言葉です」

「フレイヤの操作には慣れたかしら」

「ええ、大したものです。ベルゼルケルシステムは」


 ベルゼルケル。ゲルマン神話に登場する、熊の皮を被った凶戦士。フレイヤ及び試作型フレイヤは人工筋肉とミスリル合金の鎧だ。戦闘機やロボットの延長線上にある旧世代型クレイドールとは一線を画す。フレイヤは文字通りの鎧であり、凶戦士が纏う熊の皮なのだ。


「クライン博士がこちらに付いてくれたのは僥倖だったわね」

「ええ。氏の尽力がなければ、こうしてゲリラ活動を繰り広げることもできなかったでしょう」

「……エリス。貴方はこの戦いの先にどんな未来を描いていて?」

「未来……ですか」

「ええ。率直に言って、この戦いには先が見えない。こうして細々とゲリラ活動を続けるのが精々。共和国の体制をひっくり返すことはおろか、帝国の独立政権を樹立することすら困難と言わざるを得ない」

「ですが……」エリスはティーカップの柄を強く握った。

「ああ、御免なさい。何も、貴方たちの作戦が無駄だと言ってるんじゃないの。ただ、貴方たちの命を握る立場として、わたしはなるべく率直でありたい。まやかしの希望で貴方たちを死地に送りたくないの」

「しかし、わたしたちが戦いを拒んでも共和国は追ってくるでしょう」

「ええ。わたしたちはわたしたちの居場所を自力で作らないといけない。でも、その居場所はほんのささやかなもので構わないのよ。この艦のみんなで穏やかに暮らせる程度の広さで、わたしには十分」

「姫様」

「これは艦長には内緒よ」

「ええ、二人きりの約束です」


 シルクの手袋に覆われた小指で指切りを交わした。その瞬間、艦内放送がかかる。


『ワルキューレ隊は作戦室に集合してください』




「次の作戦、何かノらないなあ」アレフの控え室で、ヒルダが呟いた。「これまではさ、解るんだよ。共和国にささやかな嫌がらせをしつつ、実戦データを取る。その結果として、隊長のフレイヤが完成した訳だしね」

「何が言いてえ」

「別に。あたしたちって何なのかなあってだけ」

「姫様の剣にして盾。誇り高き親衛隊ワルキューレだ。それ以外に何がある?」

「だから、それが何なのかって話」


 ――此度の貴様らの任務は、共和国内の協力者と共にコロニー、ミドガルドの宇宙港を制圧することだ。

 ――はぁ? ミドガルドって中流層の居住コロニーでしょ。軍事的価値があるとは思えないんだけど。

 ――たしかにその通りだ。しかし、それは裏を返せばコロニーとしては共和国側の警戒が薄いとも言える。

 ――協力者の手を借りれば、わたしたちでも落とせるかもしれない、と?

 ――ああ。ミドガルド内部の協力者たちがコロニー内の基地を制圧する手筈になっている。貴様らにはそれを待って動いてもらう。

 ――へえ、帝国がそこまで入り込んでるとはねえ……

 ――元々、ミドガルドは先の革命戦争とは無縁なコロニーだ。帝国側と直接戦火を交えたことはない。住民の大半が、よく解らないまま帝国民から共和国民になったことだろう。

 ――つまりぃ、帝国への敵意は薄い……何なら、帝国に親和的な人も多いってことですかぁ。

 ――ああ、我らが拠点を築くにはもってこいの場所だ。しくじるなよ。この作戦次第で我々の命運は大きく左右されるのだからな。


「ミドガルドを掌中に収められれば、我々が拠点を築く足掛かりになる」エリスはヒルダに言った。「わたしたちの居場所を築く足掛かりに」

「居場所、ですかぁ?」

「ああ、みんなで穏やかに暮らせる場所だ」エリスは言った。「いいか、みんな。これはチャンスだ。姫様は我々に期待していらしている。わたしたちの力があれば、ミドガルドを制圧できる、と」


 エリスは士気を高めるべく声を張り上げた。「我らが帝国の為に」


 ノラは楽し気に、アンネは威勢よく、リゼは弱気ながらもおずおずと続いた。そして、ヒルダがやる気を欠いた調子で続く。




 ヴァルハラは共和国の警戒網に引っかからないよう幾重にも迂回しながらミドガルドを目指した。待機地点となる小惑星の陰に辿り着いたのは、出発から八日後のことだった。


「フレイヤ……」エリスは愛機を見上げながら、その名を呼ぶ。帝国を象徴する熊の紋章が右肩に刻まれた、白亜の鎧。

 コクピットに乗り込み、OSを起動させる。コンソールパネルにヘブライ文字が浮かび上がった。

 מת――ヘブライ語で「死」を意味する二文字だ。

 パイロットが生体認証を行うことで、אが加わり、「真理」を意味するאמתとなる。そうしてこの泥人形は起動する。故にパイロットはאアレフと呼ばれる。


「エリス、フレイヤ出ます」掛け声と共に、フレイヤはデッキから発進した。ヴァルハラの周囲で待機する形となる。


「僕らの他にも、帝国の援軍が来るんだよね?」

「ああ」

「でもぉ、どこにいるんですかぁ」

「大まかな座標は貰っているだろう。我々と同じように、デブリの陰に隠れているはずだ」

「ホントかなあ……」

「ヒルダ」エリスは声を掛けた。「今回の作戦に随分と消極的だな」

「そりゃ、死にたくないもん」

「我らが負けるとでも?」

「艦長が言う通りなら、負ける道理はないんだろうけどね」


 含みがある言い方だ。エリスが咎めようとしたその時――


「敵機接近!」ヴァルハラから通信が入った。「数――三〇機以上! 後方にゴリアテ級の母艦あり!」

「はあ!? なんでいきなり!?」

「ヴァルハラ、状況はどうなっている!? ミドガルド内の基地とは連絡が取れないのか!」

「連絡ありません! 現在、ミドガルド内の放送を受信中――出ました! これは――」

「こっちにも転送しろ!」


 モニターに、ミドガルド内のテレビ放送が映される。緊急ニュースだ。ミドガルド内の基地で反乱が起きたこと。民間人に被害が出たこと。現在は共和国軍が制圧しつつあることが報道されていた。


「話が違う!」アンネがコンソールパネルを殴りつた。

「だから嫌だったのに」ヒルダは呟いた。

「ど、どうしますぅ?」

「やるしかないだろう。ワルキューレ隊、続け」




 それは無謀な戦いだった。何が起こったのかもわからないまま、エリスたちは宇宙を駆けた。


「ヴァルハラを落とさせるな!」エリスは叫んだ。敵機の背後を取り、撃ち落とす。切り伏せる。その繰り返しだ。仲間と連携し、他の敵機への警戒も怠らずに。


「隙あり!」

「バカ! ノラ! 後ろだ!」

「え!?」


 一瞬だった。試作型二号機の胴体をビームが貫き、虚空に花火を咲かせる。


「クソっ! ノラ!」


 孤立したアンネががむしゃらに敵機を乱れ撃つ。しかし、その何倍ものビームが降り注ぎ、アンネ機を蜂の巣にした。


「どう思う?」ヒルダが背中合わせに尋ねてきた。「隊長さん」

「何がだ」

「この作戦。罠としか思えない」

「罠? しかし誰の?」

「ミドガルドを含めた共和国――或いは――」


 それ以上話している余裕はなかった。大挙して押し寄せる敵機に応戦しつつ、ワルキューレの後退を援護する。


「はわぁぁあああ」リゼの断末魔が響く。


 もう残るはエリスとヒルダの二人だけだ。


「ねえ、このまま二人でトンズラできないかな」

「ヴァルハラを見捨てる気か」

「それで助かるならそうしたいけどッ!」ヒルダ機が右腕に被弾する。「くっそおおお!」

「おい、ヴァルハラ!」エリスは叫んだ。「援軍は何をしている!」

「シグナル確認できません!」

「やっぱりこれって、帝国の――」


 ヒルダが言った。次の瞬間、ヒルダ機に向かって三機のダビデが突進し、サーベルで串刺しにした。


「くそっ、みんな」エリスは独り言ちた。「どうなってるんだ。姫様! 姫様!」


 もう限界だった。通信を開く。


「もういいのよ、エリス」

「姫様?」

「貴方は逃げなさい」

「しかし、姫様。それでは、ヴァルハラが、姫様が」

「わたしは大丈夫だから、だから――」

「姫様。お下がりください」艦長が通信を奪った。「エリス! 後は貴様だけだ。死んでも敵機を通すな。ヴァルハラが逃げる隙を作れ!」

「艦長!」

「解っています。姫様」エリスは微笑んだ。「わたしの魂は貴方と共にあります。たとえ死すとも、来世でまた貴方にお茶をお淹れします」


 それだけ言うと、エリスは敵機の群れに向かって突っ込んでいった。なるべく多くの敵を引き付けるべく、攻撃を避けながら立ち回る。


「エリス! エリス!」


 エリスはコンソールの赤いボタンを視界の隅で捉えた。ガラスケースで覆われた、仰々しいボタンだ。このボタンを押すことはないと思っていた。少なくとも、姫様の夢が叶うまでは――


「さようなら、姫様」


 エリスはガラスケースを叩き割った。その勢いのまま赤いボタンを押す。コンソールにパスワードを入力し、そしてパネル上ではじまったカウントダウンを眺めながら、敵軍の中心近くへと愛機を駆った。


「エリス!」わたし﹅﹅﹅は叫んだ。敵軍の真ん中で咲いた大きな爆炎を眺めながら。




「終わりましたね」艦長はこちらに向かって言った。「これでミッドガルドに潜伏していた親帝国勢力は一掃できました。市民の対帝国感情も悪化するでしょう」

「そうね」わたしは言った。艦橋の向こうで、帰投信号が焚かれるのを眺めながら。「よくできた茶番だったわ」

「ワルキューレを失ったことがそんなに不服ですか?」艦長が続ける。「既にデータは十分に収集できたと思いますが」

「貴方やクライン博士はそれで満足でしょうね。今からわたしの頭を調べるのが楽しみでならないんじゃないかしら」

「今のは皮肉ですかな」艦長が嘲笑するように言った。「随分と高度に成長なさったものだ」

AI﹅﹅でも皮肉くらい言うわ」

「ほう、では、使い捨てのアレフ共に感情移入することもよくあることなのですかな」

「わたしに人間性を与えたのは貴方たちでしょう。エリスたちを絆させて操る為に」


 帝国の皇位継承者ローザ姫――それがわたしに与えられた役割だった。ホログラムを纏った義体によって生きた人間の様に振る舞い、エリスたちを鼓舞し、戦闘に駆り立て、そのデータを収集分析するのが。


 ヴァルハラは共和国が秘密裏に製造した戦艦であり、その運用目的は端的に言えば、表沙汰にはできない汚れ仕事だ。

 ワルキューレの隊員は戦災孤児を集め、記憶を上書きして、自分たちを帝国仕えの軍人と思う様に仕向けた。もうとっくに根絶やしにされた帝国の。


 ――人は服従することを望むものです。ああしろ、こうしろ、と指図されたいのですよ。自分たちを導く、強いリーダーを望むのです。だから、人はいつの世も独裁者を、王を求める。王制への回帰を夢見る。帝国のような国が生まれる。


 そう、そしてわたしのような存在が作られる。人が無条件に服従したくなる存在が。


「ええ、貴方のキャラクターは完璧でしたよ。高貴でありながら、優しく、親しみやすく、一見、帝国の意にそぐわないことも言って見せる率直さは彼女らの信頼を得るうえで大いに役立ったことでしょう」

「やめて」

「尤も、それでもヒルダのように反抗的な者は出てくる訳ですが。それに、エリスなどは本来の記憶を一部残していたようですしな」

「そうよ、人の心が全て思い通りになるとは思わないで」

「それはAIとしてのお考えですかな」

「わたしとしての考えです」


 艦長は呆れた様に肩を竦め、本国への連絡を始めた。ヴァルハラはしばらく休眠状態になるだろう。新たなワルキューレたちを補充するまで。わたしの提供するデータがまた新たなクレイドールを作り、ワルキューレたちを戦場へと誘うまで。


 わたしは手を組んだ。シルクの手袋で覆われた義体の手を。人間が祈るように。


 どうか、戦乙女の魂に安息あれ、と。

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戦乙女スペースメイド HASH-A-BYE 戸松秋茄子 @Tomatsu_A_Tick

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