01-03-01 嵐剣の使い手も神子も、がんばえー! - 1
(あらすじ:砂漠に放り出されたルノフェンとオドは、どうにかラミアどもの魔の手から逃れることに成功する。しかし乗り物の巨大メカが暴走し、その責任を負う形で逮捕されてしまった!)
黄砂連合、牢獄。
窓代わりの鉄格子から漏れる月明かりを受けるように、ルノフェンは膝を立てて座っていた。
「シたい」
取り調べを終え、長い沈黙を経て開口一番発された言葉が、これである。
ルノフェンは欲求不満であった。
元の世界では手術によって固定された外見年齢を活かし、毎晩男女を問わず食い散らかしていたので、ひとりきりでベッドに入ることに慣れていないのだ。
彼は、既に成人している。
しかしながら、今の彼の姿は、その肉体相応に頼りなく見えた。
「そういえば、ルノ」
鉄柵で隔てられた隣の牢屋。
ベッドに仰向けに寝ながら、オドは問う。
彼の肉体はルノフェンとは異なり、年齢相応に成長する。
自身が望んだからだ。やろうと思えば、永遠の停滞に留まることもできた。
彼は、彼を孤児院から拾ってくれた師匠と、事実上の恋仲にある。
師匠の愛が、オドに大人になることを選ばせた。そういう言い方も、アリだろう。
「わたしたち、あんまり一対一で話したこと、ないよね」
オドの言葉に対し、ルノフェンは、「ん」と、雑な返事を返すのみである。
「ほら、元の世界だと、接点あるようでなかったからさ」
委細は省くが、彼らは同じコミュニティに属していた。
とはいえ、部門が異なるがゆえ、顔を合わせることは多くなかった。
ルノフェンは、その戦闘力を活かした敵地攻撃担当。身軽に、気ままな風のように、出現した魔物を叩いていた。
オドの方はというと、対人折衝。可憐な見た目ながら、末恐ろしいまでの人たらしであった。
「接点、かあ」
ルノフェンは立ち上がり、据え付けられた蛇口を捻って水を飲む。
砂漠の都市にあっても、水には困らない。
どうやら真水を生成する専用の魔術師部隊が、二十四時間体制で働いているらしい。
無論、相当な高給取りであるわけだが。こればかりは適性の問題であった。
「あっ、そうだ。わたしもルノも女装してますよね。これ、特別な理由があったりしますか?」
問いながら、ヒラヒラとした巫女スタイルの短袴を揺らす。
淑女が見れば、顔を赤らめ視線をそらすに違いない。
「それ、聞いちゃう? ボクの方は割とシンプルかつ実用的な理由があるんだよね」
チア服の埃を払い、彼は続ける。
「ずばり簡単。女の子の服を着てると、男とも女ともえっちできるから」
沈黙。
「なんか言ーえーよー」
不服げに、二つの牢屋を隔てる鉄柵をガタガタと揺らす。
「ご、ごめん。まさか、服装までその……えっちのためだとは思わなくて」
オドに、そういう知識がないわけではない。
それどころか、前述の師匠に一度襲われている。
とは言え、唐突にそういう話題が出ると、理解が追いつかないこともあるわけだ。
「まあでも、分かります。ルノってわたしから見ても可憐で、素敵だし」
「良いね。ボクの可愛さが分かるって有望だよ。なんならここで一線超えとく? 柵越しだけどきっと新しい扉を拓けるよ?」
フリフリと細い腰を揺らし、柵に押し付ける。
「そ、それは良いかな」
オドは、ジェスチャーで断った。
「ん」
誘いを断られ、残念そうにしていたルノフェンは、何かを感じ取ったのか、唐突に鉄柵から離れる。
「ルノ?」
様子の変わったルノフェンを気遣ってか、声をかける。
「アヴィが起きた。今視界共有してる」
アヴィとは、彼をこの世界に召喚した、アヴィルティファレト神のことである。
「どう? 怒ってたりしない?」
オドは起き上がり、伸びをする。
「んー、怒ってはないけど。絶句はしてる」
そりゃそうだ。
送り込んだ神子が、一日経ってみれば自らの領域で虜囚となっているなど、想定しづらいにも程がある。
「とにかく、すぐ遣いを送ってなんとかしてくれるから待ってて、ってさ」
「やった」
伸びの後はぴょんぴょんと跳ね、鈍った体に火を入れる。
すぐさま、慌ただしい足音が聞こえてくる。
「『すぐ』が文字通りすぎて笑える」
ルノフェンもストレッチを始める。
「さっきの話の続きだけどさ、オドが女装してるのは、なんで?」
手首をぐるぐると回しながら、問う。
「これ、言うの恥ずかしいんだけどね」
調子を整え終えたオドは、二つの牢屋の境目に近づき、小声で。
「コミュニティのリーダー、居るでしょ? わたしたちと同じで、女装してる男の子。知ってると思うけど、とっても可愛い。その人と初めて会ったとき、『男でも可愛いを目指して良いんだ』って思っちゃって」
そのまま、くるりと一回転する。
ミニの袴がふわりと広がり、重力に従ってもとに戻る。
「それでわたしも女装してるんだけど、声変わりも始まっちゃったし、いつかは卒業しなきゃなあ、って思ってるところ」
「そっかあ、そっかあ」
ルノフェンは、目をそらし、相槌を打つ。
「ルノ? どうかした?」
オドは、違和感に気づく子であった。
「うん、これ、どっかで言っとく必要があるなって思ってはいた」
諦めたような笑みを浮かべ、続ける。
「そのリーダー、ボクが恋してた子だよ。あの子、結婚したから今ボクは失恋中」
唐突に、爆弾が投げ込まれた。
「ボクのほうが先に好きだったのになあ。キスはしたんだけど、ゴタゴタで疎遠になってたら知らないうちに女の子と一緒になっててさ。しかもその子もムカつくほど可愛いし」
「それはその、どんまいです」
これは、対応を誤るとヤバいことになる。オドはそう感じた。
「まあでも、オドが一緒で良かったかな。一人だと、寂しさに押しつぶされてただろうから」
「わたしが一緒にいて慰めになるなら、良いですけど」
優しく、語る。オドに出来ることは、それくらいだった。
そうしていると、彼らを逮捕した警備隊長が牢獄にやってくる。
武具を装備した、二足歩行する蜂という外見だ。
「失恋。親近感、湧く」
彼は牢屋の鍵を開けながら、話す。
どこから聞いていたのか分からないが、たどたどしい共通語で話しかけてくる。
蟲人はその発声器官の都合、共通語の発音が難しい。
それでも、彼の言葉がどうにか聞き取れるのは、努力の賜物と言えるだろう。
「俺もかつては蟲人らしく、同族が住まうコロニーに居た。だが、当時の女王の寵愛を受けられず、逃げ出した。厳しい旅路だったが、最終的にこの都市に流れ着いた」
手招きし、オドとルノフェンを牢屋の外から出してやる。
「黒の神子よ。絶望というものは、一過性のものだ。長い時間を掛ける必要こそあるが、傷は癒える。少なくとも、俺はそう思う」
黒の神子とは、ルノフェンのことを指すらしい。この世界では、転生者や転移者のことを、神子と呼ぶ。
外へと繋がる回廊に、カツ、カツと靴音が響く。
ところで、と警備隊長。
回廊の終わりで、彼は振り向く。
「アヴィルティファレト神の遣いから、提案があった」
彼は懐から巻物を取り出す。
「この都市には、黄砂連合最大の闘技場がある。そこで今日の昼、台覧試合が行われる」
巻物を二人に渡し、説明。
「黄砂連合は商人の国だ。あの暴走メカを被害なく止める上で、貴重な魔力結晶を消費してしまってな。そういうことで、お前たちのどちらかにこの都市における筆頭闘士の一人と戦ってもらい、その興行収入をもって、チャラとしたい」
へえ、とルノフェン。
オドは直接戦闘を得意とするタイプではない。出場するとすれば、ルノフェンだ。
「神子とのマッチは、滅多にない。赤と青の神子は闘技場文化に縁がないようでな。もしお前が参加すれば、当然巨額のカネが動く。無論、通常のファイトマネーは支払う」
「面白いね、やろう」
二つ返事で承諾。
「あの、命の危険とかはないですよね?」
念のため、オドが確認する。
「心配は要らん。闘士にはブローチが支給される」
「ブローチ、ですか」
説明を受ける。
「首飾りだ。ダメージを肩代わりしてくれる宝石が
「オーバーキルされたら、どうなります?」
「仮に事故が起きても《リザレクション》を使えるキャスターが待機している。問題ない」
安全には配慮されているようだ。
「なら大丈夫かな」
オドの同意も、取れた。
牢獄の外に出て、燃えるような朝日を浴びたルノフェンは、最後に一言。
「あ、もし相手を瞬殺しちゃっても恨まないでよね!」
そのまま、闘技場に向かう。
彼らの背を見送りながら、警備隊長はつぶやく。
「やれるものなら、やるといい」
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