01-02-03 丈夫そうだから間違って砂漠に放り出しちゃった - 3
地上!
(うっぷ。お肉ばっかり食べてたら、脂がキツくなってきた。調子に乗って霜降りを生成しなければよかった。ルノ、助けてえ……)
オドは追い詰められていた。
彼は普段から満腹になるほど食べる子供ではない。目の前の、大量の肉料理を前に、めまいを覚える。
魅了は解けていた。彼の大切な人への想いが、手早く正気にしてくれた。
「もう食べられない? 満腹? 満腹ゥ!?」
蛮族たちは急かす。彼女たちも彼女たちで、お預けを食らっているようなものだ。
「姉貴ィ! もう良いですよねェ!? こいつこの場で剥いてヤっちまいましょうよォ!」
待ちきれなくなったハスキーボイスの個体が、とうとう声を上げる。
ヒューヒューと歓声。誰もが、己の欲望をむき出しにしていた。
「ふゥーむ」
リーダー格のラミアは、悩んだふりをする。
間もなく、いやらしく。にたりと笑い。
「いいだろう! だが最初に手を出すのはアタシだ!」
「ギャッハハハハ!」
餌付けは、終わったようだ。
彼女はオドの衣服に手をかける。
舌なめずりをし、期待に胸を高鳴らせる。
酒臭い息が、耳元に掛かる。
もはや、万事窮すか。
オドは目をつぶり、来たる運命に備えようとする。
その時!
ズム、ズム。
オアシスを激しい振動が襲う!
「なんだァ!?」「敵襲か!?」
ラミアどもの雰囲気が変わる。
「レリィ! ありったけの武器持ってこい! シセルは即席の防壁を!」
「リーダー! レリィは気絶してます!」
「なんだと!? 子どもたちは無事か!?」
「今起こしてます!」
振動は、尚も大きくなる。
ラミアのリーダーは訝しむ。
まるでこの音は。
外というよりは、地中から聞こえてくるような――
「皆、巣から離れろ! 最悪埋まるぞ! 地上で応戦する! 巣の入り口を崩されたら戻ってこれん!」
(なんだ!? 蟲人か? このタイミングで襲撃? まさかオドくんを強奪するために?)
リーダーは高速で思考し、ありうるパターンを脳内で展開していく。
一方オドは、吐きそうになりながらも、状況を理解する。
ズム。
ひときわ大きな振動が、足元から響く。
地面が隆起し、鋼鉄のドリルとともに這い出た意思持つ機械が、近くに居たラミアを跳ね飛ばす。
「オド! 捕まれ!」
ルノフェンの言葉を受け、高さ三メートルもある機械のコクピットから投げ渡された縄梯子を、掴む。
そのまま機械に乗り、凄まじい推力のもと、走り去る。
「あっ! オドくんが逃げ出すぞ!」
砂から槍を生成したラミアが、叫ぶ。
「逃がすなァ!」
リーダーは機械を指差し、キャタピラに向けて熱線の魔法を放つ。
結果は、レジスト。
「全く、油断も隙もないんだから」
ルノフェンによる瞬間的な魔力供給がなければ、大破炎上もあり得ただろう。
「クソッ! ラルゴ! 槍投げろ!」
合図とともに、彼女は槍を構え。
「ブッ壊れろォーッ!」
投擲。
一直線に投射された槍は、光のようにコクピットに向かう。このままでは直撃し、ゴア待ったなしだ!
それを遮るのはオド。コクピットの上によじ登り、仁王立ち。何をしようというのか!?
「ごめんね、ラミアさん」
彼は謝罪の言葉とともに、掴んでいた縄梯子を投げる。
縄梯子はまたたく間にブクブクと膨らみ、巨大な肺魚へと変化する。
槍は、肺魚のぬめぬめとしたヒレに弾かれ。
そのまま、地面に突き刺さり、止まってしまった。
遠く後ろに離れていくラミアの集落を一瞥し、オドもまた機械に潜り込む。
最大四人乗りのようだ。ルノフェンの座る操縦席の隣席に体を投げ出すと、深い溜め息をついた。
「おつかれ」
こともなげに、ルノフェンはねぎらいの声をかける。
「まさか旅の始まりからこんなことになるなんて」
「ねー」
全くである。
「ラミアさんには悪いことしちゃったかなあ」
オドはひどい目にあってもなお、彼女たちを心配していた。
「まあ、なんとかするんじゃない? 少なくとも食べ物にはしばらく困らないだろうし」
「だと良いけどなあ」
少し後ろ髪を引かれながらも、やむを得なかったと納得することにしたようだ。
「ところで、我が仮初の主よ。これからどこに向かうつもりだね?」
操縦席のスピーカーから声が響く。
この機械に宿った人格たるアースドラゴンは、キャタピラで砂を掴みながら走る。
曰く、彼が太陽の光を浴びたのは百年ぶりとのことであった。
「黄砂連合、かな」
「ほう。どの氏族の都市だね? 最も近いところだとジャミール氏の都市があるが」
大陸の南西に位置する黄砂連合は、厳密には単一の国家ではない。
複数の氏族がゆるく連携することで、国家の体をなしている。政治的な決定も、年数回行われる首長集会にて行われることになっている。
つまるところ、黄砂連合の都市という表現では、どの氏族の都市であるか明確ではないのだ。
また、以上のことを、ルノフェンは知らない。
オドとルノフェンは顔を見合わせる。
沈黙に陥りかけたところで、口を開いたのはオドだ。
「あの、ジャミール氏の都市にアヴィルティファレト様の神殿はありますか?」
「あるはずだ。ジャミールないしジャミラは、この地域の言葉で美を意味する。アヴィルティファレト神の構成要素の一つだ」
「そうなんですね!」
「今もそうかは知らないが、エンブレムにもかの神の遣いたる鵬が描かれていたな」
進む方向を修正しながら、彼は語る。
「ふむ、そうだな。私もその都市に行きたくなってきた。この躯体、地下で現れもしないかつての主人を待つより、ヒトの為に役立てたほうがいくらか有益であろう」
アースドラゴンに顔があるとすれば、今の彼は渋く笑っているに違いない。
「行くぞ、少年。快適な旅とは行かぬだろうが、そう待たせもせぬよ」
燃料代わりにオドが魔力を込めると、機内の炉によって魔素に変換されたそれは、すぐにジェットエンジンめいた推進力となった。
◆◆
ゴウ!
時速一〇〇キロメートルにも達する暴走メカは、自然湧きするアンデッドや獣型モンスターを轢き殺しながら、間もなく黄砂連合北の大都市、ラハット・ジャミラへと到着する。
「主よ、後三十秒もあればたどり着く」
アースドラゴンは報告を入れながら、減速の姿勢に入る。
少なくとも、減速したいようだった。
だが、出来なかった。
「……もしや、主よ」
搭乗者の二人は、あまりに過酷な走行に乗り物酔いを起こしていた。
彼の運転が荒いのは確かにそうだが、それ以上に、急ぐあまり揺れを気にしなかったことが響いている。
この世界に来てからあまり飲食をしていないルノフェンはまだ良かった。
問題はオドの方だ。
「うぷっ、おろっおろろっ」
超満腹との合わせ技でこらえきれず、彼は少し吐いていた。
当然、彼の吐瀉物にも魔力が残っている。
「しまった、私としたことが!」
オドが乗っている間、魔力タンクは常に最大。
タンクの破裂を防ぐため、魔力が供給されている限り、彼は止まれないのだ。
「ごめん、アースドラゴンさん。できれば下ろしてくれると」
青い顔をしたルノフェンが声をかける。
「やむを得ないか。座席をパージする。しっかり捕まっていろ!」
車体が門に“到着”する十秒前のことであった。
既に状況を察知した門番は、鉱石魔法によって生成された奥行き二メートルの障壁を作り、衝撃に備えている。
座席、射出。
神業とも言える調整で水平方向の速度を殺した座席は、ぽさっと砂の上に落ちる。
それからしばらくして。
グワラガグォーン! というなんとも強烈な音とともに、車体は障壁に激突。
有り余るエネルギーで障壁を掘り進み、ドリルを半ばほどめり込ませた後。
「エラー。前方に障害物があります。バックしてください」
というメッセージを吐きながら、ようやく停止することが出来た。
オドとルノフェンはどうなったかって?
射出された座席から降り。
盛大に嘔吐するオドの背中を、ルノフェンはよしよしとさすっている。
そこに、街からやってきた、憤怒の形相の蟲人警備隊長が二人の肩を叩きながら、こう告げた。
「そこのオマエとオマエ、逮捕。今日からしばらく取り調べ」
そのまま、二人まとめて牢屋にブチ込まれた。
余談ながら、獄中の食事はそこそこ美味しかったらしい。
【続く】
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