01-02-02 丈夫そうだから間違って砂漠に放り出しちゃった - 2

 そういうわけで。


 ルノフェンは、ラミアたちの視線を遮るよう、慎重に移動し、オアシスの様子を観察していた。

 

 宴の中央にはオド。

 どこから持ってきたのか、料理が満載されたテーブルに着席させられている。


 ただ、予想とは違い、目には理性の光がある。

 あたりを見回し、ルノフェンを探しているようにも感じられる。支配されているというわけではなさそうだ。


 その周囲。ラミアたちが舞を踏みながら、時折オドに料理を食べさせている。

 ボディタッチも念入りにやっており、手や尾が体に触れるたび、オドは可愛く媚びたふりをする。

 

 (近づくのは危険すぎるな)

 《レビテイト》を行使し、足跡と足音を消す。加護のある風属性とはいえ、不得手な陽の側面なので、消耗がやや大きい。

 距離を維持したまま正面に回る。ラミアはオドに夢中だ。警戒されていれば厄介だったが、その心配はなさそうだ。


 ほどなく、オドはルノフェンを見つける。視線で分かる。

 流石というべきか、すぐさま目立ったアクションは起こさない。代わりにオドは瞬きを何度か行い、ルノフェンに対し信号を送る。


 (巣、潜入、宝物庫……?)


 意図するところは、わかる。

 オドは会話を通じて情報を入手しており、巣の中の宝物庫の何かが、この状況を打破する鍵となると考えているのだろう。

 実際、ラミアどもの巣の警戒が手薄になっている今、物資を調達する上では最大のチャンスとも言える。


 もう少し情報を得ようと思ったが。

 「オドくんお腹いっぱい食べてねえ。食べられなくなったらアタシらの巣で、一人ずつ全員をじっくり相手してもらうからねえ」

 彼は少食だった気もする。どうやら、時間の制約が問題になりそうだ。

 

 方針は、決まった。情報交換はおしまいだ。


 巣の入り口を探るため、《ラパンヌ・イヤー》を行使する。

 これも陽の風属性。この属性には、大気の振動を扱える関係か、音の魔法が充実している。

 聴覚を鋭敏化させ、ラミアの鱗が砂と擦れる音、一つ一つを取り込む。

 ついでに、魔力でできた兎耳が生える。

 

 (あちゃー、迂闊だったな)

 巣は、オアシスのすぐ横にあると分かった。

 なるほど、上手く風景に溶け込んでいる。これでは余程気を配らなければ気づくまい。

 (次から探索する時は《ディテクト・ライフ》を掛けて貰わなきゃな)

 浮遊したまま、巣に近づく。

 

 見張りが、二匹。

 肩に傷がある個体と、体が小さな個体だ。

 物陰に隠れ、様子をうかがう。


 とはいえ、話しながらあくびをしており、士気は低そうだ。

 会話の内容を拾ってみる。


 「はーあ。どうしてアタシが見張りなんだよ。まだ子供のお前は分かるけどさあ。アタシもあのきゃンわいい子に餌付けしてェんだよな。なあ?」

 「まあまあ、クジで決まったことですし」

 「あ゛ー、やってらんね。酒とか飲みてえわ。それも全部表に出てッけどさ」

 「まあまあ」


 世知辛い。

 大した情報は得られなさそうなので、さっさと仕留めることにする。


 「《サイレント・ミスト》」

 隠れたまま、右手のガントレットから、霧を放出する。声を出されるのが一番面倒だ。

 霧をそのまま見張りへと送りつける。

 「あん? なんか霧――」


 抵抗、突破。

 異変を察知した見張りは声を上げようとし、異変に気づく。

 「――!」

 音が、出ない。尾を地面に叩きつけても、返ってくるのは触覚だけだ。


 肩に傷のある個体が当惑した一瞬の隙を突き、ルノフェンは突進。瘴気の乗った飛び蹴り一撃で小さな個体を壁に叩きつけ、残った方を絞め落とす。


 (ここまでは、よし)

 見張りの失神を確認。


 そのまま、巣への侵入を果たす。

 

 中はジトっとしており、どこから湧いて出たのか、サソリやネズミが天井から漏れる水を飲みにやってきていた。

 巣というよりは、洞窟という体裁であった。

 (なんだこれ、砂を固めて建材にしてるのかな)

 トラップのなさそうな壁に触れ、材質を確かめる。


 脆い。


 たっぷりすぎるほどに水を吸った壁は、下手に衝撃を与えると崩れかねない。

 (なんか、だいたい察したかも。豪雨を想定していない作りだ。事故だ、これ)


 ルノフェンはふわふわと浮き、警戒しながら宝物庫を探し、進む。

 地中を掘り進むように作られた巣の中で、脳内に地図を描く。


 ラミアの特性に最適化された巣は、どちらかというと、縦に長い。

 縦に長いということは、最終的に余分な水は全部下の方に落ちてくるのではないか、ということに思い当たる。

 (あ、進めば進むだけ、『これボクたちが悪い』って気分になってくる)


 気の毒になりながら、空っぽの食堂、寝室を通り過ぎる。

 明かりが生きているのは救いだった。魔力を媒介に光を放つ鉱石ランプが設置されているために、人間の目でもあたりを見通すことは難しくない。


 とはいえ、仮にオドが囚われたとして、そもそもそれぞれの部屋が鉛直方向に長い以上、適切な魔法が使えなければ抜け出すのは至難の業だろう。


 急がなければ。

 最終的な原因がルノフェン一行にあるとは言え、オドを誘拐され、足止めを食らうのは看過できなかった。

 

 墓場に行き当たり、武器庫を抜け、聖堂に至る。

 いずれも、警報やトラップの心配はいらなかった。

 正確に言うと、そういったものは入口付近には集中的に設置してあったが、全部湿気ってしまっていた。


 (ごめん、ラミアたち。本当ごめん)

 これから更にひどいことになるぞと覚悟を決めながら、なおも進む。


 そして。


 (ここが最奥かな)

 宝物庫に、たどり着く。

 多分、きっと、そうだ。

 いまいち確証が持てないのは、ルノフェンから見てガラクタが大半であったためだ。

 

 しぼみかけのゴムボール。

 よくわからない意匠のブロンズのオブジェ。

 放置されすぎてだめになった盆栽。

 撫でると「にゃあ」と鳴く虎のぬいぐるみ。

 光に当てるとゆらゆら揺れるマスコット。


 そういったものが、無造作に放り込まれていた。

 

 途方に暮れる。

 何しろ、何を探せばよいのか分かっていないのだ。


 「どーしろっていうんだ、ボクに」

 脱力し、ゴムボールに腰をかける。


 ゴムボールは体重を受け、「ぶふぅ」という音とともに、残る空気を吐き出してしまった。

 

 座り込んだまま、頭を抱える。

 こんなところでボクたちの旅は終わりなのか。

 ラミアに革の首輪を付けられて、オドともども一生巣の中で生活するのがお似合いだというのか。


 いや、でもそれも魅力的かもしれない。おっぱい大きいし。

 

 そんなことを考えていると。


 「そこに、誰か居るのか」

 ガラクタの山の中から、ダンディな声。


 「ッ!」

 ガントレットを生成し、即時警戒する。


 「風属性使いか。ここのラミアどもではないな。奴隷として放り込まれたか?」

 「誰だ!」

 「安心しろ、私はお前に危害を加えるつもりはない。むしろ、力を貸すことも厭わない」


 警戒は、解かない。

 味方だと言って取り入ってくる奴らは、大抵の場合厄介だからだ。


 「姿を見せろ、ジェントルマン」

 ガラクタに向け、呼びかける。

 あちらはルノフェンの位置を掴んでいるが、こちらは近くに居ることしか分かっていない。

 もし相手がこちらに力を貸す気があるのなら、情報の差を埋めるために応えてくれるはず。そういう読みである。


 「なら、魔力をくれ。エネルギー切れでな。属性は問わん。魔素化機能はある」

 答えを受け、渋々左手からガントレットを外し、ガラクタに向けて投げてやる。

 どうせ生成物だ。魔力が続く限り、何度でも呼び出せる。

 

 カン、コン。ガントレットはガラクタの上を跳ね、愉快な音を鳴らす。

 そして、徐々に穴が空き、分解されてゆく。


 食われている。ルノフェンはそう感じた。


 「ありがとう。恩に着る」

 声の主がそう言うと。

 

 ドッ、ドッ、ドッ、ドッ。

 激しい駆動音と共に、宝物庫が揺れる。


 ランプが揺れ、その中の明かりが苦しげに明滅する。


 凄まじい音を放ちながら、ガラクタの山が二つに崩れ、裂けてゆく。


 その中から出てきたものは。

 

 正面にバカでかいドリルがついた、モグラのような巨大機械。

 それでいて洗練されたフォルムは、少年ならばこう声を漏らさずにはいられない!

 「かっけえ!」

 ルノフェンは叫ぶ! 様々な思惑、戦略をかなぐり捨て、コクピットに搭乗する!


 機械は、こう名乗った。

 「私の名はアースドラゴン。イスカーツェルの遺産にして、あるじに忘れ去られし者。そういうわけで、今からキミを仮初の主としよう」

 ルノフェンは、惚れた。

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