01-03-02 嵐剣の使い手も神子も、がんばえー! - 2

 そして、興行は始まった。

 前座のバトルロイヤルでは屈強な男どもが殴り合い、ひときわ強靭な鬼人が勝利を収めた。彼は有望な闘士へと成長していくだろう。


 その後は三対三、二対二の順にトーナメント試合が組まれ、各部門で最強のユニットが讃えられてゆく。

 ルノフェンの出番は、メインに据えられたタイマントーナメントの直前であった。

 既にあるプログラムに急遽割り込んで組まれた試合だ。観客は、何が起こるのかとざわついている。

 選手入場口。彼は靴でトン、トンと地面を叩き、声がかかるのを待つ。


 程なくして、よく通る声でアナウンスが掛かる。


 「続きましては特別試合! 賭けたきゃ近くの機械種族ディータにカネ突っ込みな! あの男のライバルがオファーに応じて文字通り舞い戻ってきた! ソルカ・レ・エルカ!」


 凄まじい歓声と共に向かいの入場口から現れたのは、小柄な少年。

 ただし、その腕は鳥のように鋭い翼で。

 バサバサと飛びながら、鋭い鉤爪の生えた右足で長剣を握っている。


 ハーピィだ。胴体と頭部は、人間のそれである。


 彼は地面に落ちた緑の羽根を左足で一枚拾い、風の魔法をかけ、飛ばす。

 羽根は観客席にひらりと落ち、まもなく争奪戦が始まった。


 「あっ、コラ! 久々だからって滅多にやらねェファンサしやがって!」

 そのまま、実況席に向け、頭をかしげ、ウィンク。

 小悪魔的な男の子であった。


 「まあいい。もう片方も紹介するぞ! 紆余曲折あってこの世界に舞い降りた黒の神子! このラハット・ジャミラに建設用機械種族ディータを飛ばして突っ込んできやがった極悪ドライバー! 兎耳のルノフェン!」


 再び巻き起こる歓声。


 「神子だと!?」「何年ぶりだ!?」「女の子にしては胴がストンと落ちているな」「それが良いんだろうがたわけ!」

 などの声を受け、両手を上げて入場。


 観客席に投げキッスをすると。

 「目覚める! 俺男の娘に目覚めちまうよ!」「目が合った! くっそ可愛いなこいつ!」「アイドルだ……」

 とも聞こえてきた。


 「レギュレーションは白兵標準! つまるところ引き撃ちはナシだ! それ以外は大体なんでもやって良いぜ! 胸のブローチの宝石が砕けたらおしまいだ!」

 正面のソルカにも投げキッス。

 彼は翼で胸を叩いた。

 挑発だ。


 「準備はいいか紳士淑女ども! この試合はザイン殿下がお見えになっている! 闘士どもの一挙手一投足を目に焼き付けな! 殿下、試合開始の合図を」

 実況席の隣に座るターバンの男に、拡声の魔法が掛かる。


 「良いだろう」

 彼は両手を広げ、立ち上がり。

 「いざ尋常に、始めよ!」


 闘技は、幕を開けた。


 合図が終わるか終わらないかの瀬戸際。


 ソルカは地面を蹴り、翼の推進力を用いて一気に距離を詰める。

 「こっちから行くぜ!」

 そのまま上下反転し、袈裟懸けに剣を振り下ろす。


 「速っ――!」

 速度の乗った切り下ろしを、ルノフェンは右手のガントレットで受ける。

 そのまま左手で掴もうとするが、ソルカは弾かれた反動で逆方向に縦回転。


 「甘いッ!」

 隙の出来た腹部に、翼でのボディーアッパーを叩き込む。

 「ッ!」

 鈍い痛みを耐え、体ごと浮きそうになりながら、戻した右手で翼を殴りつける。

 「おっと」


 互いに弾かれ、再び距離を取る。

 最初の立ち会いは、やや不利気味な痛み分けに終わる。

 

 「《スピードアップ》。鍛えてなさそうなお腹だったから殴ったけど、しっかり魔力で守ってるみたいだな」

 闘士の声はフィールドの効果により、全て拡大されて観客席に届く。

 煽り合いもコンテンツなのだ。


 「《スピードアップ》。もっと触ってみるかい? ちっちゃい子には刺激が強かったかな? 今度はその剣で貫いてみなよ」

 同じバフをかけ、補助戦に食らいつく。


 セリフは半分挑発、半分強がりだ。

 相手の体重は軽いが、スピードが乗った一撃は重い。

 先程の切り結びで確信する。

 こいつは、本命の攻撃をカモフラージュするよう、あえて派手な動きを選んでいる。


 ならば。


 足元に風の魔力を設置。

 「次はボクが攻める番だ」

 ドウ! 踏み込む際に破裂させ、瞬間的な加速をもって襲いかかる。

 

 選んだのは、暴風雨めいた、瘴気ガントレットでのフック。

 ソルカは、上に飛んで回避。

 彼は翼人種だ。三次元的な動きには種として適応している。


 器用に剣を持ち替え、斜め下に突き攻撃。

 牽制だろう。左手で軽く内側にそらし、一回転して右の裏拳で襲う。


 「来なよ!」

 ルノフェンの読みは正しかった。


 ソルカは体重の乗っていない突き攻撃を早々に引き上げ、裏拳を掻い潜るようにサマーソルト。

 上を取るポジションを維持しながら、後頭部を襲うように本命の斬撃を放つ。


 おお、ルノフェンはこのまま後頭部を斬られ敗北を喫してしまうのか?

 否、彼の目は意思を持つ。


 「そこだ!」

 ルノフェンが取った行動は、横へのスウェー。

 全体重が乗った斬撃を躱すと、狙い通りソルカはバランスを崩す。


 左手を突き出し、反撃の詠唱。

 「《ミアズマ・ランス》」

 ルノフェンの左掌から吐き出されるは、瘴気の槍。

 狙いすました魔法はソルカに脇腹に直撃し、彼はそのまま地面に落ち、転がり、遠ざかっていく。


 観客席からどよめきの声が上がる。

 「良い一撃が決まったーッ!」

 実況席からも声が上がるが。


 攻撃を受ける際、かろうじて距離を離すように羽ばたいたのが見えた。

 追い打ちは、できない。


 決定打を与えられたわけではないのだ。


 ソルカはネックスプリングで起き上がり、剣の根本を掻く。

 「やるじゃんか」

 剣は大部分が分解し、床に落ちていく。

 ソルカの手元に残るは、鋭い短剣。

 

 「おお! どうやらソルカも本気を出すようだーッ!」

 天が割れるような歓声。


 観客の誰かが、「ハ・セアラー!」と言った。

 音は伝搬し、次々に同じ単語が紡がれる。

 「観客は飢えている! 一ヶ月ぶりに復活したこの男の、奥義に飢えている!」


 それは古代の言葉で、嵐。


 いつしか、闘技場を埋め尽くす声は。

 「ハ・セアラー! ハ・セアラー! ハ・セアラー!」

 数多の期待のもと、嵐となり、二人に襲いかかった。


 ◆◆


 ソルカは、聖都デフィデリヴェッタに生まれ落ちた、ハーピィであった。

 裕福な家に生まれ、何不自由なく暮らしていた。

 

 はずだった。


 ある朝、まだ子供だった彼が朝食を食べにリビングにやってくると、両親はどこかに行っていた。


 三日経っても、彼らが戻ってくることはなかった。

 曰く、事業に失敗したらしい。

 両親は大量の借金を残していったが、手元の資産を全て売ることで、どうにか返済は完了した。


 そして彼には、彼を翼で守るように包み込んでくれた、姉だけが残された。


 生きるためにカネが必要だった。

 黄砂連合で闘士を募集しているという話を聞き、彼は飛びつくように応募した。


 姉は止めた。ソルカも私の前から離れていくのかと。

 それでも、彼の決意は固かった。

 最終的に、姉は涙を流しながら、約束を求めた。


 必ず、必ず生きて帰ってくるように。


 その約束は、今も続いている。

 彼は、折れそうになるたびに約束を思い出し、奮起した。


 結果として、彼は「二頭」と呼ばれる、闘技場の双璧の一つとなった。

 もっとも、もう片方は老いによる衰えを理由に、ひと月前に引退してしまったのだが。


 その間に、カネは十分すぎるほど稼いだ。定期的にやり取りする手紙によると、送ったカネで家を買い戻すことに成功したという。


 目的は達成した。

 だが、心残りもあった。

 聖都に帰る前に、もう一回、全力を出せる相手と試合がしたかった。


 ソルカは、目の前の拳士を睨む。


 「願わくば、一発で倒れてくれるなよ」

 そう、自然と言葉に出た。

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