第十四話 無限に続く廻異(1)

「月夜殿、私なんかを連れてきても大丈夫なの?」


「大丈夫だと思うぞ。というかずっと思ってるんだが『月夜殿』って呼び方やめないか?普段の喋り方との違和感が凄まじい」


「え?じゃあ月夜さん、って呼ぶね。それでなんだけど私が着いて行っても足手纏いにしかならないよ」


「何のためにレイと仮式神契約を結んだんだお前は…自衛のためだろうが」


「いや…ね?レイがいるとはいえ実力的にも経験的にも足引っ張るかなって」


「それ言ったら弟子を育成する師はこの世にいなくなるぞ。今回は透子の実地訓練でもあるからな。身の危険を少しでも感じたら即レイを呼ぶんだぞ」


「わかってますよ、っと」


「不安しかない…」


1月26日の午前5時。土倉家との合同依頼、指名されて雹牙家から派遣された月夜と、その弟子である透子は新潟駅前の待ち合わせ場所に着いて、ベンチに座って待っていた。10分ほど時間が経った時、金髪で着物を着た男性に声をかけられた。


「もしかして、月夜殿ですか?」


「貴方は…もしや」


「一昨日振りですね、月夜殿。先日はご主人共々大変お世話になりました」


「いや、別にいいぞ。こちらこそ、弟子が世話になったな」


「わざわざこちらまで来たということは、依頼か何かですか?」


「ああ。指名依頼でな。ちょうどいい機会だから透子も実践経験を積む必要があると思って連れてきたんだ」


「なるほど…ちなみに、その依頼の内容を聞かせてもらうことは可能でしょうか?最近私達もとある事象への調査を行っていまして…。その依頼に反社の人々が行方不明になるような内容が含まれていればおそらく同じ事件の調査と思われます」


「おっと…?雲行きが怪しくなってきたな。もしや凪勿関連か?」


「不確定要素ではありますね。この付近で似たような男の目撃情報が私の式神達から届いていますので」


「うわっ、1番面倒なやつじゃねえか。待てよ?目撃情報があるということは怪しい場所はそれなりに目星がついているのか?」


「ええ。3つほど候補を絞り出しましたが、すでに2つは何もないことを確認しています。何かがあるとしたら、残り1つの廃ビルかと。一般人の間でも足を踏み入れれば2度と帰ってくることはないと噂になっており、実害も出ているので。何かあるのは間違いないでしょう」


「待て。その廃ビル…これか?」


そう言って月夜は今回調査する予定だった廃ビルの写真をセンに見せる。


「それ…ですね。如何いたしますか?ね


「百花から許可が出れば合同での調査は可能だな。だが百花が納得するかどうか…」


「百花というのは、依頼仲間ですかね?」


「ん?ああ、そうだ。今回指名依頼で来るもう1人の陰陽師だな。あいつ時間にうるさいタイプの人間だからそろそろ来るんじゃねえか?そのためにわざわざ集合1時間前に来たんだし。あ、ほら、あれじゃね」


月夜が視線を向けて方向には眠た気にこちらへ歩いてくる茶髪の少女がいた。月夜は朝に弱いのに無理矢理起きて朝ぼーっとしてる百花を見たことがあるので、普段の感じがない理由はなんとなく察したのだ。ああ、こいつ、『夜更かししたな』と。前日に夜更かしし、睡眠時間が少ない日の朝は大抵あの状態になってるのだ。あの状態になると猫の如く甘えてくるため、現在の月夜としては対処に困る相手だった。


「げつやぁ、おはよう…そっちの女の子がお弟子さん〜?それとも金髪の人〜?」


ふわっふわである。普段からは考えられないほどのふわっふわ状態。月夜はこの状態の百花の音声を記録して聞かせたら面白いのではという衝動に駆られたが、普通に殴られそうなのでそれは心の内にしまった。


「おはよう百花。こっちが俺の弟子の透子。金髪のお兄さんがセン。最近ちょっとした縁があってな」


「よろしくお願いします…2人とも連れて行くのぉ?」


「可能であればそうするが、百花がダメなら置いて行くつもりだ」


「ん〜?私は別にいいと思うよ?月夜が連れてきたってことは〜、それなりに強いんでしょ?」


「そうだな。透子はまだまだだが、センの方は一級品だな」


「一級品…身に余る言葉ですね」


「お前が一級品じゃなかったらほとんどの陰陽師は雑魚と化すぞ…?」


「ハッハッハッ、御冗談を。月夜殿の方が強いではありませんか」


「師匠と比べるのが間違いだと思うけど…?」


「お前さっきから俺の呼び方コロコロ変わりすぎだろ」


「外では『師匠』呼びですー。なんですか?名前で呼んで欲しいんですか?」


「うっっざ。ところで次回の授業だが…」


「申し訳ありませんでした、勘弁してください」


「仲、良いね…」


「弟子と師匠の関係性としてはこんなものだろ」


「親密だと思うけどな〜?」


「私はこんなものだと思いますね。私とご主人はプライベートではそんな感じですので」


「えっと…センさん?であってますよね〜?。師匠と弟子って、もう少しアッサリしたものじゃないんですか〜?私のとこはそんな感じでしたよ〜」


「土倉のとこは集団で鍛えられるからな…多くの人間に教える師とたった1人にだけ教える師で弟子との距離感が違ってもおかしくない、か。俺は出来る限り弟子に寄り添って鍛えるつもりだな。俺がそうしてもらったように」


月夜は勇者一行の面々、バルトラ…何人もの人の顔が頭に浮かんだ。なんだか懐かしい気持ちになり、感慨深い気分になった。


「師匠にも師匠っているの?」


「いるぞ。今は会えない、けどな。そう考えたら、勇者一行みんなとずっと一緒にいたんだな。いやぁ、会いてえな…ま、今は俺のやることをやるか」


「月夜〜?あんたは今回調査する場所わかるの〜?」


「一昨日情報丸ごと添付して送り付けられてわからないわけないだろ…。だがまぁ、センが独自に調査したのと2つ被ってる。その2つは異常はなかったそうだ。やはり、残ってる候補地はーーーー」


ーーーー元藤湊ふじみな商店。現在若者達を中心に噂になっている廃ビル、『カエラズ』だ。


**********


「…セン。異常、感じ取れるか?」


「ええ。ここは非常に危険だとはわかります」


「?どういうことよ。まるで妖力を感じないじゃない。悪意ある霊力も感じないし」


「私もそう思います!師匠、どうなの?」


その2人の様子に、堪えきれず月夜はため息を吐く。センも多少呆れた顔をしている。


「実害が出てるのに何もないわけないだろうが。何が異常かってな、何もないからこそ、異常なんだ」


「あ、もしかして」


「私にもわかるように教えてください!」


「百花はわかったようだな。あと透子は依頼終わったら勉強し直しだ」


「なんでぇ!?」


「簡単に言うと、ここまで派手にやってるのに外から完治できないということは自分の存在を完全に隠し切る技能があるということだ。故に俺とセンは非常に危険と判断した」


「もしかしたら、人為的な何かで我々の動きを察知して逃げた可能性もありますが…可能性は相当低いです。人間だとしたらこんなにもわかりやすい罠は作らないと思いますので」


「はえー、そういうことだったんだ」


「ただ、困ったことに今回ばかりは危険を犯す必要性がありそうだ」


「どういうことよ。危険と判断したら格の高い陰陽師に…」


「それをすればほぼ間違いなく格の高い陰陽師とやらは死ぬぞ」


「はぁ!?じゃあどうすんのよ」


「おそらく、陰陽師が来たとてその存在を見つけることすらできてない状態で廃ビルに入って何もわからないまま死ぬだけだ。今回は相手の格を王級と仮定して動くぞ。妖の仕掛ける罠としては滞在時間が伸びれば伸びるほど発動するものが多い。ツーマンセルで行動し、素早く調査を終わらせるぞ」


「中、入らないとダメなの?」


「依頼は調査だ。外から見て異常なさそうです!ではダメだ。しっかりと内部まで調査する必要がある。俺だって反対ではあるが、依頼を受ける身として突入しないわけにはいかないんだよ。セン、透子を頼めるか?」


「承知しました。お任せください」


「百花、行くぞ。出来る限り距離を離さないように行動しろ。最後に…全員、己の命を1番に考え行動しろ。危険に遭遇しても生きて逃げることができればそれだけでも大きな情報となる。それぞれ、肝に銘じろ。…行くぞ」


4人は纏まって廃ビルに突入した。直後、その場には月夜を除き、立っているものはいなくなっていた。


ーーーーーーーーーーーーーー


クロ「ファッ!?」

レア「ファッ!?って何よ。ファッ!?って」

作者「待て、誰やあんたら()」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る