第24章 – 緊急ミーティング


アリサの部屋は、机の上の小さなスタンドライトだけが灯る、静かな空間だった。

シャワーを浴びたばかりでまだ髪の毛が少し濡れている彼女は、ベッドの上でスマホを眺めながら、口元に微笑を浮かべていた。

LINEグループ「ホルモン女子 💔💋」には、次々と通知が表示されている。


素早く指を動かし、彼女はメッセージを打ち込む。


アリサ:明日、うちで集まるよ。午前10時。緊急。


送信ボタンを押し、スマホを横に置く前に、彼女は小さく笑みを浮かべながらつぶやいた。


「……ほんと、面白い子ね。アケミくんって。」


画面を消す。今日は、頭を使いすぎて疲れた一日だった。



翌日――。


「おはよーっ!」

元気いっぱいの声とともに、ミウがリビングに入ってきた。手には小さなケーキの箱。


「日曜にしては、あんた元気すぎ」

メガネを指先で押し上げながら、サヤカが手帳を持ってソファに腰を下ろす。


その少し後に、リカがやって来た。髪はゆるくまとめたポニーテール。

リュックを置いて、アリサにじろりと視線を送る。


「で? ……もうキスしたの?」


ソファの真ん中に座っていたアリサは、意味ありげな笑みを浮かべ、目を細めた。


「映画行って、ご飯食べて、散歩して……まあ、ちょっと“近かった”かな」

そう言って、髪を指でくるりといじる。


「近いって、どれくらい?」

サヤカが真剣な目で問いかける。


「んー、ちょっと緊張感があったって感じかな」

アリサが微笑む。

「肩、触られたの。……二回もね。それと、歩いてた時に立ち止まって、目を見てきた。ほんの一瞬だったけど、あの緊張した顔……かわいかったわ。」


「はぁ〜、うらやまし〜」

ミウがソファに倒れ込み、クッションを抱きしめる。

「早くあの子、挑発したいな。ポイント欲しいし。」


「だからこそ、話がある」

リカがアリサに向き直る。

「ユメが、彼にちょっと近づいてるの知ってた?」


アリサの表情は変わらない。だが、瞳にはわずかな光が宿る。


「だろうと思ってた。あの控えめな目、バレバレよ。クラブの子じゃないけど、けっこう熱視線送ってるじゃない。」


「放課後に話してたの、見たよ。美術室の前で十分くらい」

サヤカが眉をひそめる。


「だから、スピード上げないと」

ミウが背筋を伸ばしながら言った。

「もう遊んでる場合じゃない。本気でアケミをその気にさせたいなら、もっと強烈に……挑発して、落とすべき!」


「同感」

アリサは即答する。

「でも……今週は動かない。連絡もしないし、会いにも行かない。」


「はあ!? 何言ってんの!?」

サヤカが身を乗り出す。

「その間にユメが一気に距離詰めたらどうするのよ!? 私たちの悪口でも吹き込まれたら、気持ち変わっちゃうかもじゃん!」


「だからこそ、面白いのよ」

アリサは自信満々に笑う。

「欲しいものほど、簡単に手に入らない方がいい。私たちのやり方は一段上よ。」


「じゃあ……何するの?」


「もちろん、動くわよ」

アリサが答える。

「来週末、プールに誘うの。」


「いいじゃん、それ!」

リカが嬉しそうに声を上げる。

「でも、あいつ頭いいよ? なんか怪しまれそう。」


「だから、囮を使うの」

アリサがミウに視線を向ける。

「あなたが彼の友達の一人を誘惑して、“みんなで集まる”って話にして。時間と場所はその子から伝えてもらうの。」


「で、来たら?」

サヤカが問う。


「私たちだけよ」

アリサがウインクする。

「もちろん、水着姿でね。」


一瞬の沈黙――そして、笑い声が弾けた。


「『誰が一番アケミをドキドキさせるか、勝負よ』」

アリサが立ち上がり、不敵な笑みを浮かべる。

「だって、結局のところ……男なんだから。」


少女たちはそれぞれ違う考えを胸に抱きながらも、目的は一つ。

――落とす。遊ぶ。そして、勝つ。

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