第4章:「狩りのための会合」

数日前──


レンテイ学園の外れにある、時代に取り残されたような古びた建物。

しかし、その静寂を破るのは、学園で最も美しく、危険で、魅惑的な少女たち。


その二階建ての洋館には、アンティークなステンドグラスがはめ込まれ、

どこか秘密めいたエレガントな空気が漂っていた。


そこは──

「失恋クラブ」私設本部。

クラブのメンバー全員の出資で手に入れた、彼女たちだけの特別な城。


選ばれし者しか足を踏み入れられない。

美貌、カリスマ性、あるいは巧妙な策略を持つ者だけ。


そこはまさに、彼女たちの「戦略拠点」であり、「桃色のベルベットで包まれた鉄の玉座」だった。


その日、サロンの中では──

五人ではない。

二十人以上の少女たちが集まっていた。


学年も、クラスも、性格もバラバラ。

しかし、たった一つ、共通している願いがあった。


「勝ちたい」──このゲームに。


秘密の競技。

男子生徒を“落とし”、キスし、惑わせ、そして…捨てる。

その一連を一週間以内に完遂できればポイント獲得。


相手が難しいほど、価値は高い。


だが、その日の空気はどこかピリピリしていた。


「わ、私もやったんだから!」

一年生でラベンダー色の髪の少女が叫ぶ。

「メイド服でお茶に誘ったのに…“メイド喫茶が怖い”って…!」


「私なんか既読スルーされたんだけど…」

文学部の制服を着た別の少女が不満そうに呟く。


そして──

二階の円卓には、三人の中心人物が既に座っていた。

リカ、サヤカ、ミウ。


クラブの中心核ともいえる三人である。

その彼女たちでさえ、うまくいっていない様子だった。


「なに、あの男? 免疫でもあるの?」

「心が壊れてる?」

「…実は男の子が好きとか?」

「もしかして、彼女がいるとか…」


その時だった。


タッ…タッ…タッ…


階段から響く、ヒールの音。

そのリズムは落ち着いていて…優雅だった。


ざわついていた空気が、ピタリと止まる。

少女たちは道を開け、一部は自然と頭を下げる。


彼女が、来たのだ。


霧宮アリサ。

金髪。

抜群のプロポーション。

ノースリーブのベストに白のパンツスタイル。

視線を惹きつけずにはいられない完璧なスタイル。


──まるで、女王。


彼女は優雅に二階へと上がり、

最上段の円形ホールの玉座に腰を下ろす。


「……皆、失敗したようね?」


誰も答えられない。


「ふふ、面白いわ。

まさかリカやサヤカでも無理だったとは。」


「……一応、頑張ったわよ。」

リカが小さく唸る。


「知ってる。見てたから。面白かったわ。」


午後の光が、アリサのハニーゴールドの瞳に反射して、神々しいまでの存在感を放っていた。


「皆…これはただの男じゃないわ。

褒め言葉にも、ボディタッチにも、胸元にも、甘え声にも反応しない。

──だから、私も本気で楽しませてもらおうかしら。」


少女たちが息をのむ。


アリサは立ち上がり、円卓をぐるりと歩き出す。

リーダーたち一人ひとりに視線を送る。


「公式なチャレンジを始めるわ。

全員、参加可能。

でも──勝者はたった一人。」


「なにをもって“勝利”なのですか…アリサ様?」

サヤカが警戒した表情で問いかける。


アリサは片手を挙げ、天井から垂れるスクリーンに映像を映し出す。


「“アケミを落とした者”…

告白させて、虜にして、そして心を砕いたその者には──」

1. クラブの次期会長の座

2. 現金50万円

3. *「氷の調教師(アイス・テイマー)」*の永遠の称号


「っ…50万!?」

ミウが思わず声を上げる。


「本気なの、アリサ様…?」

リカが目を細める。


「ええ、もちろん。」

アリサは微笑みながら円卓の中心に手を置く。

「私? 私は“ゲーム”なんてしないわ。

──私がするのは、支配(ドミネイト)。」


その瞬間、アリサの周囲の空気が一変した。


「それでは──」


「アケミ攻略戦、開幕よ。」



そしてこの日、秘密の洋館で、

二十人以上の少女たちが、名誉と快感と──ちょっとしたスリルを求めて集結した。


*「香水とレースの戦争」*が、静かに始まったのである。


その頃、肝心のアケミくんは──


まだ何も知らず、部屋で冷たい麦茶を飲んでいた。

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