オン・ザ・ロード
なんで酒ばかり飲むようになったのかなんて憶えていない。何度も言うが酒を飲む以外にする事がなかったからだろう。入った大学も行かなくなり、週3くらいで肉体労働のバイトはしていた。一日中何もせず酒ばかり飲んでいる状態と仕事を終えたあとの酒は入り方が違う。美味いとかではなく。体が正直に欲している。そんな感じか。ところでその時分、30年くらい前か、90年代の頭、私は時々、スケボーのブランクデッキを買ってきて、そこにマーカーやスプレー、アクリルガッシュなんかでグラフィティを描いていた。それを今は無くなったが当時の原宿の歩行者天国で売っていた。ブランクデッキは今でもそうだが、大体6000円くらいだ。私は言い値で売っていた。3本くらい出来上がると原宿のホコ天に売りに行く。売りに行くと言うよりは遊びに行く感覚だな。当時は多分スケボーの第3次ブームくらいだったと思う。ホコ天をガラガラ走るスケボーのニイちゃんたちが足を止め、私の描いたグラフィティに目を止める。
「この真ん中のいくら?」私より少し年上くらいか22、23くらいののニイちゃんたち。
「いくら出せる?」と私。
「正直、今、金ないんだよね」
私はいいアイディアを思いついた。
「じゃあ、あのローソンで一番高い酒持ってきてくれ、それと交換でいい」と私は振り向いて今でもある神宮前4丁目のローソンを指差した。
ニイちゃんたちは察して軽く頷くとスタスタとローソンに入っていき、数秒後、ダッシュで店から出てきた。まだ全然ユルい時代だった。
ニイちゃんたちの一人が短パンの股間の中からビーフィーターのジンのボトルを取り出した。私たちはゲラゲラ笑った。
「うまくやったろ」とニイちゃんたち
私は面白くなってジンのフタを開け一口飲むと3人にボトルを渡した。3人とも回し呑みしたあと私はボトルを引き取った。
「3本とも持っていってくれ」と私。
「いいのか」
「どうせ売れないし」
そんな感じで私はスケボーのデッキを売ったり、ブツブツ交換したりしてフラフラしていた。
当時、高円寺に住んでいて、夜中にスプレーとマーカーを持って、人ん家の壁や、店のシャッターにタギングや、スローアップなんかして遊んでいた。今思うと随分迷惑な話だ。今そんな事されたら、金属バットでしたたかやったヤツをぶん殴るだろうな。ま、当時の自分は謝る気は毛頭ないが。
話は少し変わるが、私はあんまりヒマなので映画もよく見ていた。BOX東中野に行き、若松孝二監督の訳のわからないバイオレンス映画なんかよく見た。ミニシアターにはフライヤーが什器にたくさん挟まっていて、何枚か取った。ある劇団が裏方の募集をしていた。そこは塚本晋也の『鉄男』に出演していた女優が主催する劇団で、塚本晋也に会えるかもな、くらいのよこしまな考えで、電話をして面接に行き、採用された。給料などはもちろんもらえず、弁当くらいは出た。かな?とにかく舞台美術の助手みたいな事をしていたが要は雑用でテレビのADみたいなもんだ。現場はいつも雰囲気が悪く、私はいい加減うんざりしていたし、塚本晋也とは到底会える気配もなかった。ある時、その女優の家に集まって飲む事となり、次の公演の主役の男優も来ていた。長谷川⚪︎彦と言って、唐組出身を鼻にかけた。嫌味なやつだった。私より20くらい上だった。酒が切れてしまい。一番年少の私に向かって、
「お前買って来い」と言う事になり、
「金は?」と私。
「ちょっと、今はない」と言われた。劇団の主催者のその女優に聞いてみても同じ返事、私はしょうがないのでコンビニに行き、自腹で「いいちこ」を買い、酒席に戻った。そしたらそのバカ俳優が
「なんだ!たった1本か!」とキレやがる。
私は正直な人間なのでおのずとそいつの胸ぐらを掴んだ。
10人くらいはその酒席いたと思う。皆私を止めにに入った。
「おい、さっさと金出せ」と私。
そいつは目が地走っていて殺そうと言う勢いだ。そこのところはさすが俳優だなと思った。しかし私の方がさらに逆上していて思いっきりそいつの腿を蹴り上げた。私は普段の肉体労働のバイトやスケボーしていた事やタギングしてはお巡りから走って逃げ回る事ばっかりしていたので当時はかなり体力があった。
そいつはそのまま
私は無言でその家を出て、そいつが愛用しているバイクがあったのだが、リュックからスプレーを取り出し、車体に
「GO STRAIGHT TO HELL」
と書き殴った。
その俳優は今でもちょこちょこテレビの端役で見かける。息の長い俳優だなと今では懐かしくさえ感じる。少しリスペクトもしている。ま、しかしそいつを見て真っ先に頭に浮かぶのは
「さっさと地獄に堕ちろ」
だな。
では股。
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