第11話 罠
高鳴る気持ちを抑え、扉を開けた。
一畳ほどのスペースの先に階段が続いていた。
真琴は、そこに置かれているキャスター付きの小さな棚を横目で見ながら、階段を登り始めた。
一段一段、慎重に。もし、まだ怜司がこの家にいたら……。居ないはずの存在に震える心をなだめながら、真琴はゆっくりと歩を進めた。
右足……左足……右足……左足……
“今なら許してくれるかもしれないという気持ち”と、“逃げ出す決意”との間を揺らぎながら……それでも、真琴は前に進んだ。
階段を登った先には、マットな黒いスチール扉が待っていた。
ドアと同じ素材で造られたスチール製のドアハンドルに触れる。
ヒンヤリとした鉄の冷たさを感じた。
ゆっくりとドアを押す……。
そのスタイリッシュな見た目とは裏腹に、厚く、ずっしりとした重み。
行く手を阻むかのような抵抗感に、真琴は心が折れそうになる。
金属音の鈍く低い音が微かに響き、ドアが開いた。
廊下には誰もいない。
清潔で整った長い廊下は異様に不気味で、昔、どこかで見た、ゾンビが出てくるホラー映画の洋館を思い出す。
1つ目の扉を開く……音楽室なのだろうか。ピアノやギター、いくつかの楽器と、譜面台などが揃えてある。
2つ目の扉……絵画が整然と並べられており、美術館に迷い込んだような部屋。
一つひとつ、扉を開ける。どの部屋もまるで、舞台セットのような空間が広がっていた。
真琴は奇妙な違和感を感じた。
……この部屋、どこにも窓がない……。
どの部屋にも窓はなく、重苦しい雰囲気の部屋がいくつもあった。
部屋から部屋へと続く扉。迷路のように入り組んだ怜司の家を探るうち、真琴は、少しずつ焦り始めた。
そして……廊下の左奥の扉を開けて、辿り着いたその部屋。そこには───窓があった。
外だ……!
真琴は解放される喜びに、溢れる涙を抑えながら、震える手で鍵を開ける。ガラス戸を開け、一歩、足を踏みだす。
芝生と土の匂い、風が頬に触れる心地よさ。
ワンワンと吠える犬の鳴き声。真琴は五感を研ぎ澄まし、全身で外を感じた。でも……。
……何かがおかしい。
一歩踏み出す。
空も風も、周りの木々も全て本物。
だが、出口がない……。
見渡すと、四方は高い塀で囲まれていた。木々たちがそれを隠すように生い茂っている。
真琴は恐怖で後ずさった。
騙された……逃げないと……!!
嫌な予感が全身に広がる。鳥肌が立ち、足が絡まる。
振り返ろうとした、その瞬間。
背後から……冷たい声が響いた。
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