第10話 最初の扉
その晩、真琴は一晩中眠れなかった。
暗闇の中で、点滅する監視カメラの赤いライト。
──バレてはいけない──
私の企みに怜司が、気づいてしまうと⋯。
それは絶望を意味していた。
一日中、拘束されてしまう。怜司が帰ってくるまで、ベッドに縛り付けられて……。
真琴は、蛇に睨まれた蛙のように、動きを止めた。呼吸をも抑制し、寝返りのタイミングまで計算した。
ただ、祈るように朝を待った。
朝、普段通りの時間に怜司が朝食を運んできた。
目覚ましが鳴る少し前。
真琴は怜司に背を向け、瞼を閉じ、寝たふりを続けた。
扉が開く音。1日分の食事を載せたキャスター付きの小さな棚を押し、怜司は静かに部屋に入ってきた。
その後、丁寧に扉を閉め、テーブルへと料理を並べていく。
淹れたてのジャスミンティーの香りが部屋中に広がった。
配膳が終わると、今度は真琴に視線を移し、音を立てずに近づいてきた。
足枷の留め具が外れ、足首がフッと軽くなる。
怜司は自身の腕時計にチラリと視線を移すと、もう一度扉を開けて配膳棚を押しながら部屋を後にした。
カチャリという扉の閉まる音。
真琴は決意を胸に、ゆっくりと目を開けた。
13時を回るまで真琴は毎日のスケジュールを丁寧にこなしていった。
朝食を綺麗に完食した。
部屋の隅から隅まで指定された速度で歩行する。
「シュール過ぎ」と自分を嘲る頭の中の声を聞きながら、淡々と、室内を歩いた。
今日の課題は、詩の作成。
「陽の光が入らないから、君が私を照らしてくれる」とかいう、適当な詩をいくつも書き連ねた。
昼食に出た、サンドイッチを上品そうに食べ、改めて時計を確認する。
―13時―
昨日、怜司は「明日は夜、帰れないかも」と言っていた。ここから地方までは、車で2時間くらいはかかるだろう。そこからロケが始まるとして⋯脱出するなら今しかない。
正確な時間はわからなかった。
ただ、今日も昼食が置かれていたこと、帰りが遅くなることが予定されるスケジュールであることは確かだ。
真琴は意を決してドアへと向かう。
ドアには電子ロック。4桁の暗証番号。
頭をフル回転させる。毎日、真琴に課題として出していたもの。その中に答えがある気がした。
怜司の誕生日── 0430 ──
ビーというハズレの音が流れる。
真琴の誕生日── 0601 ──
またハズレ。真琴の手が、汗ばむ。
監禁された日── 0201 ──
同じ音が機械的に繰り返される。
止めるわけにはいかない。既に監視カメラで録画されてる。
怜司は何を言ってた?
いつも、私たちの出会いを大切にしてる。どんな出会い方だったか⋯その時、何を思ったか、何度も、何度もノートに書かされた。
出会いの日── 0728 ──
ビー……ハズレを告げる機械的な音が、真琴の胸を締め付ける。
考えろ……考えろ……私と怜司の関係する日……怜司がこの監禁部屋の暗証番号に使う数字……はじまりの……日?
真琴は震える手で、ナンバーを押す。
── 0 ── 8 ── 0 ── 1 ──────
お願い……っ!
カチッ
ロックが開いた。
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