第31話 レッツメイクジュンゼンタルミズ
こんにちは。私はエミリア・ベーカー。見習い錬金術師です。
「てかエマっちってどういう経緯でアマリ様が推しになったの? やっぱ顔?」
「失礼な! もっと深くて素敵な理由ですよ! 話すと長くなりますよ! お顔のかっこよ可愛らしさもありますが!」
突然ですが、少し昔話をしましょうか。
ええと、どこから話しましょうかね。
***
あるところに寂しがり屋の錬金術師が居ました。
なんでも作れた彼でしたが、彼とその妻との間には子供が出来ませんでした。
それでも二人楽しく暮らしていたそうですが、晩年、妻を見送った錬金術師は孤独の中であることを思いつきます。
妻の遺髪を使って妻を作れないかと。
彼は世界中の知識をかき集め、足りない材料をかき集めました。
煮込まれた鍋の中にはたしかに人間一人の構成成分が含まれていたはずでした。
しかしあら不思議。
出来上がったのは、妻に少しばかり似ているだけの、小さな女の子でした。
錬金術師は実験の失敗を嘆きました。
しかし、彼は女の子を育てるうちに、その子を実の娘(年齢的には孫でしょうか、もしかしたらひ孫でしょうか)のように可愛がるようになったのです。
それから数年の時が経ち、女の子はすくすくと成長しました。
そして──
「それが私です。可愛らしさがすごい」
「そうか。まあ愛情深く育てられたようで何よりだな」
「エミリア・ベーカー、推定年齢十二歳です! パンとクッキーが好きです!」
「そうか」
二年前、初めて会った時も、ジーン先生の相槌はつれないものでした。
「というわけでして、私、錬金術で作られたホムンクルスなんですけど、雇用契約的には大丈夫です?」
生みの親である博士が老衰で亡くなり、残された私は錬金術師仲間のツテからブレストフォード西錬金所の求人を紹介されました。
「ホムンクルスと人間の違いは?」
「ええと、私には魔力が全くありません。なので魔法が使えません」
「そうか。じゃあ、魔法が使えない人間、だろ」
ジーン先生は理屈派でクールなお方でした。少し博士に似ていると思いました。
「……え? 私、人間なんですかね?」
「理論上人間を構成する成分から出来てるんだから人間に決まってる」
「……そうなんですかね?」
私が首を傾げていると、ジーン先生は何やら鍋に試験管から液体を注ぎ、調合を始めました。
「エナマーツ ケオリノーイ ジイチ デイセ カエキ タイン」
出来上がったものは、なんてことのないただの水でした。
「この水は水のエレメントの単剤と空のエレメントの単剤から人工的に作った水だが、そこらの川や海に流れる水となんら変わらない」
「は、はぁ……」
いまいち意図が分からずに首を傾げ続けていると──
「むしろ不純物のない安全で純粋な水と言える」
ジーン先生はそのケミカルな工程で作られた水をコップに注ぎ、自ら飲んでみせました。
「味も問題ない」
「……変な人」
わりと本当に変な人だと思いました。
「何も変わらないはずだ」
「だいぶ変な人」
ちょっと引いた。
でも多分良い人だと思いました。
事前情報では偏屈な人だと噂になっていたので、実際に会ってみると案外優しそうな人で、心底ホッとしました。
と、店主に挨拶をすませたその時でした。私が運命の出会いを果たしたのは。
「ジーンくーん……って、わ! 誰!?」
「ひゃわ!? わ、私は、エマ、エミリアで、じゃなくて!」
奥の部屋から扉を開けて出てきたのは、人形のように美しいお兄さんでした。
「私は、新しい従業員として面接に来たものというか、なんというかですね……」
「……可愛い」
そんな方にじっと見つめられ、そんなことを言われて、嬉しくない乙女がいるでしょうか。
ハッと我に帰ったように口元を手で押さえて笑い、改めて視線を合わせるように腰を落とされ、手を差し伸べられます。
柔らかな声、ふわりとした立ち居振る舞い。
「こんにちは。私はアマリ。ここのバイトみたいなものかな。これからよろしくね」
「は、はひ、私はエマっ、エミ、エミリアで……」
握手のために取られた手のしなやかさ。
「緊張してるね? クッキーあるけど食べる?」
素敵すぎる私の王子様だと思いました。
こんなの、こんなのってもう。
「結婚してください!」
とアタックを開始したのですが、女性と知ったのはまた別のお話(その場でお断り文句に告げられました)。
***
語り終えると、ジャスくんは固まっていました。
「というわけです」
「なんかすげえサラッとすげえこと言ってね?」
私の初恋エピソードに文句があると言うのでしょうか。
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