第3話
自分への意識が、逸れたことを感じた。
少しの安堵と、疑問が浮かぶ。
人に追われていた頃の暗い記憶が呼び起こされ、
だがすぐに、気持ちを切り替えると男たちを追った。
三人だ。
それは分かったのだが、目的は分からなかった。
(いや……あの人も少し事情はあるようだが)
とにかく追って行くと【
それならばと一人になった方を先に打ち倒し、そのあと、潜んでいる二人を背後から襲って気絶させた。
男たちの実力は並だった。
暗殺を生業とする、そういう人間ではないと思う。
ただ剣に覚えのある者が命じられて佳珠を狙ったのだろう。
通りかかった侍女が倒れている男達を見て、ギョッとしていたが、幸い近くに紫苑宮の守衛場所があったので、人を呼んでくるよう頼んだ。
「
すぐにやってきた守衛兵が三人を縛り上げているのを見ていると、佳珠がやって来る。
「
徐庶は佳珠をその場から連れ出した。
「あの人たちは……」
「今から調べてもらいます。後のことは私が引き受けますので、貴方はもう紫苑宮にお戻り下さい」
「……私を狙っていたのですか?」
「……。」
徐庶は明確には答えなかった。
だが表情からすると、そうなのだろう。
それに付き合いもないのだ。
それは恨まれる縁すら一つもないということだ。
だから自分が狙われたのは奇妙なことだった。
「……安心して下さい。調べれば雇った者が分かります。
そうすればこちらも手が打てる。
貴方は
しばらくは城の中も一人で移動することは控えて下さい。
あの様子ではそう時間も掛からないと思います」
押し黙った陸議に気を遣い、徐庶が口を開いたのが分かった。
陸議はハッとする。
「ご迷惑をおかけして、申し訳ありません」
「取り調べには私が同席し、仔細は司馬懿殿にお知らせします。
貴方は何も気になさらないでいい」
「……。」
「どなたか……呼びますか?」
「いえ、すぐそこですから。帰ります」
陸議は疲れを感じて、そう答えた。
自分が狙われたのなら自分が取り調べに同席しなければと思ったが、最近はこういう時に集中力が持続しない。
それに自分が狙われる意味も全く分からないが、それを知りたいという気持ちも湧いてこないのだ。
別に狙うのなら狙えばいい、そんな風に思ってしまう。
「徐庶殿も、これ以上お付き合い頂くのは申し訳ありません。
今は遠征も控えておられて、多忙でおられます。
今日はもうここでお戻り下さい。
取り調べの仔細は、いずれにせよ司馬懿殿の耳に入るでしょうし……、後のことは近衛に任せて、どうぞお帰りになって下さい。
今日は、……色々ありがとうございました」
佳珠として深く徐庶に一礼すると、後はもう振り返らず居城の方に歩いて行った。
居住区に着くと司馬懿は戻っていたが、訪問者がいたようで客間にいるようだった。
陸議は寝室に真っ直ぐに向かうと、寝台に身を投げ出した。
女の纏いでここに戻ると、司馬懿は女衣や装飾品を外すなと命じるのだ。
男の時は全ての纏いを脱がされ抱かれるけど、女の姿の時は衣装などはそのままで司馬懿は抱いてくる。
よく分からなかったが、どうやら初めて
自分を狙っている人間がいることなど、目を閉じるとどうでもいいと思えてきた。
涼州遠征。
考えているうちに眠気が襲って来て、陸議はもはや抗わなかった。
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