第2話 夏が始まる①
「明日から夏休みだけどたっくん今年はうち、泊まりに来る?」
日中の水泳の授業で使った用具の入った手提げを時々足で軽くけり上げながら尋ねる。暑さのせいと放課後という時間が緩くしてしまった美少女の胸元が無自覚にも男子高校生を刺激してくる姿勢となっていた。おい、その前のめりになりながら覗き込むやつやめろ、マジで普通の男ならいろいろ勘違いしちゃうから!などという琢磨の心の叫びはむなしく脳内に響くだけであった。
「ん、あぁ、いやぁ、お泊りって流石に高校生にもなってそれはまずいだろって。それに普通に考えて年下の女子高生の家に男子高校生が泊りに行くのはまずいと思うんだけど……」
一つ上のしかも幼馴染という手前、彼女を男として、いや、せめて獣のとしての目線を送ってしまわぬよう必死に歩道の、花蓮とは反対側、車道側を見ながら返す。
「でもさぁ?一応たっくんの教育係を齢12にして任されるようになって早3年ですよ。そろそろ教育の『真価』を試す合宿的なものがあっても、いいと思うのですよ。」
「し、真価……?」
思わず花蓮の方を振り返ってしまった。いったい何の真価だというのだ、何の教育の。いやまさか、そんな教育はされたことが無い、でも、
「年頃の高校生の夏休みだしもしかして……。」
ごくりとつばを飲み込む。
「なので、たっくんには泊まり込みで我が家の家事をしてもらいます!!!名付けて、『たっくんを良いお嫁さんにしよう合宿in ハワイ』!!です!!!」
おもむろに立ち止まり「です!」と同時に天めがけてこぶしを突き上げた。慣性の法則で体ももちろん揺れるわけで。
(クズ尾芭蕉なら、乳にしみいるなんとやらと呼んでいたのだろうな。じゃなくて!)
「です!!!じゃないが?いくら家事手伝いだけですって言ってもやっぱ泊まり込みはまずいって。てか、in ハワイはなんだよ。ここ思いっきり都内でだけど!?」
「夏休み企画にはin ハワイをつけることで視聴率が上がるってどこかで聞いたかもしれない!つまりそういうこと。」
「視聴率って何の……」
少なくとも今のこのけしからん女子高生の視聴率を上げるわけにはいかないのでそろそろ男らしく注意することにした。
「それと、さっきから気になっていたんだけど、お前、リボンとかシャツのボタン緩め過ぎだ。誰が見てるかわからないぞ。」
「あー、これ?まぁ暑いってのもあるけど、たっくんこういうの好きかなーって思って。どう?興奮した?ずっと目をそらしてたけどやっぱりしてたよね?ねぇねぇ?」
「そういうとこに気配りが行くなら俺以外の男の目線にも気配りしてくれって……。」
「あぁ、そういう……」
少し恥ずかしそうにボタンを閉めると、明らかに周りの通行人の足が早まったのを感じた。
「じゃ、そういうことだから日程が決まったらまたLINEするね!」
そう言い残すといつの間にかついていた花蓮宅へと吸い込まれるように消えていった。
「合宿、真価、ねぇ……」
自宅を目指しながら、琢磨はいつの間にか家事を仕込まれていたらしいことに疑問を持つことをあきらめた。
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