第8話

車の中で柚子が、『私も連れていってよ。邪魔しないから。あの子が心配なの。』


三人に伝えるが、毒島がすぐに反対する。


『お前は関係ねぇんだから、飯食ったら帰れよな。死んでも責任取れねぇし。』


『連れてってくれないと警察に言っちゃうから。あんたたちに誘拐されたって、あの子すごく怖がってたよ。私も無事か確かめたい。』


『ここで殺しちゃだめなのか?食費も浮くぞ。』


毒島がナイフを取り出し、柚子の首元に近づける。柚子は、首筋に冷んやりとした感覚が走るのが分かり、両手を小さく上げる。


『私を助けた意味がないじゃないの!あと車が汚れるわよ。高そうな車ね。困るんじゃないかしら。』


少し時間をあけて、林檎が答える。


『車からは出るなよ。娘を保護したらすぐに帰るんだ。』


車が汚れるのを嫌ったため、渋々承諾した。

毒島の鋭い視線が、座席越しに伝わってきたが無視した。桃は、のどが渇いていたためそんなことはどうでもよかった。

林檎はドライブスルーで注文を済ませた。桃は、渡されたスプライトを勢いよく飲む。柚子は、自分で選んだバニラのシェイクをちゅうちゅうと吸っている。毒島は、いちごのシェイクを手に取り、バニラなんかセンスがないな。と文句を垂らしている。柚子に大人げないと指摘され、いらついたようにストローを噛みしめていた。


娘が降ろされたビルに向かう途中、桃にボスからの電話が鳴り、苦渋の決断をしたかのように電話にでる。


『娘はどこだ。無事なんだろうな、どこにいる。』


ボスの質問に、俳句みたいに喋るな、季語は娘だろうか。と林檎がにやけそうになる。


『車を追いましたが、途中どこかのビルで降ろされたそうで、止めた頃には、目撃者である別の女の子しかいませんでした。今、娘さんが降ろされたビル付近に向かってます。大至急。』


マクドナルドのドライブスルーに寄って、ナゲットを頬張っていることは言わなかった。


『早く探し出すんだ。娘に怪我でもあってみろ、お前らの墓場はアルコール度数42%の樽の中だぞ。』


冗談なのかは分からなかったが、とりあえず、必ず助け出します。と言っておいた。


『ていうか、娘さんずいぶん指輪気に入ってますね。ずいぶんきついでしょうけど、砂場に落としてましたよ。あとで届けます。』


桃がそう伝えると、ボスは首をかしげる。


『指輪は家に置いてある。知ってるだろ、サイズが合わないから付けないんだよ。心配で発信機を入れ込んでいたんだが、家にあっても意味がない。』


ボスは、悔しそうに話して電話を切った。

じゃあ、この指輪はなんだ。と左胸ポケットに入れておいた指輪を取り出す。よく見ると宝石とは少し違う、小さな機械的な物が埋め込まれていて、内側には小さく、1123の数字が彫られている。たしかに、サイズも大きいような気がする。このサイズならすぐに娘の指から外れるはずだ。


『1123、確かにおれは、いい兄さん』


桃は、ボスに対抗するかの如く、俳句のように呟いていた。喋り出す前に、ここで一句。と聞こえた気がして、林檎は可笑しかった。


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