第6話

毒島が捉えた車の左助手席から、男が飛び出してきた。手の行方が見えず、武器を構えているように見えた。桃から聞いたニット帽の男とは違う、比較的小柄で革のジャンパーを着た男だった。

話し合いをするつもりもなく、毒島は銃弾を飛ばす。風邪のせいなのか腕のせいなのか、男から少し外れたドアミラーに当たる。毒島の舌打ちが聞こえると同時に、桃が車から飛び出し、銃を構え、男の右肩付近に命中させる。桃が、こちらをにやにやしながら見てくる。侮辱された毒島は、銃口をひらひらさせながら桃に向ける。


『気分が悪いんだよ。仕方ねぇだろ。フェアじゃねぇよ、フェアじゃ。』


と必死に弁解する姿が、桃には滑稽に見えた。

林檎は、もう一人の男がどんな行動を取るか集中していた。一応、運転席から銃を取り出して、シートベルトを外す。

車から、女の子の首に大きめのナイフを突きつけた、ニット帽の男が出てくる。慌ただしく、手際が悪く出てくるのを見て林檎はいらっとした。

感情的になるところだったが、拍子抜けし、目を丸くする。


『あの子は、ボスの娘じゃない。』


やれ、俺はお前より銃の扱いの歴が長いとか、やれ俺は、西部劇の映画を見漁ってるんだとか。

不毛な争いをしていた桃と毒島が振り返る。

黄色のワンピースを着た女の子を見て、三人はあっけにとられる。


『隠し子がいたのか、知らなかったぞ。』


毒島が口をぽかんとする。


『隠し子なんていねぇよ。顔が全然違うじゃねぇか。あの子の方が賢そうだ。』


桃が、十五歳くらいの黄色い服の女の子を銃で指す。


『どうゆうことだ、ピンクの服を着た娘があの車に居たんだろ。』


林檎が車から降りて、桃に尋ねる。

ニット帽の男が、お前らはだれだ。と叫んでいるのが聞こえたが、三人は緊急会議を開く。桃と林檎は銃を降ろし、毒島は腕を組み、唸る。


『娘がいたのは間違いねぇとは思うがなぁ。まだ中にいるんじゃねぇか。あの子はどうするよ。』


桃が車のバンパーに体を預ける。


『見てしまったものは仕方がないな。とりあえず、あの子を助けるしかない。』


林檎が結論付ける。案がまとまった三人は、銃構えてぎらりと男を睨みつける。男は怯み、女の子を掴む手に力を入れる。人質の女の子が、ひぃという声を漏らす。


『俺の邪魔すんじゃねぇよ!誰だお前ら、殺すぞ!』


自分の震えてる手を元気づけるように、男が大声で抵抗する。その姿が、三人からすると稚拙だった。完全に素人だ。


『ああいうやつに人は殺せねぇな。感情的になって叫ぶだけだ。多分、銃も持ってねぇよ。』


桃が口を尖らせる。


『おーい、そこのロリコン。今頃、かあちゃんが泣いてるぞ。真面目に働いて、立派な風俗にでもいくんだな。俺は年上が好きだからよぉ。お前の気持ちは分からねぇが、落ち着いてその子を寄越すんだな。』


毒島が説得すると、男は顔を真っ赤して、殺してやる、とこっちに向かって来た。

男が、女の子から離れたのを桃と林檎は見逃さなかった。ほぼ同時に銃弾が、男の胸付近に二つ入った。


『案外すぐ終わったな。』


桃が、震えている女の子を車に放り込み、これで座席を平等に使える。毒島も偉そうに座れねぇな。と安堵する。車の中に娘はいなかった。林檎は、革のジャンパーを着た男が生きているのを確認し、尋問のために男の指を二、三本へし折る。男が鈍く唸り声をあげた。


『そりゃそうだ。フェアじゃねぇからな。フェアじゃ。』


毒島が後部座席で、キャップを開け、水を飲み干すのところを女の子がまじまじと見ていた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る