第5話

林檎は、ずっと開かなかったビンの蓋が急に外れたように、ハンドルを左に回した。

毒島の頬が右側の窓に当たる。いってぇ、もっと丁寧に走らせろ。毒島のクレームが後ろから飛んできたが、無視して前のバンに集中した。


『タイヤ撃っていいか?』


毒島が、スライドをジャコンと鳴らし、窓を開けている。


『できれば銃は使いたくない。まだだ。』


林檎は、運転に忙しいはずだが、冷静に毒島を抑える。


『俺が見たのは一人だったが、他にも仲間がいるかも知れねぇし、娘がいるんだ。派手な動きはできなねぇな。』


桃が、胸ポケットから細いジャックナイフを取り出し、くるくる回しながら、唇を尖らせた。

暇そうな桃は、緊張感を持ちつつも、街中の景色をぼーっと眺めていた。

毒島も今のところ役がなく、レッドホットチリペッパーズのバイザウェイを口笛で吹いていた。

しばらく車を追っていたが、黒のバンのスピードが明らかに速くなった。


『気づかれたな。道が平坦になったところで、後ろのタイヤを撃って止めろ。』


林檎が痺れを切らして、指示を出す。

桃と林檎は、後ろの毒島の鼻息が荒くなっているのが聞こえたが、気にも留めなかった。


『帰ってトップガンを見る予定があるからよ、とっととやっちまうぞ。』


毒島は右の窓から身を乗り出し、引き金を引くと同時に、黒いバンの右後輪がしおれていくのが見えた。立て続けに桃が、左の後輪に銃弾を打ち込む。

娘を乗せた車が、大きなエンジン音とは裏腹に、減速していき、物件探しの看板の前で停まった。


最初に毒島が車から降り、『ダニーって女の子は僕に歌を歌ってくれる。看板の下で、もう手に負えないよ。』

バイザウェイの歌詞を日本語で呟きながら、銃を構えた。



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