デスループ

OROCHI@PLEC

デスループ

 野良猫でもないのに名前がない。僕は何と呼ばれたら良いのか分からない。

 この国の名前は何というのだろう。

 言葉だって、喋れるけれど、僕は頭が悪いから、理解が難しい。

 ただ、この町がウィルということは分かるし、僕がミーと呼ばれていることが分かる。


 けれど、名前というものを周りの人に聞いてみたら、「親に与えられた大切なモノ」って言うんだ。

 分かんないよね。親って言うのは、自分を生んでくれた人たちらしいけれど、僕はすぐに捨てられたから。


 でも、僕は実際にミーと呼ばれている。きっと、僕が自分を呼ぶときにミーというからなんだろう。

 今日もそこらで適当にクズ拾いをする。ガタイの良いボスに七割を取られる。

 そして、その後に一つ、命令を出された。


「対抗のギャングのボスをやれ」


 ボスは僕に、今まで持たせたことなかったようなピストルを持たせた。持ちやすいけれど、ボスはこの時ばかりは優しく、引き金の弾き方と、セーフティーの解除の方法を教えてくれた。ボスが優しくしてくれたのは、これが初めてだった。


「帰ってこれたら、お前を俺の側近にしてやる」


 甘い言葉に囁かれた僕は、すぐに対抗のギャングの基地へ向かった。


「スミマセン。ボスはどこですか」


 相手から見たら、見知らぬガキがギャング体験をしに来たとでも考えたのだろうか。ボスと違って若いガタイの良い人に手を繋がれて。


「おい、ガキ。ここで持ってるもん全て置きな」


 と脅されるのだ。


「ちょっと待ってよ。ミーは、ただボスに会いたくて」


 言いかけて、僕は殴られる。その瞬間、隠していた内ポケットのピストルと、一つボスがピストルに括りつけてくれた弾薬入れの紙が落ちる。


「あー。やっぱりな。お前、あっちのギャングの刺客だろ」


 若い男はピストルを取って、銃弾を装填する。


「だめじゃねぇか、銃弾を先に入れておかないと」


 若い男は僕の上に体重を乗せる。腹が締め付けらえて、痛い。


「……違う。ミーは、ただボスに言われて」


「かわいそうに。んで、弾薬入れか。ふん、どうせ手紙だろ。一回じゃないんだよなぁ。これが」


 若い男は弾薬をポロポロと落としながら、その紙を広げると、すぐに顔を真っ赤にして、その手紙を別の男に渡した。

 男はすぐに僕の頭へピストルを突きつける。

 ここで、男からピストルを奪わないと、僕は死ぬ。


 けれど、僕が死んだところで。名前の無い僕が死んだところで、誰が悲しむんだ?


 生まれてきてから、誰からも優しくされてこなかった。だから、ボスに優しくされたとき、努力が報われたと思ったのに。


「ミーは、まだ、何もしてないのに」


 力を入れようが、すぐに押し付けられる。


「かわいそうに。言葉すらうまく使えていない」


 そのまま、若い男は僕の頭を打った。


 走馬灯というものが流れることはなかった。周りの大人によくからかわれるから、嘘なんだろう。

 けれど、次目を開けたら。


 ピストルをもって、対抗ギャングの基地の前でノックをしようとしている自分がいた。


 思わず尻餅をつく。

 ミーは確かに死んだはずじゃ?

 ……あれは夢だったのだろうか。

 分からない。


 でも、撃たれた時、ミーは苦しかった。

 撃たれる前、死んでも良いとミーは思った。

 だけど、死というものは想像していたよりも、何倍も、何千倍も苦しかった。


 あれが夢だとしても、現実だとしても、ミーはもう一度生きるチャンスをもらえた。

 なら絶対に今度は死なない。


 あの若い男がやっていた通りに弾薬を弾倉に入れる。

 うまく入った。


 そして扉をノックする。

 前と同じ男が出てきた。

 このままだったら先程と同じ目に遭ってしまう。

 だからミーは、銃の引き金を男に向かって引く。

 銃弾は男から大きく逸れて飛んでいき、ミーはそのまま銃を奪われてまた撃たれて死んだ。


 はずだった。

 気づいたらまた扉の前に立っていた。

 どうやらミーは、死に戻りをしているらしい。

 この能力があれば、ここのボスを倒して、みんなも喜んでくれるはず。


 そうしてミーはまた扉を叩く。


 5回目で銃弾が男に当たった。

 10回目で一人殺せた。

 20回目で二人目も殺して

 その後、出てきた他の構成員に殺された。


 50回目で弾切れを起こし、

 100回目で銃弾を持っている構成員から弾を貰うことを学び、

 200回目で全員殺せた。

 300回目で……


 数え切れないほどの回数を重ねた後、遂にその瞬間が来た。

 扉の陰で待ち伏せしている敵を通りすがりに撃ち殺し、重厚な扉を開ける。

 開けた瞬間に中に転がり込み、中にいた10人の構成員の頭を寸分狂わず撃ち抜く。


 そして椅子に座っていたボスが何かを言う前に瞬時に撃ち抜く。

 以前このボスと話した時、隙を突かれてそのまま撃ち殺された。

 こいつとは話さないのが一番だ。


 辺りを見渡し、生存者がいないことを確かめる。


「これでやっと終わった」


 思わずそんな言葉が飛び出る。

 何回死んだかは分からない。

 それでもなんとかやり遂げた。

 これでミーはみんなに優しくしてもらえる。


 ミーはそのまま、スキップしながらボスの元へと帰る。

 ボスの部屋に行く途中、他のみんなが恐れた目でミーのことを見ていたけど気にしない。

 これが終われば、みんなミーに優しくしてくれるのだから。


 ボスの部屋の扉を開け、そのまま中に飛び込む。


「ボス、ミーはやりました! やり遂げました!」


「そうか」


 ボスはそう言い、懐に手を入れる。

 何かくれるのだろうか。


 懐から出てきたのは、真っ黒な拳銃だった。

 そのままミーは撃たれる。

 思わず叫ぶ。


「どうして! ミーはボスの言う通りにしたのに」


「簡単な話だ。お前に監視をつけていた。良くやったが、あんだけ派手に動いて警察が動かない訳ないだろう。お前はすぐにボロを出す。面倒なことは早めに片付けておくのが良い」


 ミーは悲しかった。

 こんなにも頑張ってきたのに、ボスに殺されるなんて。

 でも大丈夫、ミーには死に戻りの能力がある。

 ……何故か時が戻らない。

 代わりに体が少しずつ冷えていくのを感じる。

 時よ戻れ。

 ……戻らない。


 戻れ戻れ戻れ戻れ戻れ戻れ。

 死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない。


 ボスはただ一言言う。


「片付けろ」


 その声に従って、待機していた部下達がかつてミーと呼ばれていた死体が運ばれていく。


 ここで画面が暗転した。


「あーやっとここのステージクリア出来た!」


 とある日の夕方、一人の少年がゲームをプレイしていた。


「このミーってキャラ操作しにくくすぎだろ」


 少年は呟く。


「まあ、今日はこれで終わりにするか」


 そう言って少年はゲームを保存する。

 そのゲームの名前はウィルの極道という名前だった。

 

 ミーは、そのゲームにおいて、サブキャラですらなかったのだ。

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