第14話 文化祭で生まれる銀河
「次は、二年三組。演目は『銀河鉄道の夜』です。」
ビーという開園の合図と共に、幕が開いた。
最初は、主人公ジョバンニが星祭に行く場面。このお祭りがきっかけで、ジョバンニは銀河鉄道に乗ることになる。
登場人物も多く、派手な雰囲気で掴みは上場。毎日遅くまで演技の練習をみんなでしていただけはある。
友彩は台本を追いながら、次に使う小道具を舞台袖で準備しながらそれを見ていた。
「始まったね」
「うん」
「緊張してる?」
「ちょっとだけ」
強張った表情の友彩を見て、若菜はぐーっと頬を持ち上げて来る。
頑張って作った星空の出番はもうすぐ。別にそれはただの背景で、主人公でもなければスポットライトも当たらない。しかし、確実に劇に必要なものでそれが本物の銀河に見えるかどうかでクオリティは大きく変わる。
だから、ちょっとドキドキしていたが、思いっきり顔をほぐされたことで少しだけこわばりが和らいだ。
「ありがと」
感謝を述べると、若菜はにっと白い歯を見せ、大丈夫だと元気付けてくれた。
「暗転するからみんな準備してー」
第一幕が終わり、裏方は大急ぎでセットを変える。汽車に見立てた椅子を並べて、後ろの背景を入れ替え。迅速に、静かに、各々が仕事に取り掛かると、数十秒の後、またライトが付いた。
「わあ…」
体育館が感嘆で満たされたのがわかって肌がビリビリした。
舞台の上には、絵具と折り紙で立体感を出して遠近を表現し、金色が光にキラキラ反射して自然と輝く銀河が広がっている。上手い具合に、薄暗い照明がマッチしていて功を奏した。
観客席を覗いてみると、こちらを向く何十、何百もの顔がそれこそ星々のように瞬いていて、心臓がぎゅっとなる。
「す、すっごいね!望木さん!」
「どうやって作ったの!?」
「めっちゃキラキラしてる!」
そして、舞台を見るやいなや周りのクラスメイトが一斉に集まって来た。みんな、こんな上手に作ったなんて凄い!と超ハイテンションで褒めてくれて、思わずきょどってしまう。
顔しか知らないような子も、英語でディスカッションをするときにいつも気まずい子も、毎日朝の電車が一緒なのに喋ったことがない子も、みんなみんなすっごく喜んでくれたのが嬉しくって、ついにししと笑顔になった。
— — — — — — —
「劇部門最優勝を獲得したクラスは――二年三組!!」
「うわああぁぁぁっ!!!」
二日間の文化祭が終わり、閉会式での各賞受賞クラスの発表の瞬間――胸の前で合わせていた手をみんな上に挙げて、まるでオリンピックで金メダルを取ったかのように雄叫びを上げた。
バカみたいにはしゃいで、女子はぴょんぴょん飛び跳ねて、男子は胴上げなんかしちゃってる。
よっぽどお菓子とジュースが嬉しかったんだろう。
「『銀河鉄道の夜』という作品への理解度が高く、よく練習したのが伺えました。観客からのアンケートでは、背景の銀河がまるで本物みたいで良かったという声が多かったです。後ほど商品はクラスに運ばせていただきます。改めておめでとうございます!」
文化祭委員長による講評が続くが、盛り上がっているみんなはそんなの全くそっちのけだ。
でも、友彩はしっかり聞こえていた。改めて自分の頑張りを認めて貰えた気がして、思わず小さくガッツポーズしてしまう。
ちらっと横を見ると、太陽みたいににっこり笑った若菜がいて、周りの雰囲気に便乗して「はい!」と両掌を差し出した。
「いえーい!!」
パチンと音を鳴らして歓喜のハイタッチを決めると、想像以上に掌がひりひりして、「いったーい」とくすくす笑い崩れる。
もう、若菜と友彩は顔を見るだけで言いたいことが伝わる仲だ。そんな友達ができるなんてちょっと前の自分に言ったら鼻で笑われていただろうけど、今の友彩は肩の力を抜いて他人と話ができる自分がちょっと誇らしい。
「おーい!景品が来たぞ!」
重そうな段ボールを抱えて教室に帰って来た男子が来るやいなや、みんながぞろぞろそれに群がる。
全員にパックのリンゴジュースが配られると、円になってそれを片手に音頭がとられた。
「文化祭お疲れ様!今日は楽しむぞー、カンパーイ!!」
「「カンパーイ!!」」
その後は、文化祭の片づけで下校時刻が遅いのをいいことに日が暮れるまでみんなでわいわい。
友彩の作った背景が大きく貢献したため、それをネタにそれまであんまり話したことがない子達ともたくさん話が出来た。
本当にくだらない話を続ける内にみんな
「友彩さんってもっと冷たい人なのかと思ってた。面白いんだね」
と、友彩との間に感じていた壁をぶち壊してくれた。いや、本当は壁なんて最初からなかったのかもしれない。ただちょっと、みんなと近付くきっかけを上手く友彩自身が救い上げて、一歩踏み出す勇気を出せただけ。
それが出来なかったなんて、前の自分はバカだったな、なんて思えた。
こんなにたくさん喋ったのは本当に久しぶりで、家に帰ったら吸い込まれるようにベッドに倒れた。
「疲れたぁ」
口ではそう言っていたけど、頭ではこれもあんまり悪くないと思った。何かに一生懸命に取り組んで疲れるのも、誰かとふざけまくって疲れるのも、喋りすぎて口が疲れるのも、笑顔で一日中いて頬が疲れるのも、みんな悪くない。
毎日何も感じずただ時間が過ぎるのを待っているくらいなら、これからもこうやって毎日くたくたになって毛布に入りたい。そう思った。
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