第13話 会いたい、謝りたい
「見て友彩!垂れ幕完成したよっ!」
「こっちもこっちも!めっちゃ上手くできたよ若菜!」
夏休み最終日。
二人は体中インクだらけにしながら、完成した作品をババンッと見せ合った。
教室の床に広げられた垂れ幕と劇の背景は、どちらも素人作とは思えない程によくできていて、この一か月ちょっとの努力の成果が表れている。
「これなら絶対一位取れるって!」
毎日毎日学校に来て、下校のチャイムが鳴るまで星空をにらめっこする生活は、ぶっちゃけ結構大変だった。外は暑いし、床に座って作業するから膝は痛いし、一緒に教室にいる他の子たちと他愛もない会話をしないといけないし。
でも、完成した作品と無邪気にキラキラした笑顔を向ける若菜の顔を見れば、それも良い思い出なのかなと思えた。
だって、毎日溜息を吐きながら学校までの通学路を歩いていたはずなのに、今ではちょっと顎を開けて青空を眺めながら登校しているんだもん。それを自覚した時思わず目を点にしてしまったが、もうとっくに友彩は学校が好きになっていたのだ。
「明日みんなに見せるの楽しみだね」
クラスのみんなが友彩の作った背景を見て喜んでくれる光景が目に浮かぶ。それはとっても嬉しいし、それをきっかけに他の子とも接点を持てたら良いななんても思う。
今更遅いかもしれないけど、今まで自分で作っていた壁は取っ払って、『友達』になりたいなって――
「――ごめん!急用思い出した!先帰るね」
「え?ばいばい…」
机の上の自分のバックを奪い取るように手に取り、急に教室の外に走り出す。若菜がぽかんとした顔をしていて申し訳ないが、今はそれどころではない。
ひたすら校舎の中を走り回った。テスト前に勉強した図書室、美術で描いた桜の木、体育祭をした校庭、いつも見送ってくれた昇降口、そして最後に毎日一緒にお弁当を食べた屋上までの階段。
――全部全部思い出の場所だ。
「幽霊君、なんでいないの…」
はあはあと息を切らしながら、膝に手を付く。
学校中を探し回っても、すらっとした後ろ姿はないし、芸能人みたいに爽やかな笑顔は見つけられなかった。
お昼に一緒にお弁当を食べたり、ぎゃーぎゃーどうでもいい喧嘩をしたりしていた階段にペタリと座り込む。
いざ思い出すと、幽霊君は物を触れないからご飯を食べてたのは友彩だけだし、喧嘩だって友彩がツンケンして突っかかってただけな気がするが。
でも、そうだったとしても今は幽霊君に会いたい。謝りたい。
見えなくなっちゃえばいいなんて言ってごめんなさい。
本当はわかってたの、幽霊君はずっと心配してくれてたんだって。なのに、耳心地が悪いからって酷いこと言っちゃった。
幽霊君だって長い間一人ぼっちで、やっと喋れる人が見つけられたのに、もっと幽霊君がしたいことを一緒にしてあげれば良かった。
もう一回だけで良いから姿を見せてくれない?ほんの一瞬でも良いからさ。明日からは学校が始まって、文化祭準備も本格的になり、きっと幽霊君のことを探したりは出来ない。だから今しかないの。
私、笑顔の持つ魔法も、友達の与えてくれる力も全部わかったんだよ。過ぎ去った過去なんてごみ箱に捨てて、楽しい今を大切にしようって思えたんだよ。
「ねえ、幽霊君。返事をしてよ…」
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