第1話(前編)──新たなる流転

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『黄金と血のニューヨーク ― マフィアの帝国』第一章第1話【登場人物】

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『黄金と血のニューヨーク ― マフィアの帝国』第一章第1話【作品概要】

https://kakuyomu.jp/users/happy-isl/news/16818792436385100295

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前書き

 失われた妻と祖国、全てを奪われた男――エドゥアルド。彼は仲間ルドラとともに、マイアミからニューヨークへ向かう機内にいた。彼らの耳に届く無線の向こう、南米メデジンから響いてきたのはソフィアの緊迫した声だった。

 相棒インタイの手によって、憎きカルロスはすでに命を落とした。だがその現場を見た者はいない。事故死として片付けることがルドラの提案だった。真実は闇の中へ――。

 エドゥアルドの運命はここから大きく動き始める。


本文


☆マイアミからニューヨークまでの機内:午後7時半

 ルドラとエドゥアルドが機内で携帯食「サンドイッチとコーヒー程度のもの」を食べているとき、無線が突然繋がった。メデジンのソフィアの声だった。横にはインタイも居る。


ソフィア:インタイがカルロスを射殺し、ローザは逃げた。射殺するところは目撃されていない。インタイを助けるために銃の暴発事故でカルロスは死亡したということにし、メデジン市警もそれで納得した。兄にはどう説明したら良いのか?


ルドラ:インタイがやったなんて言うんじゃないぞ。インタイは優秀な男で将来がある。カルロスを殺す動機もない。動機があるのはエドゥアルドとお前だ。お前がエドゥアルドに頼んでカルロスを殺してもらったことにしろ。丸一日医者が手当を尽くしたが助からなかったことにすれば全てが丸く収まる。エドゥアルドの顔も立つし、インタイもマフィアと関わりを持たなくて済む。


ソフィア:分かったわ。インタイのためにそういうことにするわ。今から兄に電話しておく。でもエドゥアルドは兄に一目置かれるわね。中々根性があるって。実は根性なしなのにね。


エドゥアルドはショックを受けている。


ルドラ:話は聞いたか?インタイがお前のために仇を討ってくれたぞ。お前の気持ちも複雑だろうが何れにせよ一番の仇カルロスは死に、ローザは逃げた。あとはお前が金と権力を握り、カルロスの妹夫婦「妹:エミリア・ロドリゲス(35歳)、妹の夫:ホセ・ロドリゲス(37歳)」から奪われたウィラのコーヒー農園と1千万米ドルの金を取り返すだけだ。


ルドラ:今度の件でアンジェロがお前を部下に取り立ててくれるかもしれん。チャンスを逃すなよ。お前に軍資金1万米ドルとコカイン耐性薬100錠、コカインン拒否薬100錠、新万金丹100個をやる。新万金丹は毎日一個飲むんだぞ。一週間で効き目が現れる。


エドゥアルド:ルドラさん。何から何まで有難うございます。必ず目的を果たします。この恩は一生忘れません。


ルドラ:まあ、良いよ。お前も根性なしに見えるが、実は思慮深くて優しいところがある。そこがお前の良いところだ。インタイは男らしいが、血気に逸り過ぎる。あいつを助けてやれよ。お前とインタイは良いコンビだと思うぞ。


2月14日木曜日午後8時:ニューヨーク市サウス・ブロンクス私設飛行場(アンジェロ所有)


 ルドラとエドゥアルドはマイアミの私設飛行場を午前11時に出発し、8時間の飛行を終えてやっと到着し、アンジェロの倉庫に純度99.9%の粉末コカインを1トン積み込むことが出来た。アンジェロの部下たちが中身を確かめている。ルドラたちはアンジェロに呼ばれて事務所まで出向いた。


アンジェロ:お前たちがルドラとエドゥアルドか?


ルドラ:私がルドラ、こいつがエドゥアルドです。


アンジェロ:先ず取引を済ませよう。確かに物(ブツ)は本物だった。約束通り、4千万米ドルの小切手を渡そう。来月も16日までに頼むぞ。


ルドラ:了解しました。それでは私はこれで失礼します。


アンジェロ:まあ、ちょっと待て。俺の話も聞いてくれ。


アンジェロ:俺は今コカイン密売の他にスロットマシン事業とカジノ経営をやろうと考えている。妹のソフィアからエドゥアルドが根性のある男だと聞いている。エドゥアルドを俺の部下にしたい。


ルドラ:ボリビアからコカインを運ぶ仕事は誰がするんですか?エドゥアルドにやってもらうつもりでいたんですがね。


アンジェロ:月に一回のことだろう。兼業でやれば良い。運び賃として一回当たり3,000米ドルやるよ。


エドゥアルド:粉末コカインの運び賃はリスクが大きいですから1トン当たり1万ドル貰いたいですな。


アンジェロ:良し。そうしてやろう。俺の部下としての給料は月に3,000米ドルだ。今回の運び賃と合わせて13,000米ドルやろう。


エドゥアルドは歩合でないのが不満だったが、ここは大人しくありがたく貰っておいた。


アンジェロ:エドゥアルド。お前はしばらく事務所で寝泊まりせい。電話番をするんだ。


ルドラはそのまま私設飛行場から飛び立ち、マイアミからカルロス牧場まで出発した。


2月14日木曜日午後10時:サウス・ブロンクス・アンジェロ事務所


 夜の静寂が事務所を包む中、エドゥアルドは疲れ果てた身体をベッドに沈めようとしていた。しかし、その静寂は突如として破られ、ドアがガラリと開けられた。入ってきたのは、力強い眼差しと豊かな体型を持つ女性、ビアンカ・マルティネスだった。彼女はアンジェロの妻であり、その存在感は部屋中を満たしていた。


 ビアンカはエドゥアルドに向かって声をかける。


「あんたがエドゥアルドかい。私はビアンカ・マルティネス。アンジェロの妻さ」


 エドゥアルドは彼女の言葉に驚き、急いで身を起こした。彼は彼女の前で恐縮しながらも、礼儀正しく自己紹介をした。


「私がエドゥアルド24歳です。何も分かりませんが精一杯やりますので宜しくお願い致します」


 ビアンカはエドゥアルドの言葉とその態度に微笑みを浮かべた。彼女は彼の若さと熱意に感じ入ったようだった。


 エドゥアルドの平身低頭ぶりが気に入ったようで、彼女は「そんなにかしこまらなくて良いよ。もっと気楽にしな。ところで上物のコカインを持っていたら、少し私にくれないかい」と言う。


 エドゥアルドはルドラやインタイから少し「500グラムほど」貰っていたのでビアンカに0.2グラムほどの紙包を渡した。


 ビアンカはそれを美味そうに吸い、残りを「あんたも吸いなよ」と言って渡してくれた。元コカイン中毒者には毒なのだが、ルドラから以前飲ませて貰った耐性コカイン薬の効き目は永遠にあるようでエドゥアルドはいくらコカイン粉末を吸っても中毒にはならなかった。


 全身に快感が広がり多幸感が増してくる。眼の前に居るビアンカが世界一の美人に見えてくるから不思議なものだ。


 実際にもビアンカはサウス・ブロンクスでは3本の指に入るほどの美人でもあるのだが。ルドラから貰った新万金丹も一粒飲んでいるのでエドゥアルドはみるみるうちに勃起して止まらなくなった。


 ルドラならそのままビアンカをいただいてしまうところだろうが、残念ながらエドゥアルドにはそういう男ではなかった。必死になり足の間に隠して事なきを得た。


 ビアンカはエドゥアルドの変化に気づいていたが、彼女も夫の部下に粉をかけるほどの馬鹿な女ではなかった。エドゥアルドが手を出そうものなら即座に射殺されていただろう。ビアンカは紳士的なエドゥアルドを気に入り、もう少し一緒にいたいと思った。


後書き

 エドゥアルドはルドラの支援を受け、ニューヨークで新たな人生に踏み出す。アンジェロとの出会い、そしてその妻ビアンカとの奇妙な交流。復讐に燃える男の物語は、さまざまな人間関係と運命の糸に絡め取られながら、ゆっくりと動き出していく――。

 次回、下っ端からの卒業を目指し、エドゥアルドは更なる試練と決断を迫られる。

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