第1話(後編)──下っ端からの卒業

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『黄金と血のニューヨーク ― マフィアの帝国』第一章第1話【登場人物】

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『黄金と血のニューヨーク ― マフィアの帝国』第一章第1話【作品概要】

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前書き

 アンジェロの事務所で出会ったビアンカは、エドゥアルドの人柄と誠実さに惹かれていく。互いに孤独と未練を抱えながら、二人は一晩の間に微妙な距離を縮めていった。

 翌朝、エドゥアルドはアンジェロ一家とともに朝食をとり、そして新たな仕事を任される。彼の人生は、いよいよ裏社会の現場に深く踏み込んでいくことになる――。


 ビアンカはにこりと笑い、

「嫌じゃなかったら、明日の料理の下ごしらえを手伝ってくれない?」

とエドゥアルドに頼んだ。

 彼は喜んでうなずく。彼女の美しさに心惹かれていたのだ。二人は肩を並べてキッチンへ向かった。


 キッチンでは、ビアンカが家庭のレシピを披露しながら、包丁の使い方や肉の火入れのコツを教えていく。エドゥアルドは指示を忠実に守り、懸命に手を動かした。

 笑い声が湯気といっしょに立ちのぼり、温かな光が狭い厨房を満たす。ビアンカは彼の上達ぶりをほめ、エドゥアルドも彼女の知識に感嘆した。


 事務所には誰もいない。ふとしたはずみで二人は唇を重ねた。――友情のキスと言い聞かせようとしても、深夜に交わすそれは明らかに愛情の熱だった。


 時がたつうちに、エドゥアルドはビアンカの人柄に惹かれ、ビアンカも彼の誠実さと努力を高く評価するようになる。ただし、彼女は最後の一線を越える気にはなれなかった。彼の想いが本物だと確信できるまでは踏み出せない――そう自分に言い聞かせたのだ。

 しかもアンジェロから、エドゥアルドがまだ行方不明の元妻ローザを愛していると聞かされてもいた。


 夜更け、キッチンでの作業を終えたエドゥアルドはベッドに倒れ込んだ。ビアンカに気に入られた喜びを感じつつも、心の奥底ではローザの面影が消えなかった。


2月15日(金)午前6時 サウス・ブロンクス/アンジェロ事務所

 朝の光が差し込むころ、エドゥアルドはすでにキッチンに立ち、昨夜仕込んだ食材で朝食を作っていた。パンをトーストし、フルーツを切り、オムレツとパンケーキを手際よく仕上げる。


 やがて一家が食卓に集合する。アンジェロとビアンカのほか、妹ルチアとその子どもたち、さらにマリオ(10歳)とリリア(8歳)も元気に席に着いた。

 食事中、家族は学校の話や映画の感想で盛り上がり、アンジェロは静かに聞きながら、ときおりエドゥアルドへ意味ありげな視線を送る。


 食後、アンジェロが彼を呼び寄せた。

「エドゥアルド、今日は重要な取引がある。コカインの受け渡しだ。初仕事で緊張するだろうが、冷静に動け。場所はブロンクスのモリス・ハイツ地区だ。」


 詳細な指示を受けながら、エドゥアルドは重責を実感した。未知の世界へ踏み出す高揚と不安が胸を満たす。それでも彼はアンジェロの信頼に応えると固く誓った。


☆下っ端からの卒業

午前8時 ブロンクス/モリス・ハイツ地区

 裏通りに立ったエドゥアルドは周囲を警戒しつつ取引を遂行した。インタイに教わった要領でコカインにカフェインを混ぜ、粉を5倍にかさ増しして1包1ドルで売り捌く。初回ながら利益を上げ、新生活への第一歩を刻んだ。


昼12時 サウス・ブロンクス/アンジェロ事務所

 事務所へ戻ると、アンジェロに売上を報告。彼は報酬として600ドルを渡し、

「住む場所を探せ」

と新たな指示を下した。


 その場にいたビアンカは、エドゥアルドが事務所を離れると聞き、胸に寂しさを覚える。複雑な感情が二人の間に生まれる可能性を彼女自身がよく理解していたからだ。しかし同時に、彼の成長を妨げたくないとも思っていた。


 エドゥアルドは最後の昼食づくりに心を込めた。新しい門出への期待と、ビアンカとの別れの寂しさ――相反する感情が同居する。それでも彼は笑顔で彼女に礼を告げ、次のステージへ歩を進めた。


後書き

 モリス・ハイツの裏通りで、エドゥアルドは初めて独力での取引に挑む。失敗も不安もあったが、彼は確かな一歩を踏み出した。事務所を離れる決意を胸に、エドゥアルドは新たな門出と別れを経験する。

 これからどんな人間と出会い、どんな未来を選ぶのか――“エドゥアルドの復讐”の物語は、ここからさらに加速していく。

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