第19話「決戦前夜」

「う、うぅ、がうがう! 恥ずかしいぞ!」


 王様らしい服装にするだけで3時間もディンと格闘してしまった。


「ディン、お前はもう最強無敵でつよつよ獣王になったんだぞ? もっと威厳とか出したらどうだ?」


「がうがう! 嫌だ!」


 がるるる、と威嚇されてしまった。とても獣の王様になった少女には……いや、逆に獣の王に相応しいかも。


「なぁサラ、お前って聖剣とも会話できたよな? 獣王の王冠とも対話できない?」


「え、全ての財宝や道具に人格がある方が珍しいけど、獣王の王冠に人格は無いけど、獣王になる条件は分かったよ」


「なに?」


「支配欲がない精神年齢が幼くて野心が無い獣人らしいよ。つまり獣王になるつもりがない獣人ほど獣王に相応しいらしいよ。なんでこの条件なのか分からないけど……」


 サラと会話をしてたらアサンも会話に参加した。


「うむ、恐らく最強無敵の王じゃからな。そんな物騒な存在に支配欲やら野心があったら困るじゃろう。仮にそんな奴が王様になってみろ、民は毎日怯えなくてはならないではないか」


 ほーう、つまり王冠はディンが王様になっても厄災にはならないと、判定したのか。


 まぁこの王冠のせいで獣人の国が滅びたレベルだからな。


 逆に争う気がない獣人の方が王様に相応しかったのか。


 血気盛んな獣人達には無理な話だな。


 とか考えていたら、偵察に行っていたレミアが戻って来た。


「さて、三つの貴族が動いた。ワタシはカラトリ家に潜入する。残り二つにはリミカとサラ。そして100人の獣人達とも作戦を立てたが、四方八方どころではない。リヴァイアサンなのに空も飛べるアサンが上からの逃げ道を奪う。流石に巨大なリヴァイアサンが上空から現れたら冷静にはなれまい」


「ふむ、その隙にサラが仮面を外して大臣を驚かせてる瞬間に私がコードブレイクで強欲のネックレスを破壊すれば良いのか?」


「そうだな。今回は怪盗らしく盗む事はできないが。何、強欲のネックレスの残骸を集めるぐらいなら余裕だ」


 流石はレミアだな。すでに準備万端なようだ。


 しかし、サラは浮かない表情を浮かべていた。


「ね、ねぇレミアちゃん、カエリア大臣の姿を見た?」


「すまん、本人を見たわけじゃないが、ある噂を耳にした。大臣は帝国の危機なのに焦ってないらしい」


「……そう、変わらないんだねカエリア」


 なんだか、サラの表情が遠い誰かをうれうような悲しげな表情だったのは、気のせいだろうか?

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