第3話
向こうから優雅にやって来る。
「おはよう
「おはよう。言ってはみたけどもうそろそろ夕暮れだよ。先生。
優雅なのは大変結構だが、あんたそろそろ生活を遠征用に整えておかないと。
俺は今回
あんたは
あんたの世話は今回ばかりは本当に焼けないよ?」
「大丈夫大丈夫。明日からちゃんと整えるから」
「『明日からやる』っていう奴は絶対明日からやらない奴なんだよなあ」
ふわぁ、と
「ここ数日そういえばあんた見なかったけどどうしてたの?
体調平気だろうね」
「体調は絶好調だから心配はいらない。
いよいよ私が涼州遠征に行くという噂が許都に広まってしまってね。
毎日毎日別れを惜しまれて、どうにも部屋から出て来る時間がない。
昨日は城下に出てた。
私が長年援助して来た女性がとうとう許都にお店を出してね。
大陸各地の美味しいお酒を飲ませてくれた」
「援助して来たって言うな」
頭が痛んできたように賈詡が言う。
「貴人の女性というのも素晴らしいが、
働いている女性というのもとても素敵だね。
どうして自分の仕事を持っている女性はあんなに瞳がきらきらしているのかな。
本当に素晴らしいよ」
「わかったわかった! あんたが素晴らしい日々を過ごしてるのは分かったから、深酒はやめろ。身体壊すぞ」
「私は病み上がりで回復したばかりだよ。だから身体なんか今は壊さない」
「なんで今『だから』って単語を使った? なんなのその病み上がりは何しても大丈夫だ理論⁉ 普通病み上がりはもうちょっと体調気をつけないかな⁉ 涼州にはそんな理論なかったよ⁉ あんた一体どこの出身のかた⁉」
言い返してくる
「ああ楽しい。女性と甘い時間を過ごしたあとに君とこういう会話をしていると、やけに新鮮に感じられて楽しいなぁ」
「そうかい良かったね……」
賈詡は諦めたらしい。
「
「どうだったって?」
勝手に横椅子に座って、優雅に背もたれに頬杖をついた。
「どんな人かな」
「まだ分からんよ。そんなことは。
まあ会った感じは思ってたよりアクは強くないかな?
真面目な人だね」
「
何か面白い話が聞けた?」
「面白いかどうかは知らんが……だが想像してたよりは興味深い部分もあった。
今軍の編成をさせてる。まあその出来で軍師としての基本的な資質も見えてくる部分もあるだろうさ。
……ああ、編成で思い出した。
今朝の調練に
軍の編成を徐庶がやるって聞いたから、自分の副官を徐庶の側に置いて学ばせてくれとか言って来たから、別にいいよーって言っといた」
「副官……?」
「ああ、そうか先生まだ会ってなかったな。
今度会ってみるといいよ。先生見慣れてる俺でも随分美形だなって思うくらいだから。美形仲間で気が合うかもよ?」
「へぇ……そんなに美しい子なら、基本的に美しい女性にしか興味を示さない私でも会ってもいいかなって思うけど。司馬懿殿は随分彼を可愛がっているんだね」
「そうなんだよなあ。まあ、美貌だのなんだのに籠絡される性格じゃないのは分かるんだが。しかしあの人もたまに予測出来ない所があるからな。
最近は随分真面目に曹丕殿下に仕えているが、一時出仕もせずに毎日乱痴気騒ぎを起こしてるとか噂になったことがあるぜ。先生がまだ復帰してない頃だから知らんと思うが」
「――なんだって。あの人にそんな楽しい趣味が?」
「うん……。今どのへんを聞いて楽しいと思った?」
「なんで私を誘ってくれなかったんだろう……。呼ばれたら絶対断らずに行ったのに」
「あんたその頃死にかけてたでしょ⁉ どこの世界の馬鹿が死にかけてる病人に乱痴気騒ぎの宴においで! って誘いの言葉かけるのよ!」
「ああそうだった。忘れてたよ」
「なんで忘れられるんだ……」
賈詡が口許を引き攣らせている。
「いやでもその話は本当に蒸し返さない方がいいぜ先生。
俺も詳細知ってるわけじゃないんだが、その騒ぎ、あんたのやってる美女と楽しく飲んで戯れよう! みたいなのじゃどうやらなかったみたいなんだよな……死人も何人か出てるとか聞いた。一時、司馬懿殿が乱心したんじゃないかなんて話も出てたくらいなんだから」
「おや……好みの女性がいなかったのかな?」
「いなかったにしても殺すのはやりすぎだ」
「まあそれはそうだ。女性に乱暴なのは私も感心しない」
「そういうとこがあのお人は可愛げのないところだね」
「その副官を
「まあ後学のために見せておきたい、というようだったけど、だが『口は出させない』とわざわざ言って来た」
「彼は妙に徐庶とその副官に拘ってるね。
そういう甘い隙を見せるような性格じゃないと思っていたんだが……」
「
あんたにだってあの二人は遠征の同僚になるんだからさ」
「いいよ。分かった。近いうちに私も会ってみよう。
ところで何か忘れてる気がしてたんだけど、二日間別れに涙する女性達を慰め続けていて何も食べてなかった。空腹を思い出してここに来たんだった。
ねえ何か食べさせてくれないかなあ」
「なんでお腹空くと俺のとこ来るのよ⁉ 俺はあんたのお母さんじゃないよ⁉」
「賈詡ならなんか美味しい所知ってるでしょ。食べに行こうよ」
「折角なんだから綺麗な女性たちとちゃんと食べてきなさいよ! あと食べるの忘れるのだけはやめなさいって何度も
「
文だけじゃ話しきれないからつまらないよ……」
「あんだけ日常生活の風紀の乱れについてあいつに説教されてんのによくそんな暢気なこと言えるな先生。あんたホント大物だよ」
「
まあ全然なってないけども」
「そうかい。んじゃ俺に叱られてもいい子になってくれ」
「賈詡に叱られても別にいい子になろうとは全くおもわないなあ」
「なんでだよ。荀彧より何歳俺様が年上だと思ってんだ。もっと言うとお前より俺が何歳人生の先輩だと思ってんだ。前から薄々思ってたがお前絶対俺のことナメてんな?」
「あはは。年上だったっけ?」
「よし! 歯ァ食いしばれ郭嘉!
今日こそ俺は今からお前のそのお綺麗なツラをこの、拳で!
ぶん殴ってやるからな!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます