第3話 こがね、服を買う



――夏の日の朝。

あかりの部屋の窓から差し込む日差しに、こがねはまぶしそうに顔をしかめる。


「今日もいい天気だな!」


こがねは、あかりのおさがりパジャマをそのまま着ていた。

そもそも、ぬいぐるみだった頃は服なんて要らなかった。

だが、今やこがねは「人間」の姿(耳とかしっぽとかあるが…)だ。

そしてあかりは言った。


「そろそろ、ちゃんとしたこがねの服も買わなきゃいけないな…」


「なんと、我に『戦闘服』を授けてくれるのか!ありがたやありがたやー!」


「いや、普通の服だよ!いちいち『中二病』みたいに言わなくていいから!」



午前10時、ショッピングモールにて


こかね、初めてのショッピングモールかつ初めての服屋。

マネキンと数多くの服に興奮するこがね。


「うわあぁぁ!なんだ、この服の数!多すぎて迷ってしまうぞ!」


「…ま、まあ、とりあえずこがねのTシャツとズボンを選ぼうか…」




「…あれ?あかりちゃんじゃん!そんなところで何してるの?」


後ろを振り返ると、友人のりおちゃんことみなみ梨央りおが立っていた。


「り、りおちゃん!?ひ、久しぶり~!」


「その子…あかりの彼氏…?ってわけではなさそう…だけど」


あかりは悩んだ。こがねの正体を正直に言うべきか、嘘をついて誤魔化して、その場を凌ぐべきか…

すると、こがねが──


「我が名は『こがね』と申す。つい先日、キツネのぬいぐるみから『人間』になったのだ。いまは、あかりの家で一緒に生活をしておる!」


「…えっっ!?なにそれ??」


こがねの衝撃発言に困惑するりお。

そりゃあ「ぬいぐるみから人間になった──」と急に言われたら、だいたいの人は困惑する。むしろ、当たり前の反応。


「い、いや…今のは冗談…だよ?ぬいぐるみが人間になるわけないでしょ?漫画とかの世界じゃないんだから~」


なんとか「冗談」という体で事を収めたが、変な人と思われたのは確か。今後、再会した時、めっちゃ気まずいんだが…



とりあえず、こがねの服選びを再開。


こがねは黄色のシャツに白のハーフパンツ、そして麦わら帽子を選んだ。


「どうだ、あかり?似合っとるだろ~?」


「…あぁ、似合ってる。けど、なんか『やんちゃ坊主』って感じだな」


「なに!?その『やんちゃ坊主』というのは、ってヤツか?」


「ま、まあ、では…ね?」


あかりは、苦笑いをしつつも、どこか微笑ましい気持ちになっていた。



ショッピングモールの帰り道、あかりとこがねは夕焼け空の下、並んで歩いていた。


「…あかりよ、ひとつ聞きたいいんだが、良いか?」


「どうしたの?」


「我は、ぬいぐるみから人間になったが、今の我にってあるか?」


こがねの横顔はどこか不安そうだった。


あかりは少し考えてから、こう言った。


「服を着て、買い物をして、知らない人に名前を聞かれて──めっちゃ、人間っぽかったんじゃない?…まあ、中二病みたいなところはなおしてほしいけど…」


それを聞いて、こがねは照れたように笑い、歩幅をあかりに合わせた。



帰宅後、こがねはベッドに腰かけて、猫のぬいぐるみ・しろうに話しかける。


「なあ、しろう。我、をGETしたぞ!」


「……(無言)」


もちろん、しろうはただのぬいぐるみなのでしゃべらない。


「ふっ、無反応なヤツだが、我を見守ってくれているんだろう?ありがとうな、しろう!」


猫のぬいぐるみ・しろうは今日もこがねを静かに見守っているのかも…?しれない。

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