第3話 女の子になって初めての登校

 あれから1週間。

お隣の家に住む美少女――剣崎けんざき真依まいの助力のお陰で、付け焼き刃程度だけど女の子として生きるくらいのイロハは覚えた。

覚えたはずなのに、今日もうちに剣崎さんがいる。


「やはり、似合ってますね。制服」

「うん、そうだね……。なんでいるの」

「一人じゃ心細いかと思って」

「なるほど。理屈はわかりました。ですが――」

「どうせなら一緒に登校しましょう」

「話を聞いてください」

「えっ、嫌なんですか?」

「別に嫌じゃないですけど……」

「なら良いですね。女の子同士が一緒に登校するくらいですよ」

「毎回、その理論で押し通そうとするのやめてください」


 この1週間の出来事を思い出す。

一緒にお風呂を入るといい、着替え、衣装選び、ついにはトイレまで。

学校に行く前の朝に起こしに来て、学校が終わった後は僕に女の子のイロハと勉強を教えるためにまたやってきて。

そんな日々が続いていた。


「それじゃあ、準備できましたか?」

「はい。うぅ……」

「どうしましたか?」

「いや、この制服格好で学校に行くと思うと緊張しちゃって」

「大丈夫です。すぐ慣れますよ」

「うぅ……。頑張ります」

「はい」


 玄関で待ってる剣崎さんに手を引かれるエスコートされる形で僕は外に出た。


♡♡♡


 美しく綺麗な銀色の長い髪をたなびかせる剣崎さん。

道を歩けば、通りすがる人が振り返るほどの美少女。

女の子になってなかったら隣に立つのすら躊躇するようなほど綺麗な人。

身長差のせいで思わず下から見とれてしまう。


「どうしたのですか?」

「いや、あの……。今日も剣崎さんは綺麗だなって……」

「きっ!?。そ、それは嬉しいですね」

「いや、あの、これはっ」

「わかってます。社交辞令でしょ」

「いや……、そういうわけじゃ……」

「ごめんなさい。姫野さんの反応が可愛かったので思わずからかってしまいました」

「うぅ……。ズルいですよそれ……」

「ごめんなさいね」


 そう言ってる剣崎さんは顔を紅く染めていた。

(もしや、僕を意識して)って思ってたけどきっと気のせいだよね。

ただ女の子になったから心配してくれてるだけで……。

「もう……、そういう所ですよ……」と頬を赤らめた剣崎さんギリギリ聞こえるくらいの小声で言った。

えっ!?。マジで!?。


「それにしても……。さすが剣崎さんですね。こんなにみんなの注目を集めて」

「それを言うなら姫野さんもだよ。自覚してないかもしれないけど、結構みんなの視線を集めているの。わかるでしょ」

「あははは……」


 笑って誤魔化したが、もちろんわかっている。

男女に関わらず視線が集中していることに。

女子たちは割と顔とか容姿全体を見ているが。

男子たちは割と下心ある目線を向けてくる。

特に胸とか腰とか。

まあ僕も男だった頃はそういう視線を向けてたといえば嘘になる。(これでも僕は一般的な思春期男子なので、それなりの欲はありますよ)

特にこの学校の制服はその特性上、胸の強調が凄い。

こんなの見せられたら思春期の少年はもう、ね。

だから気持ちもわかる。わかる上で、気持ち悪いと感じてます。

それとこんな視線をこれまで女子たちに向けててごめんなさい。

本当に。


「よっ、真依」

「あっ、咲季さきちゃん。おはよう」

「おはよう。で、その可愛い女の子は誰かな?」

「もう知ってると思うけど。この子は姫野ひめの結斗ゆいと 。例の病気で女の子になっちゃったみたいで」

「なるほどね。男の子の時から男子にしては小さいのに、より全体的に小さくなって小動物感出てきたね」

「でしょう。もう〜、可愛いだから」


 横から入ってきたこのどこかの演劇に居そうなボーイッシュな少女は藤田ふじた咲季さき

運動神経が良く、よくスポーツ部の人たちに助っ人として参加している。

そして何よりも重要なのが、彼女。剣崎さんの幼馴染だと言うこと。

その構図は正しく姫と王子。

噂によると、とある文芸部がアングラで彼女たちを題材にした同人誌を書いてるとか書いてないとか。


「どうも、姫野結斗です」

「うん、知ってるよ。度々真依から君ののろ――」

「わー、わー。そんなことよりも、私たちはこれから職員室に行ってくるから、クラス方はよろしくね」

「あぁ、任せてくれ。姫野ちゃんも」

「うん……。また……」


 そう藤田さんに暖かい視線を向けられながら僕たちは職員室に向かった。

まあ、こっちはどちらかと言うと最終調整というか、確認の話で、朝のホームルームには間に合う時間には解放された。


 それから教室は、というと。

転校生が来たような盛り上がりよう。


「ほら、姫野さん」

「う、うん。頑張る」


 僕は剣崎さんに押されて、教室の扉を開けた。

これから始まる生活に期待と不安と不安を感じながら僕は入っていった。

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