第八話『王都へ!旅立ちの一杯と、涙の塩分濃度』
朝――。
「よーし、湯も麺も上出来。これが本当の“旅立ち一杯”だな」
マコトは最後の寸胴に、気持ちよくレンゲを沈めた。
屋台――いや、店舗「元祖 一杯屋」の厨房には、リーネと村の若者たちが立っている。
「マコトさん……もう行っちゃうんですね……」
リーネが、ぽつりと寂しげに言った。
「行くって言っても“支店巡回”みたいなもんだ。安心しろ、ここの味はちゃんと継いでくれるから」
「でも……マコトさんのチャーハンが、恋しくなりそうです……!」
「チャーハンに恋される人生ってすごいな」
――笑いが起きた。
厨房の外、広場では村人たちが大集合。
「おう! この“塩ラーメン”はな……出汁の透明感がまるでマコト様の人柄を映したようでな!」
「いや違う! 醤油だ! 甘味と深みのバランスがまさに神ッ!」
「だーっ! 餃子を忘れるな! あれこそ王国遺産級!」
屋台前では今日もリアクション大会が勃発していた。
だが、それも今日で見納め。
「寸胴が泣いてるぜ……」
マコトが呟くと、リリアがマントを翻して現れた。
「準備は整ってるわ、マコト。……王都まで、よろしくね?」
「へい、相棒。胃袋の責任は俺に任せとけ」
その背後では、護衛の三人娘たち――セレナ(ツン系)、ミナ(おっとり)、クレア(真面目)が大荷物を持ってわちゃわちゃしていた。
「セレナ様! それマコト様の寸胴ですよ!」
「重い! 何この金属! でもこの香り、くぅうう、たまらんっ!」
「これが“出汁の聖槍”か……(※本名:業務用寸胴)」
じい様護衛・ギルドは肩にチャーシューの吊るし桶を担ぎ、カイは水筒に“特製スープ”を詰めていた。
「……味のない王都の食卓に、一石を投じましょうか」
リリアが微笑む。
マコトはそれに頷き、荷馬車に目を向けた。
そこには、ちょこんと座る少女――ユエの姿。
「おにいちゃん、これ……にく、もってきた」
「お、助かる。旅の道中はタンパク質が命だぞ」
「……あと、しっぽに味噌ついてた」
「どこで味見したんだそれ!」
獣耳ぴこぴこ、ユエは相変わらずのマイペース。
出発の時、リーネと村人たちが手を振る。
「マコトさーん!! また来てねー!!」
「“塩ラーメン教”を信じてるからなーー!!」
「“味噌神の啓示”忘れないでぇええ!!」
「お前ら宗派できてんのか!?」
馬車の上からマコトがツッコミを入れる中、
寸胴の中で、ラストスープが名残惜しそうに波打っていた。
マコトはそっと、空になったどんぶりを見つめて呟いた。
「さぁて――次は、“味を知らない”王都の連中を泣かせに行くか」
その顔には、柔らかな笑みと、どこかワクワクが混じっていた。
「ラーメンってのはな……道だ。すするほど、未来が見えてくる」
そして、旅ははじまった。
ラーメンの香りを風に乗せて――
王都・フェルグランへと。
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