第8話
昼休み。片山中学校、2年2組の教室。
「マジでうちはINFJやと思ってたのにさ、まさかのESFPやってんけど!!」
「え、ミホってEなん!? もっと“内向型”って感じやのに〜」
「いやそれ、悪口やろ!」
教室の片隅、窓際の女子3人がスマホ片手に盛り上がっている。
西岡 ミホ(ESFP)
明るくてテンション高め、でもたまにふっと黙る。
藤崎 カナ(INTP)
ツッコミ役で、理屈っぽくて冷静。
宮内 メグ(ISFJ)
ほんわかした優等生で、場の空気を気にしがち。
今日のお題はもちろん――MBTI(16タイプ性格診断)。
「カナって、めっちゃINTPっぽいわ。無表情で毒舌って感じするもん」
「失礼な。“客観性と分析力に優れる”や。まあ、たしかに“人の感情には鈍感”って出てたけどな」
「それ、認めるんや」
「メグは絶対ISFJやんな〜“お世話焼きおばちゃん型”」
「や、やめてよ〜〜“おばちゃん”て言わないで〜〜!」
教室のあちこちで、似たような会話が飛び交う。
今や片山中では、**MBTIは女子の新しい“血液型”**みたいなものだった。
そんな中。
ひとりだけ、輪に加わらない女子がいた。
野原 千晶(ESTP)
ソフトテニス部、身長170㎝。どちらかというと“群れるより動く”タイプ。
彼女は隅で体育座りしながら、スマホゲームに夢中だった。
「……で、千晶は何型なん?」
と、ミホが顔を出す。
「んー? 忘れた。やってもすぐ飽きたし」
「え〜!? ありえへん! えっ、じゃあ誰と相性いいかとか、どうやって恋愛するん?」
「テニスして、相手見て、考えてから決める」
その直球さに、ミホとメグは目を丸くした。
「ESTPっぽいわ〜〜!」
「“今を生きる突撃型”って感じ!」
「分析より行動、な。人間って、そんな単純か?」
と、INTPのカナがぽつり。
放課後。
女子たちは帰り道でもMBTIの話に夢中。
「私とミホって、補完関係らしいよ。FeとTiでバランスとれてるって!」
「なにそれ、もはや呪文!」
千晶は後ろから黙ってついてきた。
ふと、空を見上げる。
「……人って、16種類に収まるもんなんかな」
「え?」
「いや、たとえば……“親がアル中で家が地獄”とか、“急にからかわれて何も言えなくなる”とか、
そんなんMBTIじゃ測れへんやろ」
一瞬、空気が止まる。
ミホが、少しだけ真面目な声で言った。
「……まあ、そういうとこ含めて、あんたやな」
「だから、タイプとかはええねん」
「ESTPはそういうこと言うんやって」
「うっさいわ!」
女子たちの笑い声が、夕焼けの住宅街に響いた。
翌朝。
宮本武蔵は、校門のそばに座って生徒手帳を読んでいた。
「ふむ。“MBTI”とは、“型”に人をはめるものか。されど、人とは常に、型からはみ出す生き物。……それゆえに面白い」
彼は立ち上がり、今日もまた、誰かの“闇”に備えるのだった。
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