第3話変わり始めた日常

放課後、俺は思い切って行動に出た。

「高橋、ちょっといいか?」

「お? どうした急に」

 翔太は相変わらず人懐っこい笑顔を見せる。

 前世では、就職してから疎遠になってしまった親友。

「部活、何か入ろうと思うんだけど」

「は? お前が部活?」

 翔太が目を丸くする。

 そりゃそうだ。前回の俺は帰宅部で、ゲーム三昧だったから。

「心境の変化ってやつ。で、お前は何部だっけ?」

「俺? 軽音部だけど……まさか」

「一緒にやらないか?」

 翔太の目が輝いた。

「マジで!? やった! ギター弾ける?」

「少しなら」

 これは嘘じゃない。

 社会人になってから趣味で始めて、そこそこ弾けるようになっていた。

「じゃあ早速部室行こうぜ!」

 翔太に引っ張られて、音楽室へ向かう。

 途中、廊下で結衣とすれ違った。

「あ……」

 目が合った瞬間、彼女は少し頬を染めて、会釈をしてくれた。

 俺も自然に会釈を返す。

 前回は、緊張のあまり目を逸らしていたのに。

「おいおい、今の見たか?」

 翔太がニヤニヤしながら肘でつつく。

「佐藤さんと目が合ってたじゃん。しかも向こうから会釈って」

「たまたまだろ」

「いやいや、あれは脈ありだって」

 そんな会話をしながら、音楽室に到着。

 軽音部の部室は、想像以上に活気があった。

「新入部員!?」

 部長らしき三年生が目を輝かせる。

「二年生が入ってくれるなんて珍しい! 歓迎するよ!」

 温かい歓迎を受けて、俺の高校生活が動き始めた。

 ギターを手に取り、久しぶりに弦を弾く。

 体は十七歳でも、技術は三十歳。

「おお、上手いじゃん!」

 部員たちから歓声が上がる。

 ああ、これだ。

 これが、青春ってやつなんだ。

 窓の外では、夕日が校舎を橙色に染めていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

『もう一度、君と出会う春に』 @mittani

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ