第12話
数日後、バルドゥスは王都騎士団の総長室を訪れていた。アリアは山積みの書類に囲まれ、今にも泣きだしそうな顔をしていた。
そんな彼女の可愛らしい姿に、バルドゥスは勝手に孫娘のような感覚でいた。
「アリア殿。お久しぶりです」
「あっ、バルドゥスさん! ご足労いただき恐縮です。本日も指導ありがとうございました。皆、喜んでいましたよ」
「はっはっはっ、鬼将軍が戻ってきた、と一部の者から言われてしまったよ」
「歓迎しているんですよ、皆さん」
鮮やかな赤毛をきりりと結い上げ、総騎士団長の制服に身を包んだアリアは、騎士団長、そして剣聖としての威厳に満ちている。それでも親しい人には相変わらずの人懐っこい姿を見せていた。
軽い世間話のあと、バルドゥスは気になっていたことを質問する。
「アリア殿。単刀直入に伺いたい。先日の謁見で披露されたというその剣。そしてその作り手であるダリウス殿について、詳しくお聞かせ願うことはできないかね?」
バルドゥスの真摯な眼差しを受け、アリアの表情が微かに変わった。ダリウスの名が出た瞬間、彼女の頬がほんのりと赤らみ、瞳に誇らしさと、そしてほんの少しの戸惑いが浮かんだのを、老将軍は見逃さなかった。
「ダリウス先生のこと、ですか!?」
「うむ。アリア殿の話では、結界の外にお住まいだとか。そして、アリア殿のあの『アルタイル』は、そのダリウス殿が打たれたものだとも」
「そうなんですよ……っ! アルタイルは、正真正銘、ダリウス先生があたしのために作ってくださった剣なんです。でも……一部の貴族の方々からは、あたしが話題作りのために嘘をついているとか、辺境の魔導鍛冶師にそんなものが作れるはずがない、なんて話が広がっているんですよね……!」
アリアは、まるで自分のことのように悔しそうに、ぷくっと頬を膨らませた。その剣聖らしからぬ子供っぽい仕草に、バルドゥスは思わず目尻を下げる。
「まあまあ、アリア殿。落ち着きなされ。無理もないだろう。結界の外で生活している魔導鍛冶師が、王国一の名匠の作をも凌ぐ剣を打つなど、にわかには信じ難い話ではないか。……アリア殿、少し疑問なのだが、そのダリウス殿は、なぜ危険を冒してまで結界の外に工房を? 何か、よんどころない事情でも……例えば、その……法を犯したとか、そういうことではないのだろうな?」
バルドゥスの言葉には、アリアの魔導鍛冶師がもしや犯罪者ではないかという、元騎士団長としての懸念が滲んでいた。
しかし、アリアはその問いに、きょとんとした顔で首を傾げた。
「え? 魔導鍛冶師をしたいからだそうですけど」
「……そ、それが理由、なのか? たったそれだけで、あの危険極まりない結界の外に、たった一人で……?」
バルドゥスの声が、思わず裏返る。常識では考えられない理由だった。
「はい。そうですね。……王都の魔導鍛冶師ギルドの決まりじゃ、結界の中で好き勝手に工房は持てないから、結界の外に行った、と。そういう意味では……結界内のルール的に悪い人、ではあるかもしれませんね」
アリアは、まるでそれが当然であるかのように、あっけらかんと言ってのける。
「た、確かに……そ、そうすれば法の外になるから、ルールなど関係はないが……またダリウス殿は頭のおかしい発想をするものだな……。それで、アリア殿は、そのような規格外の人物と、どういった経緯で知り合われたのだ?」
「あたし、昔……まだ本当に小さい頃に、結界の外に捨てられたんです。捨てられた理由はよく覚えてないんですけど……森の中にいたところを、ダリウス先生に拾ってもらって……それで、大切に育ててくれたんです」
アリアの瞳に、一瞬だけ暗い影がよぎったが、すぐにダリウスへの感謝の光がそれを打ち消した。
(……犯罪者かどうかは分からないが。アリア殿をここまでまっすぐに育てているのだ。曲がった人間には難しいだろう。……おかしな方、ではあるようだが)
「……なるほど。そういうことか。アリア殿の命の恩人であり、育ての親でもある、と」
「はい!」
バルドゥスは、ようやく全ての合点がいった。そして同時に、ダリウスという人物の、常識では測れないスケールの大きさに、ある種の感嘆を覚えずにはいられなかった。
「実はな、アリア殿。儂には長年追い求める宿敵がおる。そやつを討ち果たすため、儂にあった最高の武器を探し求めておるのだ。……もし、そのダリウス殿がアリア殿の剣ほどの武具を打てるお方ならば、儂の悲願も叶うやもしれぬ。……どうか、その方にお会いする手立てを教えてはいただけんだろうか」
バルドゥスの切実な願いに、アリアの瞳が、ぱっと輝きを増した。先程までの複雑な表情は消え、むしろ期待に満ちた笑顔が浮かんでいる。
「バルドゥスさん……! それは、願ってもないお話です! 実は……あたし、ずっとダリウス先生のこの素晴らしい腕を、王都の皆さんに、ううん、世界中の人たちに認めてもらいたいって思ってたんです!」
アリアは、興奮を隠しきれない様子で前のめりになっていた。
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