ゴリラ イップス 針の穴
うんこ青い炎
第1話ゴリラ イップス 針の穴
ゴリラのマスミマダクス君はうんこ投げの名人である。否、名ゴリラである。
マスミマダクス君の住む動物園では、ゴリラを魅せるパフォーマンスとして、ゴリラのうんこ投げを常設している。九つの小窓があり、そのうちの一つの窓枠が5秒間光る。その5秒間の間にゴリラがうんこを的中させれば、空からバナナが降ってくる。窓には水が流れ、窓は綺麗になる。ゲストはうんこが飛んで来るのを窓から見ることができる。そういうシステムを完成させた。
これが普通のゴリラにはなかなか難しい。うんこを、出す。投げる。当てる。この3つの動作を5秒間の間に正確に行わなければならない、うんこを出す、投げる、までは出来てもなかなか当てるが出来ない。当てる。が出来ても正確に狙いを定めていては間に合わない。これを最初に打破したのもマスミマダクス君であった。
マスミマダクス君は予めうんこを出して準備したのである。予めうんこを出し、形を整えて、いつ的が光ってもいいように準備をした。そして的が光り、準備していたうんこを投げ、当てたのである。マスミマダクス君の上からバナナが落ち、マスミマダクス君は栄光を手にした。
しかし、事前に準備していても3投に1投は的を外した、何故か?マスミマダクス君はうんこに語りかけ考えた。
ウホウホウホウホウホウホ(再現性を可能な限り高めなくてはならない、俺の投うんこモーションは一定か?同じ動作で同じ指のかかりで投げているか?うんこよ、キミは歪で安定しない、その形状も、粘り気もうんこによって違う、一期一会だ、それではいけない、うんこを安定させよう、安定する形は球だ、真球だ、可能な限り真球に近付けよう、食事の量も一定にする、最近の俺は調子に乗ってバナナを食べ過ぎている、粘り気は強過ぎてもいけない、毎日同じ量のバナナを食べ、同じように運動して、うんこを安定させよう、その上で限りなく真球に近付けたうんこを同じ足の動きで、同じ尻の動きで、同じ身体の捻りで、同じ肩の回転速度で、同じ指先の引っ掛かりで投げよう)。
マスミマダクス君はもう、バナナを食べることが目的ではなく、的に当てることが目的になっていました。
百発百中。
マスミマダクス君はその域に達し、虚しさを覚えました。ヌルゲー過ぎる。形を整えて投げたのでは当てて当然、園内の空調も安定し、風の向きも変わらない、このままでは俺は終わってしまう。縛りプレイをしなくてはならない、尻から出てすぐ投げよう。
尻から出て即投げたうんこは空気抵抗を全身で浴び、的をやや外した、ややである、が外した。マスミマダクス君は嬉しかった。外したのに嬉しい、妙な気分であるが嬉しいものは嬉しいのである、百発七十中くらいに成績が落ちた。投げ続け、百発八十中くらいにはなったが、うんこの形が安定しないのでそれ以上確率をあげるのは困難だった。マスミマダクス君は尻から出したての歪なうんこに語りかけた。
ウホウホウホウホウホウホ(尻で形を整えるしかないな)。
マスミマダクス君は肛門の収縮を意識した。肛門が広がり、うんこが押し出され、肛門が閉じる、これを一定にすれば、球が作れるのではないか?否!作れるまでやる。何度も何度も意識をしてうんこを出した。投げ、食べ、意識して出す。投げ、食べ、意識して出す。投げ、食べ、意識して出す。一万回繰り返した頃に、手で形状を整えていた頃よりも真球に近いことに気付いた。手より肛門のほうが繊細な動きができるようになっていた。あとはスピードである。2秒かけて1球出しているうんこを1秒に1球、いや、可能な限り速く、にゅるんと、自然に、普通にうんこを出すように、普通にうんこを出すよりも速く、自然に球を出す。同時に投げるまでの動作も短縮する、うんこを掴んでからクイック!クイック!クイック!体に染み込んだフォームを一度忘れ、素早さに特化させ、それを繰り返し、再現性と正確性を高め、投げ込む。
マスミマダクス君は、0.1秒で球のうんこを出し、0.4秒でうんこを投げ終わり、うんこは0.5秒で的に届いた。1秒。1秒である。うんこを出し始めてから窓に届くまで1秒を達成し、それを切った。0.99秒。怪物である。
しかし、怪物は、イップスになった。
マスミマダクス君は、職人気質過ぎてもともと群れの中では浮いていたのであるが、自分の分のバナナを獲得したあとは、周囲のゴリラにバナナを分け与えたいたので好意的に見られてきた、しかし、マスミマダクス君は怪物になった、怪物は同じゴリラとして見られなくなった、恐怖の対象である。特にメスゴリラや子ゴリラからはビビられ、露骨に避けられるようになった。好きな子にもである。密かに恋し、仄かに憧れた子にも避けられた、実らなくてもよかった、番になれなくてもよかった、バナナを受け取ってくれればそれでよかった、笑ってくれるだけで幸せだったあの子が、マスミマダクス君を畏怖し、露骨に避ける。その顔を見ると、投げられなくなった、身体から再現性が失われた。尻の穴の再現性も失われた。うんこは歪み、緩み、泡のように消えていった。投げども投げどもうんこはあらぬ方へ飛び、かつてのマスミマダクス君の姿は無かった。
ウホウホウホウホウホウホ(イップスを克服したのは、夢中だったからでしょうか、咄嗟に投げた、投げざるを得なかった、とにかく夢中で投げたんです)。
好きな子の頭上にバナナではなく、入園ゲストのスマートフォンが落ちてきそうになったのである、それがマスミマダクス君には刃物に見えた。一瞬の思考にならない思考で刃物だ!と感じたのである、そこからのマスミマダクス君は考えるよりも先に身体が動いていた、にゅるんと真球のうんこが出て、それを何度も何度も投げ込んだフォームで、投げた。なんと、スマートフォンは落ちる前だった。落ちた、と思ったスマートフォンは、落ちる前にうんこに弾かれ、宙を舞い、ゲスト用の通路に落ちた。手から離れていない状態と、手から離れた状態の丁度中間。火事場の馬鹿力。ZONE。最も速く、最も力強く、最も美しい、投うんこだった。
好きな子は、助けられたことに気づいてすらいなかったが、そんなことはもうどうでもよかった。己の投げたうんこの美しさに惚れたのである。もう一度、同じ投げうんこができるだろうか、いや、出来ない、しかし、投げたい。もう一度同じうんこを。
ウホウホウホウホウホウホ(動物園が用意した的は大き過ぎました。的は小さければ小さいほどいいですね、あともう、うんこにこだわる必要すらないのかなーって)。
マスミマダクス君が行き着いたのは鼻糞を真球にして、それをデコピンの要領で弾き、針の穴に通すことでした。最初は鼻糞を指で丸め、それを壁の穴に通すことから始めましたが、鼻糞が鼻の穴を転がり出る間に球になるように整え、壁の穴を通せるようになり、壁の穴が小さくなると、鼻糞を小さくして、鼻糞が極小の球になり、針の穴に通すまでになりました。
これは何も知らない者が見ると、マスミマダクス君は何もしていないように見えます。一点を見つめ、静かに呼吸をしています。指の動きは肉眼では捉えられません。群れのメンバーにはまたイップスになったのだと思われています。マスミマダクス君はとても凄いことをしているのに、人間にも成し得ない偉業を達成しているのに、誰にも知られず、喧伝せず、ただ静かに鼻糞を弾いているのです、私はそれが悔しかった。
ウホウホウホウホウホウホ(何故あなたはあなたの偉業を言いふらさないのか?あなたは凄いことをしているのですよ)!
ウホウホウホウホウホウホ(私は一つのことしか出来ません、認めてもらいたいという的を狙えば、二つの的を同時に狙うことになります、私はそれほど器用ではないのですよ、それに私はすでに満たされています)。
私は、彼の清らかさに己を恥じた。しかし、それでも彼を、マスミマダクス君を知って欲しくて、私は、私の勝手なエゴでこの文章を書いた、彼の望みでは無い。私の欲求であります。もしかしたら動物園の人間がこの文章を読み、針が危険だと、撤去しようとするかもしれないが、それは私がマスミマダクス君にマジで怒られるかもしれないのでどうか勘弁してください。
ゴリラ イップス 針の穴 うんこ青い炎 @momos_unao
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