第27話 お約束のあのセリフ(タケル→ユキ視点)

 スマホでカンタン110番通報。迅速なお手続きで、強姦魔三人はパトカーへ詰め込まれていった。


 警察への事情聴取に協力していたユキも、必要なことを話し終えて解放される。俺のもとへと歩み寄った。


「ありがとうタケル。これ……」


 貸していた上着を返される。ちなみにユキの衣服は破かれたりせずそのままだったので、あのあと問題なく着用することができた。


 よく場所が分かったね? と聞かれるので、俺は廃ビルへと辿り着けた経緯を明かした。


「あの店の袋が落っこちててさ、ビルの入り口あたりに……」


 猫グッズの雑貨が入ったファンシーショップの袋。目立つピンクの包装だったので、走っている最中でもそれと気づくことができたのだ。


 店でのことを、俺は改めてユキに謝罪した。


「……すまなかったユキ。傷つけるつもりはなかったんだが……」


 結果的には大切な人を泣かせてしまった。しかしユキもユキで、意固地になっていた自分を反省しているようだった。


「私にも悪いところがあったし……。タケルだけのせいじゃないよ」


 だからそんな顔しないでと、包み込むような慈愛で許してくれた。


「ユキ……」


 彼女の優しさに、俺は心がほぐされていくのを感じる。ずっと張っていた緊張の糸が緩んだ思いだった。


 でも、どうしてユキは涙を流したのだろうと――。その疑問は相変わらず胸に残ったままではあったが。


 難しい顔で思い悩む俺の隣で、ユキは「あーあ」と伸びをした。


「こんな形でバレちゃったね」


 と、あまりにも自然な口ぶりでそう言ってきた。




    ☆




 何を思い悩んでいるのか、私の隣でタケルはまだ難しい顔をしている。お店でのことはもう許したつもりだったんだけどな……。


 少し残念な気持ちで、私は「あーあ」と目いっぱいの伸びをした。


「こんな形でバレちゃったね」


 廃ビルでは下着姿に剥かれていた私。助けに来てくれたタケルも、当然その姿を目にしていた。


 いつか制服のスカートでパンチラしてしまった時はあったが、あの時は後ろからパンツを見られた。が、今度は正面からだ。


 ことは布の上からでも一目瞭然。いかに鈍感なタケルでもひと目で分かっただろう。


 また悪漢の一人はタケルが入ってきた際、「この女の連れか?」と聞いていた。『この女』という言葉が指す人物は、あの状況から考えて私一人しかいない。


 さらにはタケルに向かって、「男は趣味じゃねえんだけどな……」という呟きまで漏れていた。これもやはり、私が女子であることを示唆する発言だ。


 まさかこんな形でネタバラシすることになるとはなあ……と、私は今までのゲームに思いを馳せて、やや感傷に浸るような気分でもあったのだが。


 タケルは「へ?」と間の抜けた声を出して、目をぱちくりとさせていた。


「『バレちゃった』って、何が?」

「え? いやだから――」


 女だということがバレてしまった。できればタケルの側から自然に気づいてほしかったのだが、ところを見られてしまったうえ、第三者からも明かされたのでは仕方がない。


「私が女だってことだよ。タケルずっと気づいてなかったでしょ?」


 ファンシーショップでは一人称も『私』に変わってしまったし、もう王子様口調でもなくなっている。


 いくらなんでもこれだけ条件が揃えば気づくはずだと思い告げたのだが……。


「え? そんなんとっくに気づいてたぞ俺」

「え?」


 どういうことだろうか……。タケルは今までずっと、私のことを男子だと思っていたのではなかったのか……?


「き、気づいてたって……私が女だってことに? いつから?」


 タケルは何を今更といった顔で、嘘をついているようにはまったく見えなかった。


「最初から。高校初日に再会した時――お前の顔見てひと目でそうだって分かった」


 さ……最初からですと⁉ 会った瞬間もう気づいてたってこと⁉


 校門の前で再会した時には既にバレていた――。私の混乱は並大抵ではなかったが、タケルの方でも何やら話の齟齬を感じている風だった。


「ていうかお前、男に憧れてたんじゃないのか?」

「は……はあ⁉」


 男に憧れ? 私が? タケルは何を言っているの……。


「だって男子の制服着てたから、てっきり男性になりたいとかなのかと……」


 私の格好が上下とも男子用の学生服だったために、彼の中でややこしい勘違いが発生していたようだった。


「違ったのか? だったらどうして」

「あれは……」


 ただ再会するのも面白みに欠けるかな~と思い、遊び心であるゲームを始めたのだ。


 私のことを女子だと見抜けるか、それともいまだに男友達だと信じ込むのか――タケルの反応を楽しむお茶目な男装ドッキリだった。


「ど、ドッキリですと⁉」


 そのように一から説明してあげると、タケルは目をまん丸にして驚いていた。


「なんとまあ……」


 私のジェンダーをずっと勘違いしていたらしいタケル。今になって真実を知り、だはぁ~と盛大に脱力していた。


「そういうことか……。だからあんなに怒ってたのかお前……」


 スカートよりズボンが似合うと言ったタケルに対して、私がプリプリと機嫌を損ねていた理由――。女の子として認めてもらえないことが悔しかったのだと、今になって理解していた。


 その他もろもろの私の言動も、タケル目線ではきっと不可解に映っていたのだろうが……。ここへきて真相を聞き及び、そうだったのかと納得していた。


「騙しててごめんね? なんか途中から意地になっちゃって……」


 なんとしてでも自然に女だって気づいてもらう! と躍起になっていた。自分から明かしたのでは女としてのプライドが傷つくため、それとなく魅力をアピールしていたのだ。


「いや……。俺も言うタイミング逃しちゃってたし……」


 タケルもタケルで、定番のあのセリフを言い出すことができないまま、ずるずるとここまで来てしまったらしい。


 私たちって、なんだか噛み合っていないようで実は似た者同士だ。


「なんなら今言う? もう今更感はあるけど」


 どちらからともなく笑い合う。タケルは「そうだな」と乗ってきた。


「じゃ、すっげえ遅れたけどやっとくか」


 うんと返事をして、彼の言葉を待つ私。すーっと息を吸ったタケルが、声を大にしてぶつけてきた。


「――お前女だったのか⁉」


 私とタケルの長かったドッキリが、今ようやく終了した。






―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


なんとか無事に着陸できたぞ……。

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