第5話 結果報告(ユキ視点)
「え~っ⁉ 気づいてもらえなかったの⁉」
翌日になって3組教室に入るなり、三田さんたちは「昨日の放課後デートどうだった⁉」と聞いてきた。結果を報告すると、みな目玉が飛び出そうな勢いでうそだろと驚いていた。
ドッキリ二回戦も不発に終わってしまい、私は塩の振られた青菜のようになっていた。うう……といううめき声を漏らしつつ、昨日教室を出た後の行動を振り返る。
「あの後タケルと合流して……」
校門前で待ち合わせていたので、ネクタイにズボンという出で立ちで彼を待った。
遅れてやってきたタケルは改めて私の姿を観察していたようだったが、朝の時と同様、女だと気づいた言動を見せることはなかった。
幼馴染の鈍感さに辟易しながらも、私は並んで移動を開始する。彼が連れていった場所は、高校生御用達の複合型アミューズメント施設だった。
「ああ~、あの」
三田さんらもよく利用するらしい、ゲームとスポーツが同じ施設内で楽しめるような店。巨大なボウリングのピンが目印のそこに入ると、さっそくタケルが遊びを指定してきた。
「格ゲーやろうぜ!」
ゲーセンコーナーの格闘ゲームで熱いファイトが始まった。ガチムチマッチョマンたちを互いに動かし、殴る蹴るなどのバイオレンスを白熱させていく。
「え~? クレーンゲームでかわいいぬいぐるみ取ってくれるとかがいいよねえ~」
三田さんもほかの女子も、うんうんそうよと正しい放課後デートのあり方を提唱している。むろん私としてもその路線の方が望ましかったのだが……。
しかしタケルは私を男子だと信じたまま疑わないようで、男の子っぽい遊びにたいへん満足している風だった。それこそ小学生のような無邪気さで、筐体のスティックやボタンをガチャガチャやっていた。
これはいけないと危機感を抱いた私は、次のゲームは自分で選ぶことにした。
向かった先はプリクラコーナー。"かわいい"路線のものに興味を示すことで、女の子ですよと自然に気づいてもらう作戦だ。
タケルは男二人でプリクラに挑むことに違和感を覚えた風だったが、『最近は男同士で撮るのも流行ってるのかなあ』くらいの理解で歩を進めていた。
「おおっ! いいねえ放課後デートでプリクラ!」
話に食いつく三田さんたち。デートという単語を出されると私にはちょっと照れくさかったが、正直悪い気もしないなと内心で密かに思う。
「ところがねえ……」
残念ながら彼との撮影は叶わなかった。プリクラコーナーには『男性客のみの利用お断り』の張り紙がしてあり、絶賛男装中の私がタケルと乗り込むわけにはいかなかったのだ。
「男の子だけだと使えないの?」
と疑問を抱く女子たち。張り紙の件について男子たちを振り返って尋ねると、「そういえばたまに見かけるなあ」「あの店にも確かに貼ってあった気がする」と返ってきた。
「なんかナンパとか盗撮とかのリスクを店が嫌ってるとかでさ。男は女の子と一緒でしか撮れないってとこ案外多いよ」
本当は男女ペアの私とタケルなので、問題なく撮影に挑むことができるのだが、やはり自分から「実は女子でした!」と明かしたくはない。それは自分自身に女としての魅力がなかった、と認めざるを得なくなってしまう行為だ。
「こんなにおっぱいでかいのにねえ~」
これは鍛え上げられた大胸筋だと、タケルからは思われている。私の胸部を凝視する三田さんにそう説明すると、ほかの女子も男子も「マジかよそいつ……」みたいな引き顔になった。
そんなこんなでゲーセンコーナーから移動したわけなのだが、その途中でもタケルからの予期せぬ発言が飛び出していた。
別の場所へと移る際に、「連れション行かね?」と男子トイレに誘ってきたのだ。
「うわ……」
「ないわー。マジあり得ないわー」
とクラス中ドン引き。タケルの視力を疑う者まで現れていた。
ついていくわけにいかないので適当に断ると、彼はどこかしんみりした様子でひとり男子トイレへと消えていった。
「どんだけ連れションしたかったんだよ」
その後はカラオケコーナーへと移動し、定番の曲を歌うというよくあるパターンに。
会話する時の声は低めを意識していた私だったが、歌う時はどうしたって女子の音域を使うことになるので、これは気づいてもらえるのでは? と考えていた。
「おお! 目が悪くても関係ないっ!」
仮にタケルの視力に問題があったとしても、歌唱時の声であれば耳で女子だと気づくことになる。クラスのみんなは勝ち確ムードを感じて早くもガッツポーズした。
ところがタケルのやつときたら……。
「いや、それでも気づいてもらえなかったんだよね……」
まさかあんな勘違いをかましてくるとは思いも寄らなかった。歌声作戦も失敗に終わったと私から聞いて、みんな「オーマイジーザス!」と神の存在すら疑っていた。
「マジどうかしてるんじゃないの1組の佐久間ってやつ~!」
タケルへのヘイトが天を貫かんばかりに高まっていく。今から一緒に殴りに行こうかと、拳を突き立てて一致団結していた。
「ありがとうみんな。でも……」
もちろん女だと気づかないタケルの圧倒的鈍さには、私も呆れて物も言えない。しかしそれでも、幼馴染のことを悪く言われてしまうのはちょっと悲しい。
「それにね」
カラオケでは、少しだけ嬉しい出来事もあったのだ。その時の彼の言葉を思い出すと、つい顔が熱くなってくるのを感じてしまう。
「渚ちゃん……」
「おお……なんて乙女な表情を……」
「可憐だ……」
染まった頬を両手で覆い隠す私を見て、みな何を思ったのかより結束を強くしたようだった。互いによしと頷き合い、個々の意志が同じであることを確かめている。
「俺たちが見守らなければ――」
「渚ちゃんのことは、この3組が一丸となってサポートするよ!」
こんなバカげたドッキリに、健気にも協力すると言ってくれていた。熱い青春の絆を感じとって、私は思わず涙声にまでなってしまう。
「み、み゙んなあ!」
「へへっ、王子様系女子が台無しだぜ。なんか俺らにできることはあっかい?」
何でも言ってくれとのことだったので、「それじゃあ」と私はお願いした。
「できればタケルには、私が女だってこと隠してくれるとありがたいんだ。やっぱりあくまでタケルの方から気づいてほしいから……」
両手を合わせて頼み込むと、みな「うんわかった!」と二つ返事で引き受けてくれた。
「ぶっちゃけその方が面白そうだし!」
ドッキリの仕掛け人サイドにつくことを約束してくれた。中には単純な好奇心で動いている人もいるようだったが、私には口外しないだけでも十分に助かることだ。
「ほかのクラスの連中にも、渚が女だって佐久間の前では言わないよう伝えとくわ」
タケル以外の学校関係者全員に、"渚ユキが女であることを明かさない"というルールが共有されるようだ。これでゲームの場は完全に整ったといえるだろう。
「あとは渚ちゃんが女の子っぽさをアピールしてくだけだね~!」
もはや私本人より盛り上がっている感すらある。ポンと手を打った三田さんが、女子らしさをそれとなくほのめかすアプローチ方法を提案してくれた。
「――そうだ! 渚ちゃんにあるアイテムを授けてしんぜよう」
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次回から主人公視点に移ります。応援はとても励みになりますので、フォローや☆☆☆で作品のクオリティーアップに一役買ってもらえると嬉しいです。
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