あなたと見た星空は
藍色の星 みり
あなたと見た星空は
八月某日。昔から仲のいい異性の幼馴染と一緒に、流星群を見に来ていた。
「ふー、やっとついたー!」
俺の幼馴染、
一面を見渡せる、キャンプ場の中の展望台に行き、二人座って星空を眺める。
「うーん、流星群って言っても、そんなにヒュンヒュン流れるものじゃないんだね」
「そんなに大量に流れるのはフィクションだけよ」
自分が住んでいるのは紛れもない田舎。山に囲まれた、自然と触れ合える良い場所。温度も過ごしやすく、キャンプ場も多くあり、夏のキャンプシーズンは数多くの人で賑わう絶好のスポットなのだ…だが今は平日ということもあり人はほとんど居ない。
ただ、静かに空に浮かぶ星を眺める時間。そうして一時間は経っただろうか。空に流れる一筋の光…
「…流れ星だ、綺麗〜」
「ほんとに、綺麗だな」
ここには星の光を遮る照明は存在しない。だからこそ、こうやって綺麗に星が、より幻想的に見えるのだ。それにしても、なぜこんな日に誘ってきたのだろうか。
「なぁ。奏多」
「ねぇ、
そこで不意に
「私ね、東京に引っ越すことになったの」
それは、彼女がここから離れてしまうことを告げる言葉だった。
「お父さんの仕事の都合と、あと私の進路の関係もあってね、私たちもそっちに行かないといけなくなっちゃったの。それで、一週間後には引っ越しちゃうの」
………
「いいじゃん、東京の方に行っても、元気にやっててね」
「ねぇ、冬夜…冬夜は、悲しくないの?、私が行っちゃうことに…私は悲しい」
「……そりゃあ…また…なんで」
……言いたいことはあった。だが、これを言うことが、奏多の覚悟の、邪魔になってしまうんじゃないかと思うと…言えなかった。
「……私が、気付いてないとでも思ってる?」
「…何に」
「誤魔化して誤魔化して、それをし続けて、自分の想いを断ち切って、それは冬夜が望んだことなの?」
「…それは」
わかっている、わかっているんだ。俺たちは、小学校に入る前からの付き合いだった。ここ最近はなかったが、小さい頃は数え切れないくらい、家まで遊びに行った。行き帰り一緒に居た。中学校に入ってからも、それが続いていた。
「私たち、昔からずっと一緒に居たよね。中学校の頃、それで周りにイジられたこともあったっけ、冬夜くんはその時必死に否定してたけど私は……ううん、なんでもない」
「…そういやそんなこともあったな」
「高校も一緒のところだったね、一年生の時はクラス違ってたけど、二年生と三年生では一緒だったじゃん、あれ、運命なんじゃないかって思ったんだよ?」
「…実は俺もそう思ってたりした」
「考えてること一緒だね!」
そう言われて、ちょっと恥ずかしくなった。顔が熱くなっているが、奏多は星空を見ているからか、夜が暗いからかは知らないが、恥ずかしがってることはバレていないようである。
「私、東京の方にある大学に行くの」
「…すごいな、頭も良かったし、奏多ならきっと行けるよ」
「東京藝術大学!、しっかり勉強したいことしてくるね!」
「頑張ってね」
そこからしばし静かな時間が流れた。
「ねぇ…冬夜は流れ星になんてお願いした?」
「…いつの間にか終わってたから、願う間もなかったよ」
「そーなんだ、もったいないなー」
「そういうお前は何かお願いしたのかよ」
「私はもちろんお願いしたよ?」
「どういうお願い」
「それはトップシークレット」
「おい」
自分が人に聞いておいて他人には教えないと言うのはどうなんだろうか。
「私、ずっと待ってるんだよ?」
「なにをだよ」
「…冬夜くんが言ってくれるのを待ってたけど、その分じゃ言ってくれなさそうだね、じゃあ私から聞くんだもん…ねぇ冬夜、私のこと、好きでしょ」
「………」
「わかりやすかったよ、暇だったら私にすぐ連絡してくるし、ことあるごとに遊んだりしてるし、それに近くを歩いてる時に手を繋ごうとして、でも恥ずかしくて引っ込めてるのをよく見てる」
「な、なんでそれを…」
バレていたのか……
「それなのに、冬夜くんから言ってきてくれることを待っていたのに、何年経っても何も言ってこない!!!、なんで!、私のこと好きじゃないの!?」
…なんて返せば、いいんだろうか。
「いや、違うんだ、奏多…好きじゃないとか、そう言うことじゃない」
「じゃあどう言うこと!」
「…言う勇気が、なかったんだ、言っていいのかって思って、言おうと思ってもそれが頭に浮かんで先延ばしにして、いつしかもう何年も経っちゃってた、それに、もううすぐ引っ越しちゃうってときに言っちゃうと、東京に行く奏多の負担になるんじゃないかって、そう思ったんだ」
これは、本当に嘘偽りのない真実だ。
「……そんな心配、いらないのに…」
奏多がぽつりとつぶやいた声は、どこか涙をこらえるようだった。
星空の下、その小さな声は夜の静けさに吸い込まれていく。
「私も!!!、ずっと冬夜のことが好きだったの!!!、なんで私に言わせるの!、そこは冬夜から言って欲しかったのに!!!」
…知らなかった。これまで一緒に居て、全く。いや、ずっと一緒に居たからこそ、なのかもしれない。ずっと一緒にいるのが普通になったからこそ、小さな変化を見落としてしまう。
「そんなことに気づかないなんて!、冬夜のばか!!!」
「……伝えても、いいのかな」
「いいよ!!、この際だから、全部私に伝えてよ!、全部受け止めるから!」
そう言われたから、思いの丈を全てぶつけることにした。
「小さい頃から、俺の遊びたいことにずっと付き合ってくれた。あんまりゲームやるような人じゃないのに、俺が誘ったら毎回遊んでくれた。一緒に外で遊んだ時も、楽しそうに笑ってくれる奏多の顔が眩しくて、どうしようもないくらい可愛かった。俺が悩んでることがあると、すぐに気付いて慰めたり、話を聞いてくれた」
「たまに、よしよしした時は本当に可愛かったなぁ〜」
「うっさい」
恥ずかしい記憶を掘り返さないでくれ。
「高校生になっても、一緒に家に帰ったりしてくれた。何か用事がある時はそれが終わるまで待ってくれてたよね」
「当たり前じゃん、一緒に帰りたかったし」
「それで、いつも元気に、楽しいことがあったよって話してくれる奏多の笑顔を見て…どうしようもなく、好きになってしまった…」
前を向くと、奏多はそっぽを向いている、
「い、言いたいことは、それで終わり!?」
いや、言いたいことは、まだ一つだけ残っている。
「……まだ一緒に居たい。大好き、奏多」
「ふぇっ!?」
後ろに抱きつきながらこう言った。
「ふぇぇ…こういうことされるとは思ってなかったよぉ…」
「ほんとに、大好き、ほんとに」
「わ、わ、わかったから!!!」
彼女はこっちを向いて、改めてこう言った。
「ねぇ、冬夜、私と…付き合って?」
「はい、よろこんで」
この星空の下、新たなカップルが誕生した…それから10分ほど、気まずい時間が続いていたが、
「恋人になったってことなんだよね、なら…こういうことして、いいんだよね」
奏多がこっちに倒れ込んできて、俺が膝枕している状態になった。
「う、うん、恋人、だからな」
そんな時、また一つ流れ星が通り過ぎていった。
「ねぇ奏多、流れ星に、何を願ってたの?」
「何も願ってないよ、だってもう、叶っちゃったからね」
彼女はそう呟いた。
「ねぇ、もうすぐ東京、行っちゃうんだよね」
「もうすぐ、ね。でも大丈夫だよ。今はスマホ一台あれば、離れててもいつでも連絡が出来るんだし、便利な時代になったよね〜」
「そうだな」
時間は刻一刻と過ぎていく。でもそんな中、僕(私)たちは今、ずっと止まった時間にいるような、そんな不思議な感覚の中に居た。
一緒にいる暖かさに、もうすぐ離れてしまう、えも言えぬ寂しさ。それが果たしてなんなのか、僕(私)たちには知る由もない。
「それじゃ、そろそろ帰ろっか」
「そうだな」
何かが変わったような今日の日に、あなたと見た星空は、どこか儚く、切なかった。
あなたと見た星空は 藍色の星 みり @aihosi_miri
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