幕間③
複数人以上で成り立つ人間関係は、鎖のようなものだと思っている。
直接手を結び合う人とは特に仲が良くて、間接的に連結している人とは繋がりは弱い。離れている人ほど弱くなり、グループでは遊べるけど一対一では遊べないような間柄。
そんな私の中でのイメージ。
そうした鎖は絶えず流れるように動いていて、出来事に応じて弛んだり、張り詰めたり。離れて繋がっていた人が近づくこともあれば、遠ざかっていく事もある。直接手を取り合う人が入れ替わることもある。
問題は綻びが生じて、完全に両手が外れてしまった時。
繋ぎ直す前に、目の前で鎖の輪が閉じ切ってしまった時。
さらには別の鎖に繋がる術を持たない時。
女子グループで仲違いが起きる。つまはじき者が生まれる。
要因は種々雑多でも、全国津々浦々によくある話。
当事者にとってはどんなに酷く辛くとも、事件にでも発展しない限りフォーカスされることはない。
私の場合も、そんな数多ある中の一例にしか過ぎないのだ。
四月ももう終わりがけの一日。
校内で発生した筈の嬉しさは帰宅してから追い付いてきた。
鞄を放って、制服が皺になるのも顧みずベッドに仰向けになる。
大の字になって伸ばした手足を、ぱたぱたと意味もなく動かした。
舞い上がる埃が日に照らされ、さながらダイヤモンドダストのように煌めく。ように見える。それくらい高揚している。
「――嬉しかったなぁ」
久しぶりに同級生と会話を交わした。
それも、相手の方から気に掛けてくれた。
気まぐれかもしれないけれど、私にとっては大きな意味を持つ。
最近は検索と音楽の再生に役割が偏っていた携帯電話を握りしめる。
あわよくば半年の間に失ってしまった友人たちから何か連絡が来ないかと、そわそわしていた。
好転の一途を辿るとただただ信じて、受験勉強も忘れて、食い入るように画面を凝視する。
普段後輩の前で孤独に慣れ親しんでいるように振舞っているのにこの様だ。今の姿を見せたら嘲笑われてしまうだろうか。
なんならつい先刻も、舞い上がった自分を隠しきれた自信がない。
どんなに強がっていても、所詮は私も一介の高校生に過ぎない。
一人だけで過ごすよりも、誰かと過ごせる方が安心する。二人よりも三人。出来るならもっと。
他者との繋がりがある分だけ安定する。鎖の一員であることそのものに意味がある。
そうでない人もいるだろう。でも私には無理だ。
勉強にしても、運動にしても、恋愛にしても、自分が何かに励むには繋がりを必要とする人間だと知ったのは、皮肉にも独りになってからだった。
その繋がりを、安寧をたった一瞬だけでも今日は味わえた。
飢えて貪欲になった私は、画面の向こう側からもう一度が訪れないかと待ち続ける。
固唾を呑んで、時間も忘れて。
餌を待つ犬のように。
深くかかった靄の中で光明を探すように。
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