第4話 初夜
玄関から伸びるフローリングもまっさらで、ワックスが光を照り返している。
「まさか、まだ入居してなかったの?」
「三日前から住んでるよ。仕事道具を運び込んだだけ。
――さぁ、上がって上がって」
廊下を歩いていくと、途中には洗濯機が置いてある脱衣所とバスルーム。
近くには新品のトイレ――うわ、シャワートイレだ、これ。
女性用品は……さすがに置いてないか。
キョロキョロと確認をしながらリビングの白い扉を開けると、中では十二畳くらいありそうな広い部屋が待ち構えていた。
観葉植物の鉢植えと、大きなソファに囲われたガラスのローテーブル。
正面の大型テレビの近くには……ゲーム機、かな?
「
「気分転換と、知人を招いた時の暇つぶし用にね」
うわ、結構ドライだな。
奥にはダイニングテーブル……ちょっと大きいな。お客さんが来ても対応できそうだ。
その奥が木製のキッチンカウンター、キッチンに入ってみると、大きめの作業台に食洗器。
シンクも広くて、大人二人で作業できそうだ。
コンロは……え、四口?!
「ちょっと、なんでこんなに豪華なキッチンなのよ……」
「
まさかの私向けの設計ーっ?!
私は両手の指先をくっつけながら、俯き気味に告げる。
「実は私、料理はその……」
「気にしないで。
神かーっ?! 何この子?! 料理できるの?!
冷蔵庫も大型家族用の二十リットルぐらいありそうなもの。
中を開けてみたけど、しっかり食材が入ってる。
むむ、下ごしらえ済み? 口だけじゃないな……。
私はため息をついて冷蔵庫のドアを閉めた。
「
「そんなことないよ。
『一人でできることには限界がある』って教えてくれたの、
「そりゃ、昔はそう言ったけどさ……」
なんか、料理もできない女とか……年下男子が料理上手だとちょっと惨めだ。
これで『妻です』なんて言って、私に何ができるんだろう。
「だから、気にしないで。僕は
私は思わず振り向いて
「今、なんて言ったの?
「小さい頃、
今はその時の夢がかなって、実は踊り出したいくらいなんだ。
私は方眉を上げて
「……それ、どういう意味?」
「だって、自己破産すれば借金はなんとか片付くからね。
それはそれで生きていくのが大変だけど、結婚しなくてもいい道もあった。
だけどお爺ちゃんから説明されても、結婚を選んでくれたんでしょ?」
私は茫然としながら
「そんな話、聞いてないよ……」
「……本当に? お爺ちゃん、何を考えてるんだろう」
私はため息をつきながら
「ねぇ、今から結婚を取りやめにして、自己破産ってできると思う?」
「もう婚姻届は出しちゃったし、離婚ってことになると思う。
自己破産しようにも、今の状態じゃ審査はまず通らないよ」
困り顔の
「嵌められたわね……全部分かってて手続きを急いだのね?」
「かもしれない。お爺ちゃん、そういうところが強引だし」
あんのクソ爺! 何を考えてるんだ!
バサバサと
観葉植物の上にとまり、「カーッ!」と一声鳴く――気にするなって?
「気にするわよ! なんで私が罠に嵌められないといけないの?!」
「
そんな
僕もなるだけ
年下の
「ごめん、
――ベッドルームは?」
「こっちだよ。リビングの奥」
私は先を行く
****
「嘘、ダブルベッドなの……」
博寝室には、キングサイズのダブルベッドが一つだけ。
部屋にはテレビとノートPCがなぜか置いてある。
「ごめん、さすがに寝室を二部屋は用意できなくて。
――そこまで気を使わせるわけにはいかない!
私は余裕の微笑みを浮かべながら振り返り、
「私たち、夫婦なんでしょ? 七歳も年下の男の子なら気にすることはないわ。
先にシャワー浴びるわね」
おもむろに服に手をかけ、自分で脱いでいく。
「僕は! リビングでテレビを見てるから!」
ブラウスを脱ぎかけたところで
「……はぁ~、助かったぁ」
私は早鐘を打つ心臓を押さえ込みながら、へなへなと床にへたり込んだ。
あれで少しは男性経験豊富に見えたかな?
年下の男の子なら、これで簡単に手を出そうとは思わないだろう。
自分がリードしたくても、相手が年上で経験豊富。気後れするのは間違いない。
私は寝室内のクローゼットを確認して、白いバスローブを取り出した。
ドアに注意しながら服を脱いでいき、バスローブを身にまとう。
「――ふぅ。シャワーを浴びて気分転換しよう」
私はそのままドアを開け、寝室を後にした。
****
私の後に
テレビでお笑い番組が流れているけど、ちっとも頭に入らない。
気まずい空気の中で、私も
不意に
緊張するに決まってるでしょ?!
形だけでも私たち、夫婦なんだけど!
でももう夜遅いし、眠らないと。
「
「うん……でも、本当に同じベッドで大丈夫なの?」
私は必死に微笑みを作りながら答える。
「あら、
顔を真っ赤にした
主導権を握った気がして、思わず笑みがこぼれる。
「可愛いわね。さすが十八歳」
「うるさいな……年の差はしょうがないじゃないか」
あ、やっぱり子供っぽいところはあるんだな。
気持ちに余裕が出た私は
「いいからもう寝ましょう? 君は明日、どうするの?」
「……仕事。
寝室に入りきらない分は、二階の空き部屋を使っていいから」
私は微笑みながら頷くと、
私がベッドに入る様子を、
私が枕に頭を沈めると、
思わず笑みをこぼしながら、私は告げる。
「もう少しくっついてもいいのよ?」
「そんなこと……できるわけないじゃないか」
――よし! 今夜は安全!
「それじゃおやすみ、
「うん……おやすみ、
私は安心と気疲れから、ストンと意識を手放した。
****
静かな寝息を立てる
遠慮なく
「ようやく手に入れた。もう離さないよ、
リビングで
「わかってるよ
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