第6話:絵本のような世界
「神奈川県ですよ。関東地方の」
私の必死な説明も、朝霧先生は困惑の色を隠せない。
嘘でしょ? 神奈川県知らないの? そんなことある? ここ地方なの?
それにしてはみんな喋っているのは標準語……。
私は慌ててカバンを開くと、さっき確認した身分証の住所を確認する。
「光陽学園都市 桜小路1丁目……」
私が身分証の住所を読み上げると、朝霧先生は瞬時に顔の困惑を消し去り、少し拗ねたような口調で言った。
「なんだ、すぐ近くじゃないですか。よくわからないこと言って、私をからかっていたんですか?」
「え、いや、からかってなんか……!」
思わず否定する声が上ずった。
冗談なんかじゃない。こんな住所知らない。
私の頭の中は今、巨大なクエスチョンマークで埋め尽くされている。
車はいつの間にか、小綺麗な商店街のような場所を抜けていた。どの店も看板が可愛らしくて、色とりどりの花が飾られている。まるで絵本の世界に迷い込んだようだ。現実世界の疲弊した街並みとは大違いだ。
そして、やがて視界に入ってきたのは、白い壁に青い屋根の、どこかお洒落な建物だった。病院にしては可愛らしい、そして個人名の病院にしては規模がデカい外観に、私の目が点になる。
「着きましたよ、水野病院です」
「……デカ……」
私がアホヅラを引っ提げて見上げていると、朝霧先生はクスクスと笑う。
「病院は、そんなに珍しいですか? 健康的だったんですね」
自分があまりにも世間知らずのような感じになり、本気で笑われている。
「あ…… い、いえ……」
私は恥ずかしさで顔が赤くなる。
「今、車椅子借りてきますね」
朝霧先生はそんな私の様子を見ながら病院に入って行った。
何から何まで気の利く人だな、と感心しつつも、言いようのない不安が心の中を支配していた。
しばらくすると、朝霧先生が車椅子を押して戻ってくる。
「さ、どうぞ。無理せずゆっくり」
彼は助手席のドアを開け、私が乗りやすいように少し車椅子を傾けてくれる。
「何から何まですみません、ありがとうございます」
私がそう言うと、彼は満面の微笑みを私に向けた。
「いえ。養護教諭として当たり前のことをしてるだけですから、お気になさらず」
そっか。養護教諭ってこんなに優しいんだ。
次付き合うなら養護教諭がいいな。
私はこんな状況でありながらも、そんな馬鹿なことを考えていた。
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