第2話 シャイだったはずの聖女様がムッツリに!?



「……すごいたくましい体……抱かれたい……」


 清楚で異性に免疫のないはずのセレスティアは、指の隙間から俺の裸体をねっとりと舐めるように凝視しながら、赤面して恍惚の吐息と共にぼそりと呟いたのだ。

 俺の聞き間違いか?



「セレスティア……?」

 


 恐る恐る声をかけると、彼女はハッと我に返り、自分の失言に気づいたようだった。



「ひゃいっ!?  今のは違うんです。聖女としてカズキ様の健康状態を確認するための神聖な診察の一環でして!  決してやましい気持ちなど、つゆほどもないんです。  決して、その、夜な夜なカズキ様の寝顔を眺めながら妄想していたようなたくましいお体に興奮したとか、そういうことでは断じてありません!」



 しどろもどろに、墓穴を掘りまくりながら涙目で弁明するセレスティア。その姿は、かつての穏やかな中にも厳かをもつ聖女様からは想像もつかないほど狼狽しており、なんだか小動物みたいで可愛い。



「そうか……ならいいんだ。魔王との戦いの後、ずっと治療をしてくれたのか? なんだか悪いな」

「そんなことはありません。むしろ、私が無力なせいであなたはあのようなことに……」


 一体どうしたというのだろう?

 お礼を言ったらなぜか彼女は涙目で俺の体を見つめてくる。まるで何かつらいことを思い出してしまったのを抑えるかのように……



「ま、まあ、もう怪我も治ったみたいだし、俺の治療はしなくていいぞ。聖女であるセレスティアを待っている人はたくさんいるだろうし、教会に戻った方が……」

「それは……私はもう不要ということでしょうか?」

「え?」


 思わずセレスティアを見ると先ほどの可愛らしさはどこにいったやら目のハイライトは消えており、世界の終りのような顔をしている。



「そうですよね……聖女などと崇めたてられていたというのに肝心なところで役に立たない私なんて存在価値もないですよね。見捨てられて当然だと思います……ですが、私はあなたの聖女になると決めたのです。何でもします!! ですからそばにいさせてください。お願いします!!」

「いや、違うんだって!! 俺の体はセレスティアのおかげで治ったんだ。君がそばにいてくれて本当に感謝しているんだよ。これ以上心配させたくないって思っただけなんだ」

「本当ですか……? 私が目障りだから強がっているわけではないと……?」



 彼女の瞳に感情が徐々に戻っていく。

 よかった……だけど、何なんだよ、この空気……? 何とか場を和ませないと……



「そんなわけないだろ。まだ治ってないって疑うんだったらこんな体だったら好きに見てくれて構わない、俺も美少女に見てもらえるのは嬉しいし、何なら触ってもらっても構わないぞ」



 つい、軽口を言ってから冷や汗を流す。そうだよ。ロキ様の言葉とセレスティアの様子がおかしいからつい調子にのってしまったが、これはまずい。

 かつて彼女を助けた時も勇気を出して「俺に惚れてもいいんだぜ」と言ったらスルーされてしまったのだ。きっと内心では「きっしょ」って思っていたのだろう。

 


「ごめん、今のは冗談……」



 それにだ。裸をみられたのはラッキースケベみたいなものでごまかせるかもしれないが、清楚で男性に免疫がない聖女様に「もっと見ろ」なんて言ったのがばれたら教会から大罪人扱いをされてもおかしくない……そう思ったのだが……



「いいんですか? いいんですね!!」

「え?」



 俺が予想外の言葉に驚いていると、セレスティアは顔を真っ赤に染め上げたまま、潤んだ瞳で俺を見つめていた。その瞳には、羞恥だけでなく、抑えきれない好奇心と……どこか昏い熱が宿っているように見えた。

 

 そして、美しい白い手が、おそるおそる俺の胸元に……置かれると、ひんやりと、それでいて柔らかな指先が、俺を襲う。



「ひゃぅっ……! すごく硬くてたくましいです……♡」


 

 なぜか触れたセレスティア本人の方が、甘い声を漏らすと、そのまま、彼女の指が、俺の胸の上をそろり、と滑る。その動きは明らかに治療とはかけ離れた、何かを確かめるような、慈しむような、ねっとりとしたものだった。



「せ、セレスティア……?  触りすぎじゃない……」

「ち、 違うんです。これは治癒魔法の最終確認です! ちゃんとなおっているか、直接触れてみないとわからないこともありますので……! 」



 顔を赤らめつつ触り続けるセレスティア。

 なんだこれ? なんだこれ? 彼女の手はどこかいやらしく、息は荒く、瞳にも熱を帯びている気がする。

 俺の知るセレスティアとは別人みたいだ……



「ちょっと、セレスティア? そこは大丈夫だって」



 そして、その手が俺の下半身にまで迫ろうとした時だった。俺は思わず彼女の手を掴んで制止した。

 これじゃあ、聖女じゃなくて性女じゃん。



「も、申し訳ありません!  わ、私としたことが、つい治療に熱が入りすぎて……! け、決してカズキ様の下腹部に興味があったとかそういうわけではないんですぅぅぅ」


 彼女は顔をリンゴのように真っ赤にすると、彼女は「し、失礼しましたぁぁぁ!!」と絶叫し、今度こそ脱兎のごとく部屋を飛び出していった。



「今のはなんだったんだ? 俺の知っているセレスティアと違いすぎる……」



 俺の知っているセレスティアは、あんな風に異性の体に触れるどころか、エッチなことを考えている事すら想像のできない少女だった。



「まさか、これって……」



 彼女の変化から俺の頭によぎったのはロキ様に願ったことだった。だけど、セレスティアだけでは確証を得ることはできない。もう一人くらい俺がよく知っている女性がいればいいのだが……



「カズキ様、お目覚めになられたようですね! 本当によかったです」

「シノン? なんでここに?」



 そして、セレスティアが開きっぱなしにしていた扉から代わりにやってきたのは、何かが入っているカートを引いている無表情なメイド服の青髪の少女だった。



★★★


「はしたないことをしてしまいました……」



 カズキの部屋を飛び出したセレスティアは、聖女らしさなども忘れ廊下を走り、自らに与えられた客室の扉に飛び込むと、そのままベッドに横たわる。



「はぁ……はぁ……っ、カズキ様の体大きかったな……あの体で私たちを守ってくれていたんですね……」



 心臓が、うるさいくらいに脈打っている。顔は火が出そうなほど熱く、呼吸もままならない。

 先ほどの自分の行動を思い出すだけで、羞恥に身がよじれそうだった。聖女にあるまじき、なんと破廉恥な振る舞いをしてしまったのだろう。




「だけど、あなたを失いそうになって、私は決めたんです。もう、自分の気持ちを偽らないと……あなたに気持ちを伝えると。例え聖女としての立場を捨ててでも守り抜くと……」


 

 あの戦いで、傷を負ったカズキの姿を思い出し、罪悪感と無力感で胸が痛み、心が曇っていく。

 もう、あんな想いはしたいくない。だから……



「……カズキ様。あなたはもう誰にも傷つけさせません。私が、この愛で永遠にあなたを護ってさしあげますからね……♡ 私はあなただけの聖女になったのですから♡」



 その瞳は、聖女の慈愛とは似て非なる、昏く、どこまでも深い独占欲の炎に燃えていた。




★★★


どうやら聖女様は主人公に強い感情を持っているようですね……


次の話はメイドさんが登場します。お楽しみに。


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