札劇舞台
「お願いします、スパーダさん!」
「行け、サターン」
エルクリッドは
開始早々にエルクリッドはバエルが二体同時召喚の高等術デュオサモンをしない事に違和感を覚え、彼の意図が何かを想定し始める。
(余裕はあるのにデュオサモンをしない……あたし達が勝てないから手加減してるのか、そうでないか……)
バエルが並のリスナーではない事は承知の事実。ただ手加減をするのならば名前を呼ばずに召喚する事もするだろう。
考えても答えは見えないとエルクリッドは判断しカードを抜き、チラリと振り返るスパーダが小さく頷くのを目にし改めて目の前に集中する。
「考えても仕方ないよね。お願いね、スパーダさん」
「この剣にかけて、エルクの勝利の為に最善を尽くしましょう……!」
手にする大剣を強く握り闘志を高めるスパーダが足に力を入れいざ前へと踏み出す刹那、バエルがカードを引き抜くのを捉えたエルクリッドが咄嗟にカードを引き抜いて身構える。が、バエルが次の瞬間に使用したカードは意外なものであった。
「ホーム展開、月草原」
「っ!? ホームカード!?」
戦いの場に広がる漆黒の草原と共に中空に浮かび現れるは青の満月。ホームカードの使用はエルクリッドはもちろん、見守るシェダらにとっても予想外で目を丸くし、驚きの一瞬を逃さずバエルは次なる動きを見せた。
「戻れサターン」
何もさせずにアセスを戻すバエルの意図がわからずさらにエルクリッドは混乱しかけるが、深く息を吐いて気持ちを落ち着かせる。
バエルのガーゴイル・サターンは硬い体から繰り出す剛力と強力な地属性魔法を有する強力なアセス。それを戻して何を召喚するのか、彼が展開した月草原のホームカードの特徴を踏まえ引き抜いたカードを入れ替えた。
(月草原はアセスの魔法やスペルカードの効果を強化するホームカード、そしてもう一つの効果は……)
「狩りの時間だ、ムーン」
サターンに代わりバエルが繰り出すのは
その姿にエルクリッドはやはり、と内心と思いつつ引き抜いたカードへ魔力を込め、意図を察するスパーダも手にする大剣を背負い直す。
「ツール使用、ビーストキラー!」
天より落ちてくる波のように揺らぐ刀身を持つ剣をスパーダが掴み取り、同時に駆け出して一気に攻勢へ。
対するムーンも両腕を広げ爪を伸ばして走り出し、すれ違う両者が互いの脇を浅く切り合う。が、全身を鎧で固めるスパーダは鎧を少し傷つけた程度に留まり、素早く反転して振り抜く剣が地を割りながらムーンの身体をさらに切り裂く。
無論、素早い身のこなし故にムーンも切られはすれど致命傷にならず、宙返りで距離を取りながら牙を剥いて唸り声をあげて威嚇し、バエルもまたカードを引き抜き魔力を込める。
「ツール使用、スペクタースナッチャー」
ムーンの両腕に装着されるは白銀の鉤爪と手甲。実体を持たぬ相手を切り裂くスペクタースナッチャーの装備はエルクリッドにとっては想定内のこと、であるが故にますますバエルの意図が読めずカード入れに手をかけながらも、激しく切り合うスパーダの姿を見守るしかできなくなってしまう。
(月草原は
チラリと足下に目を向けて発動されている月草原のホームカードの影響をエルクリッドは視認する。使用するスペルカードの効果が強化される恩恵を互いに受けられ、それを利用すればスペルブレイク程ではないにしろ支援はしやすいのも確かな事だ。
相手の意図が見えない以上はこちらから動く必要があるのも事実、息を深く吐いて攻勢への采配を瞬時に思考しカードを引き抜いた。
「行くよスパーダさん! スペル発動エアーバインド!」
声を受けたスパーダが一歩深く踏み込んで剣を振り下ろし、それを両腕を交差し手甲で受け流したムーンが大きく後ろへ飛ばされた刹那に風が吹いてムーンにまとわりつく。
動きを封じるスペルに対しムーンは身動ぎし、ぐっと全身に力を入れ拘束を力づくで破るも大きく両腕を広げた刹那にスパーダが接近し剣を一閃、確かな手応えをスパーダは感じながらも違和感を覚え、さらにもう一閃を放ちムーンに致命傷を与えすぐに距離を取る。
「がぁ……ぐ……」
切られた傷から噴き出す血の量はあっという間にムーンの足下に血溜まりを作り出し、力なく項垂れながらも膝を折らずにムーンは留まり身体を小刻みに震わせる。
スパーダが感じた違和感はエルクリッドも感じ、使えたはずのカードを使わなかった事に警戒心を強めながら詰めの一手を引き抜く。
(エルク、どうしますか? 何かを狙ってると思いますが)
(スペクタースナッチャーはまだ健在……近づくと危ないかもしれないね)
考えられる可能性はトドメに対しての返し技の一手。幽体を切り裂くスペクタースナッチャーは本体が実体を持たぬスパーダにとって致命的なものとなり、
バエルが恩恵があるはずのスペルはもちろん、プロテクションをはじめとする防御スペルでムーンを守らなかった事は不自然極まりない。
このままムーンが力尽きるまで血を流させ待つのも安全策ではあれども、戦いを見守るノヴァの存在、リスナーとしての模を示すという依頼や自分自身の信念からエルクリッドは攻めに出た。
「何かあっても、あたしは勝負する! スペル発動エアーエッジ!」
目に宿る闘志を燃やすエルクリッドがスペルを発動し、カードより放たれる風の刃を剣で絡めとったスパーダが剣を振り上げ風をさらに強めていく。
この後に及んでもバエルに動きはなく、ムーンも限界なのか身体が揺らぎ流れる血も弱々しいものとなっている。何かはある、しかし好機なのもまた事実、スパーダが剣を振り下ろすと共に放たれる風の大刃がムーンへと向かい、その刹那に、バエルがカードを引き抜いた。
「スペル発動ビーストハート。この瞬間、月草原のドラマ適用条件は達成される」
俯くムーンの目が紅く輝いた瞬間、エルクリッドの目に映るのは弧を描く紅い三本の衝撃波と、鎧ごと身体を切り裂かれるスパーダの姿。
ゆっくり時間が流れるかのように景色が流れ、状況を理解する間もなくエルクリッドの身体に三本の切り傷が現れ鮮血が舞った。
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