ある調査
エルクリッドとシェダがそれぞれいた場所の景色が歪んだのを感じた時、次の瞬間には数多の本棚が並ぶコスモス総合魔法院の石畳の上に立ってる事に気がつき、手を下ろし微笑むタラゼドと目があった。
「おかえりなさいませ。無事、修行を終えたようですね」
「何とかってところっすね。貰ったカードは使用回数使い切ってもったいない気もしましたけど」
苦笑い気味にシェダがそう伝え、タラゼドも微笑みながら小さく頷きエルクリッドの方にも目を向ける。
と、修行を終えて安堵するシェダに対してエルクリッドの表情は不安そうに見え、タラゼドの視線にもやや遅れて気づき笑みを見せた。
「あたしもよゆーっていうか、気がついたら終わってたってーか……まぁとにかくやり遂げました!」
「そうですか、それなら良かったです」
天真爛漫に見える裏に何かは感じられたが、タラゼドはこの場では触れず二人の帰還に気づき駆け寄ってきたノヴァを見送る。
「おかえりなさい!」
「ただいまノヴァ。何してたの?」
「リオさんのお手伝いしてました! あとカードの事も勉強して楽しかったです!」
笑顔で答えるノヴァにエルクリッドも笑顔で応えつつ遅れて来たリオとも顔を合わせ、そこへ軽く拍手をしながらハシュが近づき一同が振り向くのに合わせ口を開く。
「無事に戻ってきたみたいだな。ま、乗り越えなきゃこの先キツいだろーけどな」
快活にそう話しながらハシュがシェダ、エルクリッドと順に顔を見て腕を組むと顎に手をあてながら頷き、二人の成長を感じたのか口元に笑みを浮かべた。
と、ハシュはタラゼドの浮かない様子を感じ取り、なんとなくその理由に気づきつつも今はと自分の役目を果たす。
「君らは伝説のカード……神獣を追ってるって聞いたが、どうする? これから一緒に追うかい?」
「追うかい、って神獣をですか!?」
身を前に出しながら目を見開くノヴァにあぁと答えながらハシュが指を鳴らすと、何処からともなく飛んできた地図がひとりでに広がってノヴァ達に周辺図を見せる。
地図上のコスモス総合魔法院がある場所にピカピカと光点が点滅し、そこから南西方向に向かって光が伸び別の所を指し示す。
「ここから南西にサレナ遺跡っていう場所がある。そこはちょうど地の国との境界で、エタリラに流れる魔力の源流があるからか神獣が通る場所になっていて、近い内に神獣が通過する予想が出ている……で、十二星召の俺がその調査をするから、君らはその手伝いにどうかなって話さ」
突然すぎる提案に戸惑いはあれど、開口一番にノヴァが行きますと元気よく答えたが、軽く彼女の頭に手を置きながらエルクリッドがふと気づく違和感を口にする。
「最初からあたしらを誘うつもりだった感じがしますけど?」
「まー……結果的にってそうなるかな。ちょうど情報掴んだのが君らが来るって話と同時だったし、手練のリスナーを呼ぶにしてもーってのがあったからね」
素直に明かす事情にエルクリッド達は水の国にいる他の十二星召が浮かび、彼女らがハシュの呼びかけに対し拒否する姿は容易に想像がついた。
とはいえ求めていた神獣と遭遇できる可能性が高くなると、高揚感もあれば不安もある。それを口にするのはリオだ。
「サレナ遺跡に向かうとして、我々以外にも神獣の情報を掴んでいたり追っている者はいるはずです。最悪争奪戦に発展し、神獣とも相対する可能性もあると思われますが……」
最悪の可能性を考えた時にハシュ一人で戦わせないとしても、戦力が心許ないというのはエルクリッドとシェダも思う所ではある。修行を経たといっても十二星召とは力の差もあり、足手まといということもある。
そんな不安にハシュは心配ないと答え、浮かせていた地図を掴んで丸めながらさらに続けた。
「一応は十二星召全員に情報共有はしてあるから、誰か一人くらいは来る……と思う。クロスさんあたりは何もなければ来るかもね」
「師匠が? でも……」
「まぁクロスさんでなくてもってことさ。きまぐれでクレスさんとかが来るかもだし……とにかく人手は心配すんなって」
丸めた地図を手に快活な笑みを見せるハシュの自信にはひとまず納得し、さて、とハシュがタラゼドに目を向けタラゼドも一歩前に出た。
「タラゼドさん、転送柱を使うんで手伝いお願いします」
「えぇ、お手伝いします」
「俺もカードの整理とかをしてくるから、君らはここで待っててくれ」
そう指示を出してハシュはタラゼドと共に図書室の奥の方へと進み、それを見送るエルクリッド達は次の目的地に向けての心の準備をし始める。
そんな彼らから離れた所でハシュはタラゼドからある事を聞いていた。
「エルクリッドさんの事ですが……」
「あー……修行のそれは見てたから知ってますよ。確証はまだねぇっすけど、火の夢と関係あるかなーって」
やはり、とタラゼドは苦虫をかみ潰したような表情を浮かべ、以前に再会したクロスから聞いていた話とを合わせ何かを思案する。
ハシュもまた覗き見ていた光景を思い返し、エルクリッドが黒いカードを現出させ使用した姿や、その威力の凄まじさ、そして彼女と相対した水晶の魔物の姿とを振り返っていた。
「もし関係ありなら、放ってはおけないです。クロスさん達が活躍してた時から……あれは残ってたって事ですから」
そうですね、とタラゼドは返しながらもこれまでのエルクリッドの姿を思い返す。明るく元気で、感情表現も素直で確かな強さがある人物と。
そんな彼女がまだ知らない大いなる運命を背負っている事に、静かに胸を痛めていた。
NEXT……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます