舞台準備ーCompetitionー
第五のカード
流れる大河は等しく恵みを与え、生命は再び大河へ集い流れ行く。
等しくもたらされる恵みを求めて人も獣もやってくる。神の名を持つかの者たちもまた同じ、古より繰り返しそこへ向かい恵みを得ようとする。
天を舞う翼は静かに光をふりまきながらそこを目指す。本能に従って、あるいは何かを見定める為に。
ーー
エタリラの四大国の境界線は世界に流れる魔力の源流により分けられているとされ、そこから分岐して各地へと流れているという。
その為か源流の周辺は特別生命に満ち溢れ、強大な力持つ魔物や精霊がいる事も多く、かつて築かれた都市も彼らによって破壊され住処と成り果てている。
地の国ナームと水の国アンディーナの境界にあるサレナ遺跡もその一つ、エルクリッド達は十二星召ハシュと共に樹海に沈むその近くに訪れ、苔生した遺跡の全容を山の斜面から見下ろしていた。
「あれがサレナ遺跡……ま、めぼしいもんはとうの昔にシーカーとかが荒らしまくって何も残っちゃないけど、神獣が来るのは変わらねぇな」
そう教えながらハシュが懐から懐中時計のようなものを取り出して開き、取付けられている宝石のような玉の輝きを確かめていた。
エルクリッドが横目でその様子を見ていたが、小さくハシュがため息をついてそれを閉じて握ったので何かまではわからず、代わりに見上げていたノヴァが問いを投げかける。
「それはなんですか?」
「これは俺が作った神獣用の魔力探知機……っても、神獣の魔力の欠片が足りなくて未完成だけど」
苦笑い気味のハシュの言葉を聞いてノヴァは何かを閃き、くるりと振り返ってタラゼドを呼ぶ。すぐに意図を察したタラゼドは自身の鞄から青い欠片を取り出し、それをハシュへと手渡す。
「これってまさか……」
「イリアの神殿で見つけたものです。おそらくはあなたの装置を完成させるのに使えるでしょう」
微笑むタラゼドの言葉を聞き終える前にハシュはその場にしゃがみ、ガチャガチャと探知機と欠片とを組み合わせ始め、よしと納得の声をあげて立ち上がり再び探知機を開くと宝石の輝きがより鮮やかなものへと変わっていた。
「助かりました。嬢ちゃんもありがとな」
タラゼドに礼を言いつつぽんぽんとノヴァの頭を撫でるハシュにノヴァも微笑みで応え、探知機を見つめるハシュは小さく頷きながら南の空に目を向ける。
「神獣イリアか……まだ遠いけど、確実にここに向かってるな。他のやつよりはまだマシ、かな……」
パチンと探知機を閉じながらハシュがそう呟いて進み始め、エルクリッド達も足元に気をつけながら後に続く。
不思議な事に周囲に生き物の気配はなく、踏分けられていく木の葉の音がよく聞こえる静かな状態である。
それが神獣が向かっている証かはわからないが、警戒するに越したことはない。と、エルクリッド達の肩に力が入ったのを察してかハシュが声を飛ばす。
「まだ気張る必要はねぇよ。俺達を追ってるような奴らはいねぇし、今んとこはイリア相手になりそうだからな」
「イリア相手……って、ハシュさんは神獣の事を知ってるんですか?」
「まー、記録に残ってるワイルドカードの事は魔法院に情報あるしな……っと、ワイルドカードの説明もしといたほうがいいか」
快活に答えながらハシュはワイルドカードなる名前について触れ、お願いしますとエルクリッドが答えたのを聞いてからそのカードについて、学んだ事を思い返しながら触れていく。
「神獣やそれに近い精霊とかはアセスとは別のカードの側面を持ってて、それらはワイルドって総称されてんだ。名前の由来はよくわかってねーが、使う時にその名前を言わねーと機能しない」
ふとエルクリッドが思い出すのはイリアの神殿にて出会い、戦った謎の男シリウスの存在だ。
ワイルド発動と言って使っていたカードがあったが、それがハシュの語るカードなのだと理解し、またシリウスがそのカードをアセスとして使っていたならばと想像する。
(もしかしたら、負けてたのかも)
レモラの大群などが押し寄せたのもあって戦いは中断となったが、もし彼がそのカードをアセスとして召喚してたのならばと思うと複雑な気分にされた。
だが悪意のない相手であるのもまた事実で、協力的だった姿が印象深い。
(また何処かで会えるのかな? ま、いいか)
ひとまずシリウスの事を思案するのをエルクリッドがやめると、ちょうどハシュが神獣イリアのカードとしての特徴について話し始める。
「イリアはスペルとしてはあらゆる傷や病を治す力を持っている。それは歴史上何度か確認されている力で求められた理由であるな、で、ツールとしては聖剣の形をとって力を貸すって話だ」
「それじゃあホームカードとしては?」
ハシュの説明にシェダが質問を投げたその時、足を止めたハシュが手を横に伸ばして制止を促しエルクリッド達も足を止めつつ警戒を強めた。
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