十二星召ハシュ

 エルクリッド達が目を開けた時、そこは転送の間とは異なる景色が広がっていた。


 赤、青、黄、緑と次々に色を変える透明な泡の玉がふわふわと空へと飛んでいき、それが自分達を囲う七色の泉より発生してるものと気づく。

 泉の中央にある大理石のような島の上にいるとエルクリッド達は把握し、さらにそれがツタが絡まって壁を作る部屋の中とわかった。


「ここがコスモス総合魔法院、ですか?」


「間違いありません。ここはおそらく学び舎の後ろにある離れですね」


 エルクリッドに寄り添いながらきょろきょろと周りを見回すノヴァにタラゼドが答え、と、薄暗い通路の方から足音が聴こえ一行はやや警戒を強める。

 が、タラゼドが微笑みを見せたことでそれが緩み、やがて通路より姿を見せたのは青の衣をまとう眼鏡をかけた若者だった。


「エトモより来賓が来るとは聞いていたものの、まさか貴方までいるとは」


「お久しぶりですねハシュ。いや今は十二星召でしたね、失礼を」


 穏やかにタラゼドと話すハシュと呼ばれた人物はクセのある自分の髪を触りつつ苦笑し、十二星召が一人というタラゼドの言葉にはエルクリッドらも目を大きくしつつ彼と顔を合わせた。


「初めての人もいるようだから改めまして、俺はハシュ・ルーキアルだ。コスモス総合魔法院のリスナー指導員で十二星召の一人でもある」


 明朗快活な印象を与えるハシュの自己紹介はよく通り、かなり若いというのがひしひしと伝わってくるかのよう。そんな彼の挨拶にタラゼドが一歩前に出てエルクリッド達の方に向き直り、いつもの穏やかな笑みと共にさらに付け加える。


「ハシュは人の才覚を見抜くのに長けていまして、リスナーが会得可能な高等術の素質を見抜いて最適な訓練方法を教えられますよ」


「長けてるってほどでもないですよ。ただまぁ……なるほど、タラゼドさんが一緒にいるのはなんかわかるな」


 謙遜しつつもハシュは眼鏡の奥に見える緑の瞳を光らせ、まじまじとエルクリッド達の顔を見て何かを感じ取っているようだった。


「それじゃあついてきてくれ、俺も昨日エトモから来客予定があると知っただけで用件とかはわからないからな」



ーー


 通路抜けて外の光が眩しく、次の瞬間に目に映るのは深き森の中に佇む魔の坩堝・コスモス総合魔法院の学び舎であった。

 紫のとんがり屋根が帽子のように見える特徴的な古城にも見えるそこは、妖しくも清らかな空気に満ち溢れ異質さが静かに伝わるかのよう。


 エルクリッド達が足を止めて学舎を見てる間にもハシュは止まることなく歩き進み、タラゼドが促す形で一行の足を進ませつつ魔法院についてを丁寧に語り始めた。


「コスモス総合魔法院は古くから魔法に関する研究や知識を得る場として設けられ、リスナーの育成に関しても近年力を入れるようになっています」


「近年……それって……」


 ちらりとエルクリッドの方へ視線をノヴァが送り、それに気づいてエルクリッドもまたいいよと返し、タラゼドもその続きを話す。


「リスナー育成を担うメティオ機関が消滅してしまった事で魔法院へと赴く者が増え、その対応の為にハシュは指導員となりこちらにいるのです」


 エルクリッドにとっては育った家でもあるメティオ機関が消え、その犯人たるバエル・プレディカは何かの理由をもってそうしたとわかっても、彼を超える事に変わりはない。


 ぐっと静かにエルクリッドが手を握り締めると、それを察してかハシュが振り返って後ろ向きで歩きつつ快活に声を飛ばす。


「その手袋の紋章はメティオ機関のやつ、だな。そうか、生き残りだったんだな」


「そう、ですね。あたしは……」


「あぁそうか、クロスさんが少し前に面倒見てた子って君か。話はちょっとだけ聞いてる」


 やや俯き気味に答えかけたエルクリッドがクロスの名に反応し顔を上げ、目があったハシュが笑みを見せてから再び前を向いて歩きながら語り始めた。


「なんとなく俺が君達にすべき事はわかったな。ま、とりあえず院長のとこに案内する、話はその時な」


 そう言って辿り着く大きな扉を両手で押して開き、ハシュはエルクリッド達を魔法院の中へと招き入れる。


 

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