新たな依頼

 朝食を終えてからエルクリッド達はリオに案内され、アンディーナ国首都エトモの政治区を通り中心に立つ城の前までやってくる。

 美しき青の城は水を絶えず流し、街を育み見守るようにそびえ立つ。優しくも厳かな空気をまとう城の前でエルクリッドは深呼吸をし、重々しい音と共に開かれる城門を仲間達とくぐっていく。


「こういう場所は初めてだから緊張しますね……」


「肩の力は抜いていい、陛下に挨拶するわけではないですから」


 穏やかに答えるリオの姿は本来の騎士としての姿に戻り、それもまたエルクリッドの緊張を強めている。

 それはシェダも同じであり、わかっていたとはいえやはり肩の力は入ってしまう。


 対象的にノヴァは平然とし、働いていたことがあるタラゼドは言うまでもなく普段通りであり、エルクリッドがチラリと後ろに視線を送るといつもの微笑みが返ってきた。


「心配いりませんよ。これからわたくし達が使うのはコスモス総合魔法院とここを繋ぐ転送柱がある部屋ですからね」


「それは、まぁわかってますけど……」


 リオがいるとはいえすれ違う騎士や宮仕えの者達から視線を感じ、余計に緊張が強まってしまう。

 だがそれも目的地の為と思ってぐっと我慢し、やがて到着する部屋へと足を踏み入れる。


 たどり着くのは板のような岩がいくつも突き立っている部屋だ。澄んだ空気が立ち込め、岩も淡く光を帯びていて幻想的な姿を見せていた。


「ここが転送柱の間、アンディーナ国内の主要な場所へと瞬時に移動できる転送魔法を使う為の部屋です」


 そう言ってリオがゆっくり歩を進めて部屋の中心にある台座のようなものに触れ、指で刻まれた文字に触れていくと突き立っている岩が動き出し、その内の一つが台座の前へと移動してくる。


 さて、とリオは一度エルクリッド達の方へと振り返って目を合わせ、改めて切り出すのは今後の事であった。


「今朝話したように、私は我が国を脅かす密造カードの出処を突き止め、広めんとする組織を壊滅させ製造者を捕らえねばなりません。その為に、あなた方に協力を依頼したい」


「それはノヴァがいいよーって言ったからあたしらは従うけど……騎士団の人じゃ駄目なの?」


「昨日出会ったクレス様にほとんどの者が倒されてしまったのもありまして……それに、あなた達の実力は決して騎士達に劣る事はありません。その点は実際共にいてよくわかっています」


 まっすぐにエルクリッドとシェダを見つめるリオの瞳に曇りはなく、穏やかであり凛々しく美しい。

 そんな彼女がやや口元を微笑ませ、さらに理由を付け加える。


「私も命を助けられた恩を返しきれたと思っていません。そして、あなた方の旅を見届けたい思いもあります」


「そこまでおっしゃるなら僕達は歓迎しますよリオさん! エルクさんもシェダさんもいいですよね?」


 強い希望を持つリオに笑顔で答えるノヴァがエルクリッドとシェダに同意を求め、眩しすぎる眼差しは二人の答えから拒否権を喪失させる。

 これには少々リオも困惑し、同時にノヴァ達の後ろにいるタラゼドの視線を感じ、もう一つある事を伝え始めた。


「それから、この事も伝えておかないといけません。伝説のカード、神獣についてです」


「神獣について何かあったのですか?」


「いいえ。ですが、かのカードについて我が国をはじめとした多くの者達が注視していて、それがもし誰かの手に握られた時に正しく使われるのか? というのは把握したいとのことです」


「なるほど、確かにそれは気になりますもんね」


 五枚あるという神獣のカードの行方は大国も気になるところなのは当然だ。エルクリッドも答えつつ、それらのカードを手にする事の意味を改めて考える。


 強大な力が正しく使われるとは限らない、使われたとしても混乱の呼び水になり得て結局世界は混沌とするかもしれない。仮に自分達が手にしたとしても同じ事が言えるだろう。


 その意味でもリオが側にいて監視も兼ねる、というのは心身の引き締めには良いのかもしれない。

 そう思ってエルクリッドはリオの前に手を差し出し、リオもまたそれを握って応え互いに顔を見て微笑み合う。


「改めてよろしくお願いしまっす!」


「こちらこそ、よろしくお願いしますね」


 二人のやり取りをもってノヴァ達も同意するのを笑みで示し、手が離れると共にリオが移動させた転送柱の前へと歩きエルクリッド達もリオを囲うように等間隔に立つ。


「ではこれよりコスモス総合魔法院に向かいます」


 転送柱にリオが手を触れて目を閉じると足元から光の陣が広がり、魔法陣を画きながらエルクリッド達の所まで広がった。

 何処からか静かに風が吹き、柔らかな光が天井の方から降り注ぎ始め、息を吐いて精神統一をしたリオが目を開くと共に一息で詠唱を力強く言い切る。


「刻まれし道標に誘われ我らが向かうは未来を育む魔の坩堝!」


 魔法陣が閃光を放ち消えたと同時にエルクリッド達の姿は転送柱の間から消え、再び静寂に包まれる部屋の中ではひとりでに転送柱が動いて元の位置へと戻るのだった。

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