十二星召クレス
水の国アンディーナ首都エトモにて、エルクリッドとシェダは十二星召クレスと邂逅を果たし戦いに挑む。
エルクリッドは
静かに海風が吹き抜け、止んだと同時に先手を仕掛けたのはディオン。目にも止まらぬ速さで距離を詰めてクレスの眼前で姿を消し、背後から一気に仕掛ける。
これに対してクレスは反転しつつ左手で右手首のカード入れに手をかけ、同時にアンセリオンを振るってディオンの一撃を受け止めそのまま押し返す。
(このディオンの一撃を押し返すとは……並みではない)
着地しつつディオンがクレスの腕を分析する刹那、スパーダも駆け出してクレスに挑みかかり即応する彼女と鍔迫り合いとなって刃同士が火花を散らす。
(魔剣に呑まれてるというわけではない……むしろ精神力でねじ伏せて従えている。こんな人がいるとは……)
「スペル発動アクアバインド」
魔剣アンセリオンを扱うクレスが正気であるのを感じつつ、彼女のスペル発動にすぐさまスパーダは距離を取り足下から発生し捕えんとした水流を避け、だがすぐさま切り込むクレスの突き出す一撃を脇に受けて鎧を破損させてしまった。
そのまま真一文字に両断されかけるも大剣で強引に弾いて防ぎ、ディオンもその瞬間にクレスに素早い槍の連突つを仕掛けるも全て防がれ、避けられ対処されてしまう。
「骨のあるアセスとやるのは久方ぶりだな……少しは褒めてやる」
特別手が痺れている様子もなく、息もあがっておらず、凛とした態度を崩さず、クレスは静かにカードを引き抜く。
リスナーである為にカードを使うのは当然のこと。エルクリッドとシェダはアセス二人を相手に余裕のクレスの実力の高さに冷や汗を流す。
「強い……全力でやらないとほんとマズイかも」
「そうだけどよ、いいのかよ、ホントに」
アセス同士ならまだしも、やはり慣れていないのもあってリスナー本人だけを狙うような戦い方に躊躇いはある。
と、クレスが二人に向かって走り出し、すぐさまスパーダとディオンが立ちはだかって攻撃を繰り出すもそれは空を貫くのみ。跳躍して二人を飛び越えたクレスがエルクリッドの眼前まで来て首に剣をあっという間に突きつけてみせ、次の瞬間にはシェダの方にも剣を向け鋭く睨みつけていた。
「これでお前達は一度死んだ。戦いにおいて相手への情けなど無用、それがいかなる相手だろうとな……仕切り直しだ、アセス共を召喚し直すがいい」
思う事も許されないような威圧感と、戦いにおける覚悟の差を思い知らされエルクリッドとシェダは言い返せなかった。
踵を返すクレスが堂々とスパーダとディオンの間を通り抜け、二人もまた、その実力と主たるリスナーを守り切れなかった点で敗北を受け入れ、自らカードへと姿を戻す。
力も技も、心も圧倒的なクレスには戦いを見守るノヴァも戦慄するしかなく、張り詰めた空気に身体が震えてしまい何とか深呼吸をして心を落ち着かせる。
「強い、ですね……これまで何人か十二星召の方ともお会いしましたが、クレスさんはその方達とは纏うものが違うというか」
「クレス様はあぁ見えてとてもお優しい方です。誰よりも失う辛さを知っている……せめて自分の大切なものを守る強さくらいは身につけろ、ってよく言いってますしね」
共に戦いを見守るクレスの付き人ユーカの言葉の意味は、ノヴァも何となく理解することができた。
ゆっくりと元の位置へ戻るクレスの後ろ姿は何処か哀愁を帯びていて、ユーカの言うように優しい人間、というのも嘘ではないと思える。
「スペル発動アイスボルト」
と、クレスがおもむろにスペルを発動し、ユーカの上方から氷柱が落ちて眼前に突き刺さり、紙一重であたりはしなかったがノヴァも肝を冷やす。
「余計な事を話すな、お前も叩き切るぞ」
「も、申し訳ありません!」
謝るユーカに対する言葉も目つきを見聞きしつつ、エルクリッドはノヴァとユーカの話から自分の目指すものとクレスの思想が近いと思い、両頬をぱんっと叩いて気を引き締め直す。
(この人の姿勢は、あたしが目指す姿の一つかもしれない……同じではなくても、何か、わかるかもしれない)
守る為の強さ、弱かったが故に何もできなかった思いは心身が覚えている。もう二度と同じ思いをしない為に、そして今ある大切なものを守る為にと、エルクリッドの目に光が灯った。
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