戦札研鑽

 実質的敗北によりクレスとの戦いは仕切り直す形となる。

 エルクリッドはカード入れに指先を触れながらどう戦うかを思案し、息を吐きながら集中力を高めていく。


(スパーダさん、ごめんね)


(お気になさらず。私もあれほどの手練とは想像ができませんでしたし、エルクが無事ならばそれで構いません)


 クレスはスパーダと鍔迫り合いをする腕力と攻撃を避けエルクリッドを狙う判断力、それらを確実にこなせるだけの冷徹さと覚悟の強さを持つ。

 カード入れも自身が戦う関係で小型のものを両手首、両脇、両足の六ケ所に分けており、戦いながらもカードを引けるように工夫をこらしている。


 彼女の言葉を使うならばアセスか自身がやられればそれで終わり。先日リオの命を狙わんとしたトリスタンが戦わずしてリスナーを無力化する密造カードを用いた事も考えると、今までのようにアセス同士の戦いのみならず、自分の身を守ったり相手に攻め込むといった動きも知らなければならない。


「もう一度お願いします、スパーダさん」


 再びエルクリッドはスパーダを召喚し、合わせるようにシェダも静かにディオンを召喚し直す。

 それにクレスは特段表情を変えたりはせずに静かに剣とカードをそれぞれ手に持ち、刹那に石畳を蹴って一気に駆け出した。


 対するディオンも即応してクレスの前へと向かい、すれ違いざまに両者の武器が閃き頬を小さく切り裂く。


「ツール使用、俊馬の臑当グリーブ!」


 シェダが使用したツールカードによりディオンの膝下が一瞬光り、羽根を持つ白金の臑当グリーブが装着されるとクレスが振り向くより速くディオンは距離を取り、すかさず一気に魔槍を突き出しながら攻撃を繰り出しクレスを防御ごと後退させる。


(速さを上げるツールと、その勢いを利用しての攻撃か……)


 淡々と攻防を分析しつつ背後から迫るスパーダの一閃に素早くクレスは反応して回避し、反撃はせず視界にディオンを入れつつ数歩下がってカードを入れ替え魔力を込めた。


「スペル発動アイスフォール」


 一瞬の寒気と共にスパーダとディオンの上空に小山程の氷の塊が現れ、次の瞬間に落下し襲いかかった。

 間一髪避けられはしたが巻き上がる冷気と氷の破片が闘技場の視界を塞ぎ、刹那にスパーダが冷気突き抜け切り込むクレスと鍔迫り合う。


 激しく刃同士が音を立て、次の瞬間に互いに後ろへ跳びながら剣を素早く振るって浅く切り傷を付ける。

 次の瞬間にスパーダを盾に跳躍したディオンがクレスを捉え、身体を大きく捻りながら魔槍を投げつける構えを見せた。


黒雷突貫アグレシオン……!」


 黒き光を帯びた魔槍が投げ放たれ、次の瞬間に音を超えてクレスに向かいそのまま刺し貫くと黒色の衝撃波が発生し石畳を凹ませ粉砕する。


 勝負あった、かに見えた瞬間に土煙の中より無傷のクレスが剣を振り抜く構えでディオンへと迫り、武器を失い無防備な状態の彼へシェダの支援が入る。


「スペル発動プロテクション!」


 薄い膜がディオンに張られて守られると思った瞬間、振り抜かれたクレスの剣がディオンを切り裂き鮮血を宙へ舞わせ本人達を驚愕させる。

 それでもディオンは歯を食いしばり、空中にいる状態から足を振り上げてクレスを蹴り飛ばし、落下しカードへと戻るも最後まで闘志を見せた。


「ありがとなディオン。エルクリッド、あとは頼む、ぜ」


 色彩を失ったディオンのカードに礼を述べるシェダの身体にディオンの傷が反射し、同じ場所についた切り傷から血が飛んで膝をついた。

 一瞬エルクリッドは支えようとしたが、ぐっと堪えてカードを引き抜き着地間際のクレスの隙を狙う。


「スペル発動ウィンドフォース! スパーダさん!」


 黄色の光を纏うスパーダが両手で大剣を持ってクレスに向かって走り、足をつく前に剣を突き出しクレスを刺し貫きに向かう。


 だがここでエルクリッドとスパーダは、自ら戦うリスナーの底力を思い知らされる。

 避けられないと判断するや否やクレスは逆に剣を振り上げ、スパーダの大剣の切っ先とぶつけると、その際の勢いに負けた反動を利用し後方へとはね飛ばされて突きを回避したのである。


 さらに、空中へ回りながらはね飛ばされる最中にカードを引き抜き、しっかりと見上げるスパーダを捉え反撃に転じた。


「スペル発動、アクアカース」


 僅差でスパーダが回避する間もなく淀んだ水が足下より広がり、一瞬の閃光と共にスパーダは全身が重くなって膝を折りかけた。

 アセスに対する弱体化を行うカース系スペルを使った所から、次で決めるつもりと察しエルクリッドもそうはさせまいとカードを抜く。


「させないっ! スペル発動デュオガード! セレッタ、ダイン、力を貸して!」


 発動したカードより青き水馬けるぴーセレッタと、聖犬チャーチグリムのダインの姿を象る光がスパーダへと向かい、彼女の周囲を取り囲む結界となって守りを固める。


「アセス二体をダウン状態にする代わりにプロテクション以上の防御結界を張るカードか……面白い、正面からねじ伏せてやろう」


 そう言って着地するクレスがさらに数歩下がって剣を下に向けながらカードを引き抜き、金枠の猛吹雪が描かれたカードを手に魔力を込め、そして静かに口を開く。


「我望むは永久の氷結、汝へ贈るは葬送に誘う零度の息吹……!」


(魔法詠唱? でもリスナーは魔法は使えないはず……?)


 クレスが口ずさむ言葉は反響しながら彼女を中心に風を起こし、それがリスナーが使えぬ魔法詠唱とエルクリッドは思いその意図が読めなかった。

 だが、これまでの経験がそれは危険と判断しカードを引き抜く。が、一瞬の迷いが僅差で後手となってしまう。

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