第20話_第一部・終 鐘、二度鳴る
4月16日、深夜0時。
冷たい風が吹き抜ける桜丘市庁舎の屋上。〈鏡界〉の層がそこに重なり、空は禍々しく歪んでいた。赤と青が混じったような夜の帳が、都市の灯りをゆがめて飲み込んでいく。
〈共鳴隊〉のメンバーは、その頂に集結していた。
「もうすぐだ……“二度目の鐘”が鳴るタイミングだ」
祥平が誰にともなくつぶやいた。眼前にそびえる鐘のような構造体は〈鏡界層〉の中心に出現した“感情の共振端末”。六十日に一度、世界の均衡が計られるという《六十重ノ鐘》のひとつだった。
「今回は……止められるの?」
瑠美が、不安げに問いかける。
「〈零視点〉の連中が先に動いてる。奴ら、装置を起動させようとしてるはずだ」
優也が拳を握りしめた。
その時だった。
――ゴォォォォン……!
空気が震え、地面が揺れる。耳をつんざくような重低音が、どこからともなく響き渡った。
「鳴った……これで、二回目……!」
彩心の声が震える。
「くそっ、間に合わなかったのか!?」
翔大がギアの調整を中断し、振り返った。
直後。
市庁舎の屋上に、赤黒いエネルギーの柱が立ち上がった。
「っ、あれは……!?」
〈零視点〉――拓巳、利奈、凌大、かすみの4人が、塔の反対側で巨大な装置を操作していた。
「鐘を止めるんじゃない、“次の段階”に進める気か……!」
千紗が顔を歪めて叫ぶ。
「そうだ!世界はもう手遅れなんだよ!だから……だから一度、全部終わらせて、俺たちで作り直すんだ!」
拓巳の声が風に乗って届いた。その声は震えていた。恐怖か、覚悟か、それとも――後戻りできない自分への言い訳か。
「違うよ拓巳!まだやり直せる、間に合う……!」
かすみが叫ぶ。けれど、もう彼らの手は止まらなかった。
「回路過熱!制御できてない!停止コードが入らない!」
利奈が鋭く声を上げる。凌大が顔を歪めてコードを引きちぎるが、装置は止まらない。
「跳ねるぞ、離れろ!全員伏せろ!」
祥平の叫びと同時に、〈零視点〉の装置が炸裂した。
赤黒い閃光が市庁舎の屋上を覆い、全員が地面に叩きつけられる。風が、空が、現実そのものがぐにゃりと曲がって、〈鏡界〉との境界線が一気に広がった。
「……みんな、生きてるか!?」
煙の中、必死に手を伸ばした祥平の指先が、彩心の肩に触れた。
「……問題ない。……多分」
彼女は立ち上がり、理論結界を周囲に展開。瓦礫の崩落を防ぐ。
瑠美がうめき声を漏らしながらも、仲間たちに駆け寄っていく。
「利奈が……重傷っぽい。翔大、応急ギアで出力制御して!」
「任せろ!座標転送ユニットは……生きてる!」
優也は全身から血を流しながらも、利奈のもとに駆け寄り、拓巳と凌大は無言で倒れていた。
……そして、鐘は鳴りやんだ。
ただ、確かに一つだけ言える。
「世界はまだ……終わってない」
祥平が、煙の中でそう言った。
その言葉は、次なる戦いの始まりを示していた。
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