第41話 日本への帰国

栞とは距離はあるものの、今までにないほど落ち着いた気持ちで交際を続けている。


私たちは幸せの真っただ中にいた。


落ち着きのない私は、あれから3度、アメリカへ行った。

本当はもっと会いに行きたかったけど、やはり距離が壁になる。


まとまった休みがとりずらいので、行き帰りに時間ばかりかかって、実際に会えても1日か2日くらい。


私たちはそれでも、僅かでも会えることに、幸せを感じていた。

お互いを思い合う気持ちが同じくらいだと、言葉を交わさなくても、分かり合える。会うたびに、愛が大きくなっていくのを実感していた。


月日が過ぎるのは早いもので、もうすぐ、栞は卒業する。この間の話では、もう直ぐ、こちらへ帰ることを決めたらしい。


「悠ちゃん

俺、そっちに帰るから。」


「そうなの?よかった。アメリカで就職するって言われたら、どうしようって思ってた。」


「そうなったら、悠ちゃんをこっちに呼ぶよ。

そしたらずっと一緒でしょ。」


「プロポーズみたいね」


「そのつもりだけど」


他愛のない話。だけど嬉しかった。アメリカへ移住するのもいいかも。


言葉はよく分からないけど、栞と居れるなら。誰にも気兼ねなく、2人で手をつなげるなら。


私はよく、向こうでの生活を妄想したりしていた。

それは、それで、とても幸せなものになるだろうと、思ってもいた。


栞の話では、こちらに帰ったら、家業を手伝うらしい。


よく考えたら、私は知らなかったことが多い。最近では、驚く事が多いのだけど、彼からは、今までには聞かなかった、家の話を聞くことが増えた。


栞の親族は、学校を経営しているらしい。

幼稚園・高校・大学が敷地内に一緒にある、かなり大きな学校。

地元では、けっこう有名な私立学園。


お爺さまが大学の学長を務め、お婆さまが幼稚園の園長。栞のお父さんは高校の校長。


栞には兄弟がいる。双子なのかな?

同じ年齢の弟は、その大学を、浪人2年を経験し、2年生を二回していることもあって、まだ大学生だけど、そのうち彼が継ぐことになるだろうから、栞は、家業を手伝う気は無かったたらしい。

しかし、大学卒業が決まったころ、お父さんの強い希望で、戻って手伝うように!!と話をされたらしい。


複雑な内容らしいので、踏み込んでは聞いていない。聞くべきではない気がしたから。

栞が話すことだけを、只、聞いていた。



まあ、私はどんな理由でも、栞が会いたいときに会える距離に帰ってきてくれることが、何より嬉しかった。だから、日本に帰る理由なんて、どうだってよかった。


栞がどのような職についても、どんな家柄でも、何も気にならなかった。

今、そこに居る彼が、私を愛してくれているという事実だけで、満たされていたから。


とにかく、その日が待ち遠しい。

毎日毎日、指折り数えていた。まるで子どものように、待ち遠しくてドキドキしていた。


彼は無事に卒業した。


首席卒業。賢い人だとは感じてはいたけど、流石だと思った。


そして、帰国の日が来た。


やっと愛おしい人に会える。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る